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想いは届かない

作者: ありま氷炎
掲載日:2026/05/08


 気が付いたら好きになっていた。

 その思いは強くなる一方で私を苦しめた。


 だけど彼が見つめているのは私ではない。


 わかってる。

 私の横にいても彼が見つめているのは彼女だってこと。

 お父様に頼んで彼を婚約者にしてもらった。


「……俺はきっとあなたのことを好きになれません。それでもいいのですか?」


 本当に彼は馬鹿だと思う。

 正直に気持ちを吐露した。


「知ってるわ。私はあなたを彼女に渡したくないの」


 彼は彼女に想いをまだ告げていない。

 だから、彼女は気づいていない。

 

「俺はあなたの夫になりましょう。だからどうか、彼女のことは放っておいてください。彼女は俺の気持ちを知りません」

「ええ。わかったわ。だけど、もしあなたから彼女に接触したら、私は何をするかわからないわ」

「俺から彼女に接触することはありません。誓います」


 彼は私の夫になり、王位を継いだ私の隣で王配として采配を振るった。

 子を作ることは義務だった。

 彼はそれを拒否した。

 頭に来たけど、私は結局許した。


 数年たって、彼女は結婚して、子を産んだ。 

 それは彼の髪色と目の色をした男の子だった。

 

 裏切られた。

 私はそう思い二人を処刑した。

 余りにも感情的な措置で、のちに彼たちの無実が暴かれ、私は臣下に裏切られて処刑された。


 当然ね。

 私は間違っていた。

 彼は私を裏切らなかった。

 彼女は彼によく似た人と結婚していた。

 彼女も彼を好きだったかもしれない。

 だけど、二人は接触を一度もしてなかった。


 それなのに、私は不貞と決め付けた。

 狂うほど彼を愛していた。


 ★


 王女はとても我儘だった。

 俺は彼女がとても苦手だった。

 だけど、彼女に選ばれたのは俺だった。

 好きな人がいた。

 想いもまだ告げられていない。

 隊長の娘さんだった。

 可愛らしい、小さな花のような可憐な女性だった。

 王女が禍々しい真っ赤は薔薇だとするなら、彼女は真っ白な雛菊のようだった。


 王女が俺のことを気に入っていると知って、俺は彼女への想いを断ち切ろうとした。

 まだ声もかけたことがなかったし、簡単に諦められると思った。

 王女の護衛騎士になり、いつも傍にいることになった。

 堂々とした美しい女性、一緒にいると緊張した。

 だから逃げるように視線を泳がせた。

 その先にいるのが、侍女をしている彼女であることを多くて、癒された。

 王女の護衛騎士になって、半年で、俺は婚約者に選ばれた。

 身分的に釣り合っていない。

 だけど、王女のたっての希望で、俺は彼女の婚約者になった。

 王からの命令だ。

 歯向かえるわけがない。

 そして結婚。

 王の崩御により、彼女が女王になり、俺は王配。

 王配になり、やっと俺は彼女と向き合うようになった。

 重圧はとても重く、その責任を少しでも負担したいと思った。

 王女から女王になり、彼女はますます輝いた。 

 それでも彼女は俺を愛してくれた。

 だけど、俺は彼女を抱くことができなかった。

 自分の想いが何かわからなかったからだ。

 そうしているうちに、雛菊の彼女が結婚して報告を受けた。

 生まれた子は、俺の髪の色と目の色と同じだった。

 女王は俺を詰った。

 俺は自分の潔白を訴えた。

 けれども、彼女は俺を信じてくれなかった。

 そして、雛菊の彼女と一緒に処刑された。

 

 ★


「……復讐ですか?」


 彼女は聞く。


「ああ」


 俺は答える。


 俺たちは生まれ変わった。

 今度は俺が王族になった。

 彼女を血眼で探して、婚約者にした。

 怯えた目で彼女は見た。

 女王だった時には見たことがない表情で俺はおかしかった。

 一度だって、俺は彼女を裏切らなかった。

 だけど、彼女は俺を信じず、裏切った。

 

