第六話追剥ぎ
「……ん、あれは……」
しばらく歩いて空が白んでくると、道の先から複数が隊列を組んで歩いている何かの気配を感じた。
肉眼ではまだ米粒ほどにしか見えないが気配は感じ取れる。
何かの隊列は前衛に三つだけでおそらく馬か何かに騎乗している様だ。
その後ろにおそらく馬車に乗った気配が二つ……いや三つか。
「……足は……遅いな……」
隊列を組んでいて馬に乗っているということは人かな。
んで少数の護衛で足が遅いということは個人経営の商人かな。
ということは先ほど手に入れた結晶の事を聞けるかもしれなしれんな。
やっと商人と思わしき人たちの人影がハッキリ見えてきた瞬間。
商人と思わしき人たちの隣に複数の五眼の狼の気配が現れた。
護衛と思わしき三人は即座に対応して迎撃しようとしているけど……これは数が違い過ぎる。
あっという間に五人は狼に殺されたようで気配が消えた。
「……残っている気配は……十一……いや十二匹か……」
俺は歩みを止めずそのまま馬車に近づく。
馬車の周辺には夥しい量の血で馬車と道が紅く染まっていて、馬と人と思わしき死体があった。
馬は既に骨だけになっており人の死体は現在狼たちに貪り食われている。
「……ふむ、この数を一々斬るのは面倒くさいな……脅したら逃げるかな……」
俺は狼どもに向かって威嚇の殺気を放つ。
すると。
バタ、バタバタバタ
という音と共に狼どもが全員口から赤い泡を吐きながら地面に斃れ伏せた。
まだ、ピクピク動いている所を見るに気絶か。
「……強すぎたかな……」
脅して追っ払おうとしただけなんだけどな。
と思いながら止めを刺すため『圧切』を抜こうとすると。
ピキ、ピキピキピキピキピキ、バスンバスンバスン……
という音と共に斃れ伏せた狼どもが全員砕け散り砂になった。
……死んでいたのか。
「……こ、これは無闇に殺気を放てんな……」
人通りが多い所なら殺気を放っただけで大量虐殺をやっちまう。
俺は少し呆然としながらも砂の中から結晶を取りポーチの中に入れていく。
「……さて、と……」
そう呟き俺は狼に喰われた五つの死体の傍に近づく。
五つの死体は服を食い破られほぼ骨だけになっていた。
俺は死体に手を合わせ冥福を祈り。
「……さて、追剥ぎするか……」
使える物は使わないと後で困るからな。
そう心の中で言い訳をしながら俺は五人の死体からまだ使える物を剥ぎ取る。
五つ死体が持っていた物は大半が壊れていたり砕けている物だったが使える物も少しはあった。
おそらく馬車の荷台の鍵の束と、おそらくこの世界の通貨と思わしき銅貨420枚と銀貨30枚だ。
「……それじゃ、墓を作るか……」
俺は剥ぎ取った物をポーチの中に容れ、死体引きづり草原の方へ歩く。
10m程死体を引きずったまま歩き、草原に死体を下ろす。
そして地面に跪く様に手を当てて。
「……むん……」
という掛け声と共に地面を圧すと。
ズン
という重音と共に周囲の地面が盛り上り壁のようになった。
実際は俺の周囲の地面が陥没してその分の土が壁のようになっただけなんだがな。
俺は死体をその場に残し壁を跳び越えて向こう側に着地して。
「……はっ……」
という掛け声と共に壁を圧すと。
ガゴン
という重音と共に壁が内側に倒れ陥没した所を埋めた。
俺は土がまだ若干盛り上がった簡易の墓に護衛の三人の持ち物である剣と槍を付き刺し墓標にしてもう一度今度は墓標に冥福を祈る。
暫く祈ってから俺は墓から立ち去り、馬車の荷台へと歩いていく。
ガチャガチャ、ガチン
俺は馬車の荷台の南京錠?の鍵を外し扉を開けて中へ入る。
馬車の中には大きなガラス棚と三つの木箱が置いていた。
その他にも空箱や空樽が荷台の至る所にある。
「……仕入れに行くところだったのかな……」
そう呟きながら俺はまず棚を覗く。
棚には様々な形の瓶が置いてありその中に緑や紫などのカラフルな色の液体が入っていた。
瓶にはその瓶の事を書かれた羊皮紙が張ってあったが俺には読めなかった。
その後棚にある引き出しも漁ってみるが出てきたのは羊皮紙の束と何かの草(おそらく薬草かな)しか出てこなかった。
俺は羊皮紙と草を引き出しに戻し次に木箱を開けてみる。
一つ目の木箱には麻袋が三つ入っていてその中に銅貨9580枚と銀貨2570枚と金貨1000枚が入っていた。
「……おお、結構あるなぁ……けどこの量は運べんな……」
取り敢えず硬貨は置いといて二つ目の木箱を開けると、中には二つの黒い腰袋(ポーチ?)と一枚の羊皮紙だけが入っていた。
「……あれ、これだけ?……」
思わずそう呟いてしまいながら俺は羊皮紙を手に取る。
が、やっぱり文字は全然わからなかった。
まぁ荷物を入れるのに苦労はしないかな。
俺は羊皮紙を木箱に戻し、木箱から二つの腰袋を取り出し他の木箱の上に置く。
「……さて、最後っと……」
そう呟きながら俺は三つ目の木箱を開ける。
木箱の中には緩衝材が一面に敷き詰められている。
俺は緩衝材を木箱から出しながら中の物を探す。
コツン
「……っと、あったあった……」
俺は木箱から中にあった物を取り出す。
取り出した物は10㎝程で翆色の裸の少女の石像だ。
少女の石像は顔の彫りから背中を流れている長い髪から背中の薄い虫の翅のようなものまで精密に彫られていた。
「……ほう、凄いな……」
そう呟き俺は石像を他の木箱の上に置いて硬貨が入った木箱へ歩いて行く。
「……さて、入れるか……」
俺は麻袋の中の金貨を先程入手した腰袋に入れていく。
しばらく黙々と金貨を入れていたのだが。
「……あれ、重くならない……」
腰袋には既に50枚ほどの金貨を入れたのだが一向に重くならないのよ。
疑問に思って腰袋の中を覗いてみるが、中は真っ暗で何も見えない。
「……ふむ、何なんだろう……」
多分先ほどの羊皮紙に説明が書かれているんだろうけど読めないしなぁ。
「……まぁ、大丈夫だろう……」
そう結論付け、俺は金貨に続き銀貨と銅貨も腰袋に入れていく。
結局俺は銅貨100枚と銀貨10枚と金貨1枚をポーチに移し、残りの硬貨を腰袋に入れた。
う~む、この腰袋一つだけで全部の硬貨が入っちゃったよ。
どんだけ要領があるんだよ。
「……まぁ、いいか……」
そう呟き俺は薬品と思わしき瓶と羊皮紙を全てもう一つの腰袋に入れてから、二つの腰袋をベルトに付ける。
ついでに腰袋と一緒に入っていた羊皮紙を軍用コートの内ポケットに丸めてから入れる。
そして、石像も薬品を入れた腰袋に入れる。
「……さて、他にはないかな……」
そう呟き俺は周囲を見渡し他に取れる物はないかどうか見るが。
「……ない、な……」
俺は空箱に注意しながら馬車から出る。
外はやっと太陽が昇り切った様でサンサンと日光を降り注いでいる。
俺は墓の方を向きもう一度冥福を祈る。
そして、馬車をそのままに俺は再び道を歩き出す。
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