第三話狭間の世界
少年は歩く。
ただひたすらに歩いていく。
大地も蒼穹も無い。
真っ白な世界と世界の狭間を歩いていく。
《少年side》
あれから。
『地獄』に堕ちてからどの位の時間が過ぎたのか俺はもう覚えていない。
既に思い出せるのは俺の名とあの世界の僅かな知識とあの世界から『地獄』に堕ちた瞬間の出来事だけ。
あの世界での他者の顔も名前も出来事も忘れてしまった。
だが俺はそれでもいいと思う。
人は思い出を忘れるのは必要なことだからだ。
必要でないなら忘れることは無いのだから。
それに必要になったら思い出すさ。
人はそんな風に出来ているのだからさ。
『地獄』での出来事は鮮明に思い出せる。
堕ちた時、最初に襲い掛かってきた化物を見て泣け叫んだこと。
よく覚えていないが返り討ちにし殺し、喰らい、取り込んだこと。
罪なき魂たちから生前の知恵と技術を受け継いだこと。
化物どもの7つの王を返り討ちにし殺し、喰らい、取り込んだこと。
自分の異能の力を使い武器を鍛えたこと。
罪なき魂たちを解放したこと。
そして、1つの堕神を。
『地獄』そのモノを殺し、喰らい、取り込んだこと。
そして今、俺は『地獄』から脱出し、世界と世界の狭間を彷徨い歩いている。
在るかどうかも分からない出口を求め。
この真っ白な狭間の世界を彷徨い歩く。
歩く理由は唯一つ。
全ては生きるため。
《side,out》
少年は歩く。
無限に広がる真っ白な世界と世界の狭間の世界を。
ただ生きるために。
ただ生きるために少年は歩き続けた。
それはもしかしたら100年かもしれない。
それはもしかしたら10年かもしれない。
それはもしかしたら1年かもしれない。
それはもしかしたら1か月かもしれない。
それはもしかしたら1週間かもしれない。
それはもしかしたら1日かもしれない。
それはもしかしたら1時間かもしれない。
それはもしかしたら1分かもしれない。
それはもしかしたら1秒かもしれない。
少年は歩き続けた。
少年は彷徨い続けた。
そして。
少年は門を見つける。
少年は門を見上げる。
それは見る者によっては死者の門であろう。
それは見る者によっては聖者の門であろう。
少年は門を見据える。
少年は門を両手で触れる。
少年は呟く。
「俺は何があろうと諦めない。俺は納得いくまで絶対に生きてやる」
少年は門を押す。
少年は門を開ける。
門からは膨大な力のある光が溢れだす。
真っ白な狭間の世界を膨大な力のある光が更に白く染め上げる。
少年は膨大な力のある光に臆せず光の中を突き進む。
そして。
少年は狭間の世界から消えた。
門は閉じられ膨大な力ある光も消えた。
真っ白な狭間の世界に静寂が舞い戻る。
真っ白な世界と世界の狭間の世界。
そこは人々が考え、畏れ、恐怖し、そして創造《想像》した『地獄』を神が利用し創った世界。
そこはたった一つの存在を閉じ込める為の世界。
そこは魂の牢獄。
そこは魂の監獄。
そこへ入れる存在は誰もいない。
そこから出られる存在は誰もいない。
ただ。
1つの少年のような存在を除いては。
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