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(後編)

 工場の仕事があやうくなって、父さんは毎日、出かけなくなった。


 そう思ったら今度は工場が二交代制をはじめた。

 父さんには選びようが無かった。


 父さんは車の部品を作っている。なのに今は車を同じ工場仲間と相乗りで出るようになった。燃料を工面しているんだよ、と父さんは云った。


 空の飛行機雲は相変わらずあった。


 それは朝に良く起きた。夕方もあった。夜中にも起きた。星空が塗りつぶされて消えていた。


 毎朝、少年は飛行機雲の数を数えていたが、やがて数えることをやめた。


 新聞は薄くなった。紙が小さくなった。インクの文字がかすれだした。紙はますます、ざらざらになった。


 その頃、父さんの工場は三交代制になっていた。父さんと少年の時間がズレはじめた。


 少年が学校から帰宅すると、居間のソファで父さんが疲れ切った様子で寝ているのを見るようになった。


 お金はあっても、マーケットの棚は空っぽだ。

 欲しいものが買えない。買いたいものが置いていない。

 庭の鶏も、羽根がなんだかしおれて見える。卵はいつもあるとは限らなかった。


 ある朝、山の向こうの空が白く光る。

 それから、なにか大きなものを落としたような音が追ってきた。


 父も外に出てきた。少年に倣って山の向こうに目をやった。それから少年の手から新聞を抜き取ると、家の中に戻っていった。


 翌朝も少年は朝刊を取りに外に出た。


 少し湿った朝の空気を吸い込んで、空を見上げる。


 ふと、少年は気がつく。空がからっぽだ。


 いつかみた空と同じ空なのに、少年は同じ空に思えない。


 飛行機雲は現われなくなった。


  了

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