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欠けた記憶の断片

 執行官の追撃を逃れ、二人は「忘却の森」と呼ばれる天界と地上の境目に近い森に来ていた。


エルは、執行官が放った「穢れし者」という言葉に疑問を持っていた。


「テオ、、、天界の人は僕をどうして嫌うんだろう、、羽がないだけであんなに冷たい目を向けられなきゃいけないのかなぁ、、」


切り株に腰を下ろしたエルは、震える手で背中の傷をなぞる。


テオは、焚き火の枝を弄りながら、淡々と答える。


「あいつらにとって、『完璧じゃないもの』は存在しないの同じなんだ。」


テオの言葉にエルは息を呑んだ。


エルには美しい翼も、愛してくれる母親も、なにもなかったのだ。


エルの記憶は孤児院でのクラリスとの生活から始まっている。それ以前の記憶は霧がかかっているように真っ白だ。


エルはふと手紙を取り出す。


くるりと裏返すと、隅に微かにだが紋章が浮き出でいた。


「これは、、、静止の書庫の印章じゃないか?」


静止の書庫は、天界の公的な記録を保管する書庫だ。


「、、、もしかしたら、これはシスターが書いた手紙じゃないかもしれない、、地上じゃなくて、天界のもっともっと高いところに僕の過去を知ってる人がいるかもしれないんだ!」


テオの瞳が焚き火に反射し、キラリと鋭く光る。


「静止の書庫には、お前の血のルーツも、何もかも全部記録されてるんだ。だが、、静止の書庫は天界の最深部にある。羽のないお前が行くなら、相当覚悟がないといけねえぜ」


「覚悟はできてる。自分が何者なのか知りたいんだ」


森の奥をじっと見据えたとき、エルの脳裏に断片的な記憶がフラッシュバッグした。


燃え盛る火の中。


誰かが僕を抱いている。


背中に何かを突き立てるような感触。


誰かの泣き声が頭に響く。


「うぅ、、」


その瞬間、エルは激しい眩暈に襲われ、思わず膝をつく。


「大丈夫か?エル」


「、、うん、何かに背中を貫かれる夢を見たように感じて、、」


優しげな笑みを浮かべながら、テオはエルの背中をさする。


「それはきっと、過去のカケラだ。大丈夫。俺がちゃんと『真実』まで連れていってやるよ。」


テオの指が、エルの背中の傷に触れる。


だか、何も流れてこない。


凍りついた静寂だけが、そこにあったのだった。

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