開かない手紙
静止の書庫へと続く険しい山道を登りながら、エルの体力は限界へと近づいていた。
旅に出た時からというもの、彼の体は奇妙な変調をきたしていた。
食事をとっても体力は回復せず、代わりに人の悪意を吸い取ることで気分が高揚し、背中の痛みが楽になるのだ。
「、、はぁ、、」
膝をついた彼の手元から手紙が滑り落ちる。
ボロボロになった封筒をエルは胸に抱く。
「シスター、、苦しいよ、僕は本当に神に愛されているの?」
そのとき、違和感に気づいた。
今まで開けようと思わなかった手紙。シスターが「どうしても辛い時に」と言ってくれた、その封印が、エルの指先が触れた瞬間に熱を帯び、溶け出したのだ。
「開くの、、、?」
エルは震える手で中身を取り出す。
そこには、美しいシスターの筆記で、一行だけ記されていた。
「愛しいエルよ。あなたは、あなたのままで完成されているのですよ。」
傷が飛び跳ねるような感触を覚えた。
暖かい。シスターの「愛」を感じる。
そう思った瞬間、視界が赤く染まった。
傷が切れ味の悪いノコギリでえぐられるような強い痛み。
まるで、光の杭が傷から再生するナニカを無理やり押し潰すようだった。
「エル!どうしたんだ!」
テオの顔が歪んで見える。
「テッ、テオ!シ、シスターが言ってるんだっ、、僕はこのままでいいってっ、、。でも痛いんだ!ナニカが体の中で暴れてっ!」
テオは手紙を一瞥すると、ふっと冷たい吐息を吐いた。
「そうか、、シスターはお前を愛してるんだな?その痛みは、お前が天使でいられるための『守り』なんだよ。、、よかったなぁ、エル。」
テオの言葉は、まるで祝福のようでありながら、死刑宣告のようでもあった。
テオは知っていた。
その手紙が、エルの魔力を強制的に抑え込み、その苦痛をエネルギーにかえ、天界に送る魔法がかかっていることを。
エルは、泣きながら、痛みの元凶をポケットにいれ、歩き始める。
自分を愛してくれた人からくれた手紙だから。
自分を清らかにしてくれると信じているから。
自分を痛めつけていると知らずに。
明るい未来を信じて。
「絶望」の準備が整いつつあるのを知らず、一歩を踏みこむ。




