泥に咲く花
初心者なんでなんか変なとこあるかもしれません、、
天界にいた時とは全く違う、そして開放的な、少し湿った風がエルたちの頬を撫でた。
番人の目を掻い潜り、なんとか地上にこれたものの、思っていたような幻想的な風景は無く、立ち並ぶ建物は煤け、路地裏には泥に塗れた人がうずくまっている。
「ここに、僕のお母さんがいるのかな、、、」
「バカだな、ここは食うか食われるかの吹きたまりだぜ?こんな場所にいるわけねえんだよ」
テオは可笑しそうに鼻で笑うと、驚くほど手際よく食料を集め、エルの慣れない道中を支えた。
その荒っぽいが、確かな温もりにエルはなんとも言えない安らぎを感じていた。
その時、路地裏から鋭い怒号が響いた。老人が若い男たちに襲われていたのだ。老人は何発も男に殴られ、顔が腫れ上がっている。
「やめてください!」
エルはテオが止める間もなく、男たちの間に割って入った。
「あぁ?なんだよ、コイツ。いい歳して正義のヒーロー気取りかよ?こっわぁw」
男がギラついたナイフをエルに向ける。
その瞬間、エルの体に、どろりとした嫌な感覚が支配した。
エルの翼の傷が焼けるように痛む。
痛い、痛い。
エルは、思わず男たちの腕に手をつく。
刹那。
なにかが、手のひらにすぅっと入る。
気持ち悪いのに、心地よい。
男たちの目から、どす黒い光が消えた。ナイフが手から滑り、カランと虚ろな音を立て、石畳に落ちる。
男たちは、憑き物が落ちたようにその場に崩れ落ち、呆然とした表情で手のひらを見つめる。
「俺たちは、、、な、なんてことをしてしまったんだ、、、?」
先ほどまでの殺気は露散し、路地裏には静寂が戻る。
「なあ、、エル?今、なにをしたんだ、、?エル?」
テオの声が、微かに震えていた。エルは、自分の手のひらを見つめる。
傷跡の痛みは消え、代わりに、いままで味わったことのないような深い充実感が体を満たしていた。
まるで、何十年も空っぽだった胃袋に、甘い蜜をたくさん入れたような。
「分かんない。でも、彼らから悪い気持ちが消えたんだ。僕、役に立てたのかな。」
そうやって笑うエルの瞳は、黒真珠のようだった。
「ああ、お前は本当に、特別な天使だよ。」
男たちが去った後、エルは懐に入れていた一通の手紙を取り出した。
それは、下の世界へ行く、と言ったときにクラリスが「どうしても辛いときに読みなさい」と渡してくれたものだった。
上品な羊皮紙で、表紙には金色の蝋で天界の紋章が刻印されている。
これを見ているだけで、不思議と背中の疼きがましになるのだ。
「、、、またそれを見ているのか。」
テオは、壊れやすい飴細工を見るような、あるいはーー檻の中の猛獣を見るような目で見てくる。
まあ、手紙の表紙をにこにこしながら見るのは、テオから見ると怪奇な行動に見えるのだろう。
「うん。これを見るだけでシスターがすぐそばにいるような感じがして、、、さっきの力も、きっとシスターの祈りが守ってくれたんだと思うんだ」
エルは愛おしそうに手紙を撫でている。
すると、雲の隙間から光の筋が伸び、天空と手紙がつながっているように見えた。
まるで、何かの標のように。
「その手紙、ちゃんと大切にしろよ。」
テオがエルの肩を叩く。その手は先ほどの怯えを感じさせないようなーー不自然なほどに温かった。
「その手紙を信じる限り、お前は天使になれるよ。」
「ありがとう、僕、頑張るよ。この手紙を持って、必ずシスターに再会するんだ。」
エルの純粋な願いが夕方の路地に虚しく響いた。