 ★


 やはり、彼は復讐をする気だった。

 仕方ないと思う。

 生まれ変わったのは、百年後の世界。

 国名は代わり、治めている王族も聞いたことがない名前だった。

 私は男爵令嬢として生をうけ、身をわきまえて生きてきた。

 男爵令嬢なんて、彼女と同じでおかしかった。

 社交界デビューで初めて王宮にあがった。

 王宮は建て替えられることはなく、すべてが同じだった。

 目線が変わればとても新鮮に思えた。

 王太子として紹介されたのか、彼そっくりの人だった。

 私を視界に入れたとたん、彼の表情が歪んだ。

 それまでの柔和な笑みが、冷え冷えしたものに変わった。

 彼は私を婚約者にした。

 男爵令嬢なんて釣り合わないのに。

 まるで、私がしたように無理に私を婚約者にした。


 彼は私に復讐をしたいようだった。


「俺は忘れない。あなたが俺を裏切った」

「ええ。あなたの潔白を信じなかった。許しがたいことでしょうね」

「その言いかた、本当にあのままだ」

「……無礼を詫びます。王太子殿下」


 思わず、前の記憶に没頭しすぎて、今の立場を忘れてしまったようだ。

 だけど、これは彼にとっては都合がいいかもしれない。


「不敬罪で投獄しますか?どうか、両親や家には処罰を与えないようにお願いいたします」

「投獄、そんなことするわけない」

 

 彼は不思議そうな顔をした。



 彼女はやはり変わっていなかった。

 苛立つけど、なんだか妙に懐かしい。

 不敬罪で投獄するかと言われた時は驚いた。

 そんなことで投獄するわけがない。

 不貞を働いたとかじゃないのに。


 さあ、どうして彼女を苦しめようか。

 裏切ら、首を切られた俺の恨みをどうして晴らそうか。

 俺は、彼女を裏切らなかった。

 雛菊の彼女のことなんて、王配になってから考えたことがないのに。

 彼女は俺を信じなかった。

 あの時の絶望を彼女に味わせたい。

 でもどうやって?

 今の彼女はきっと俺のことを好きじゃない。

 俺が何をしたところで、彼女が絶望することはないだろう。

 それは少し寂しい。 

 そんなことを思う俺は少しおかしい。


 俺は彼女に好かれたいのか。

 

 

「もしかして、私のこと好きですか?」

「……それはない」

「そうですよね」


 自惚れだったみたい。

 自分を殺した相手を好きになるわけがない。

 しかも私は彼と無理やり婚約し、結婚した立場だ。

 今の私のように。

 今の私は好きな人なんていなかったから、いいけど、前の彼は違った。

 


 自分のことを好きかって聞かれて、驚いた。

 そこまで自惚れいるなんて。

 でも聞いた後に少し恥ずかしそうだったから、ちょっと可愛いと思ってしまった。

 今の彼女は傲慢なところがない。

 男爵令嬢として慎ましさを持っていて、少し恥ずかしがり屋みたいだ。



 彼のことが好きだった。

 だから、私は狂った。

 今の私は違う。

 だけど、彼に見られるとやっぱり鼓動は早くなる気がする。

 心なしが頬が少し赤らんでいる気がしているのも恥ずかしい。

 前の私は、狂うまでは気持ちを制御できてたし、表情に現れることもなかったのに。



 復讐したかったはずなのに、今はそんな気持ちが持てない。

 俺は、彼女に好かれたい。

 前の彼女もそう思ったのかもしれない。



 彼はやっぱり私のことが好きなんだろう。

 どうしてかわからないけど。

 私は、どうなんだろう。

 今の私の気持ちがわからない。

 前の彼もこんな気持ちだったのかな。



「俺の妃にやはりなってくれ。あなたが俺を好きになれないことは知っている。だけど、俺は誓う。絶対に裏切らない」

「今やっと私は、前のあなたの気持ちがわかる。今のあなたを好きになれるかはわからない。だけど、今度は私はあなたを裏切らない」


 私たちは今世も結婚した。

 彼はのちに王になり、私は王妃になった。

 子供にも恵まれて、私の中の前の私は微笑んでいる。

 幸せそうに。

 届かないと思っていた想いは、時を経て彼に届いたのだ。


 

 


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