【短編完結】婚約破棄しないとバッドエンド? でも相手が素敵すぎてなかなか決断できません
「あら、まだ来ないのね。人気のない場所に呼び出しておいて遅刻なんて……」
私は一人、日没の静寂の中で憤っていた。今日こそは、あの完璧すぎる婚約者に「別れ」を切り出すつもりだったのだ。このままでは私の運命はバッドエンド。でも、彼が遅れるなら話は別よ。これを口実にして、一気に攻め立ててやるわ!
「……そうよ、彼が悪いの。私は悪くない。今度こそバシッと言ってやるんだから!」
………………。
「……遅いわね。なんだか、怒りの熱が冷めてきちゃったわ」
日は完全に沈み、あたりは銀色の月光に包まれる。心配が怒りを上回り始めたその時、足元で何かが白く光った。
「あら?……白くて綺麗な、お花」
それは「レウケーの涙」。なぜこんな場所に? 誘われるように歩き出すと、点々とその花が道を導いている。
「タッタッタ……」
あら?あっちにも
タッタッタ
う~ん良い香りね
あら? 道に沿ってぽつぽつと。
花の導きを抜けた先、視界が開けた。
「わあ……っ!!」
そこには、月明かりを浴びて幻想的に揺れる、青いネモフィラの海。丘の上、大きなロートスの木へと続く階段には、真っ赤な薔薇の花弁が贅沢に敷き詰められていた。
「タッタッタ……」
夢遊病者のように階段を登りきると、そこにはキャンドルが灯るテーブルと、豪華な料理。そして……。
「ああ、上手くいったね」
「クピド!? どうしてここに……まさか、これ全部あなたが?」
「そうだよ。君が喜ぶと思って」
微笑む彼から手渡されたのは、溢れんばかりの薔薇の花束。
「ガバッ!!」
「本当に嬉しいわ♪ 素敵すぎる……!」
私は彼の胸に顔を埋め、薔薇の香りと彼の温もりに溺れた。最近、バッドエンドの不安で塞ぎ込んでいた私を、彼は全部わかっていてくれたのだ。
「最近、笑ってる顔を見てなかったから。元気になってくれて良かったよ」
優しく頭を撫でられ、私の決意は跡形もなく溶けていく。
(……はっ。今日も言うタイミングを逃したわ……。でも、今日はもう、いいかな♪)
(完)




