(前編)
いつか見た空と同じ空
朝、少年は新聞を取ってくる。朝刊を父親に渡すためだ。
家を出ると、少し湿った朝の空気を吸い込み、空を見上げる。
しばらくの後、胸の中に入った冷気が体に馴染む。朝露を吸った新聞は、ところどころ、よれている。
毎朝、新聞を取りにでるのは少年の仕事だった。
町は山に囲まれていて、空だけが外と繋がっている。
太陽はいつも突然に顔を出し、突然、消える。
山々の稜線が、昼と夜を切り取るのだ。
ある朝、空気を切り裂くような轟音を聞いて顔を向けると、幾筋もの飛行機雲を見る。
家に戻って、「父さん、──」
云いかけて、少年は口をつぐんだ。
代わりに、いつも通りに朝刊を父親に渡した。
父親は「ありがとう」の代わりに、いつも通り頷いて新聞を受け取る。
コーヒーの香ばしい匂いが家に漂っている。
少年は卵を割って、朝食を作る。コーヒーは父の分担で、朝食は少年の分担だ。
パンとベーコンの残りが少なくなっている。
学校の帰りに、マーケットに寄って来なくちゃ。
少年は学校へ行く前に父親から食費を受け取る。そして仕事に行く父と一緒に家を出る。
山の向こうに陽が消えて、山の向こうから陽が現われる。
いつしか毎朝、新聞を取りながら、飛行機雲の数を数えている。本数は増えたり減ったりしている。
いっときは膨らみ続けていた新聞が、いつしか薄くなっている。
父さんは祈りの言葉と悪態を同時につくようになった。




