5 犬と衝動
カイトはユーリと同じ村出身で、幼馴染み。ユーリと共にこの学園に入学してきた。魔法よりも剣術に優れ、ゲームでは優秀なアタッカーとして活躍していた。美形というより爽やかな男前だ。
心配性で優しく好青年。確か、前世の妹いわくワンコ系…らしいが
「おい、聞いてるのか。
なぜここからお前が出てくるんだ」
イラついた様子の声。男らしく逞しい目に宿った深い緑色の瞳が、ギラギラとこちらを睨みつけてくる。栗色の髪は威嚇で逆立っているようにも見えた。
どう見ても狂犬だが?
今にも噛み付いてきそうだ。
周囲を確認したが、カイト一人のようだ。
ユーリがいなくてホッとする。
「鍵が開いてたから入った。綺麗な温室だな。お前のか?」
「違うが、ここに入る許可はもらってる。」
「ハハっ!」
バカ真面目に答えるカイトに思わず笑いが出る。
王族相手には丁寧な態度をしていたが、それ以外の格下の生徒。しかも喧嘩腰の奴に気遣う必要はない。
「こんな立派な施設がお前のものなわけないだろ。知ってて聞いたんだよ。いちいち真に受けるな」
からかったら余計に怒らせてしまったらしい。
カイトの目つきがさらに険しくなった。
「ふざけて答えを誤魔化すな」
「そう怒るなよ。冗談だ」
出会い頭に敵意を向けられ、つい相手をしてしまったがルーカスやカイトが揃った場に、ユーリがいつ現れるかわからない。
怒らせたのは失敗だった。早めに立ち去りたいのに、この男は納得しないと退いてくれなさそうだ。
「偶然入った温室があんまりにも綺麗だったから休んでた。それだけだ」
「相変わらず嘘ばかりだな。鍵が開いていたとして、扉にも関係者以外立ち入り禁止の札があっただろ。
無くなってたが、どこへ捨てた」
「……札?」
俺がここに入る時、そんなものはなかった。
「とぼける気か?」
「札のことは知らん。とにかく俺は休んでいただけだ。中の王子様にも聞いてみろ」
目で温室の奥を指した。中を覗いたカイトはルーカスの存在に気がついたようだ。
「あ、ちなみに身体検査も受けてるからな。温室の物はなーんにも持ってない。身の潔白は証明済みだ」
俺の言葉に、今度はカイトが鼻で笑った。
「身の潔白、か……。似合わない言葉だな。持ち出す前に見つかっただけだろ」
「……好きに言ってろ」
何を言っても俺が悪いと決めつけてくる。日頃の行いのせいでもあるが、こいつの相手もいい加減うざくなってきた。
「このまま遊んでやってもいいが、生憎体調が悪いんだ。通してもらえると助かるんだが?」
「……」
カイトは出入口を塞いでいた体を横へ避けた。
「ルーカス様から許されてるなら、俺がこれ以上言うことはない。それに、もうすぐここへユーリがくる。お前と会わせたくない」
どいつもこいつも、ユーリユーリと忙しいこと。
カイトは序盤からユーリに対しての好感度が高く過保護だ。そのわりに、幼馴染みだからと言い張りその胸の愛情に気づくのが遅く、近い存在の割には攻略が難しい。
今もまた、いじめっ子から可愛い幼馴染みを守ることで頭がいっぱいなのだ。
はぁとため息が出る。
「会ったところで、もうユーリに興味はないから安心しろ。今後一切何もしねぇよ」
こう言っておけば、多少は俺への警戒心も薄くなるだろう。
やっと温室から出られる。
しかし、カイトの横を通り過ぎ様に腕を掴まれた。
「なんだよ」
「お前は前にも同じようなことを言って、その次の週にはユーリに泥水をかけた。」
そういえばそんなこともあった。
反省したフリをして舎弟2人に命令し、校舎のニ階からユーリめがけて泥水をかけた。
「だから俺は、お前を信じない。お前も思ってもないことを口にするな。腹が立つ」
カイトは軽蔑の眼差しを向けて語尾を強め、無意識なのか警告なのか腕を握る手に力が入った。
思わぬ痛みに顔を歪める。それと同時に、腹の底から勢いよく怒りが込み上げてきた。
「離せ、この馬鹿力!イテェだろうが!」
力任せに手を振り解く。
怒りは煮えたぎる湯のように熱く、一瞬で身体を駆け巡る。
違う。
こんなことで、ここまで腹を立てる理由はない。
そう理解しているのに、俺の手は勝手に伸びていた。カイトの胸ぐらを掴み、噛み付かんばかりに睨みつける。
「おい、カイト!」
「気安く呼ぶな……」
「さっきから聞いていれば、誰に偉そうにものを言ってるんだ?あぁ?!ユーリの飼い犬が、俺と対等だと思うなよ!」
この平民がっ!と言いかけて、それだけはぐっと飲み込んだ。
カイトは眉をひそめたが、視線は逸らさなかった。
「お前とは話にならないな」
「……っ!同感だ!つーかいい加減、人のことお前お前何度も呼ぶんじゃねぇ!」
「じゃあなんて呼べばいい?ロイ様か?」
真面目な顔をして聞き返してくる態度にさらに熱くなる。こいつはほんと、どこまでも癪に触る。
「呼ぶな!気色悪い!俺も話しかけないから話しかけてくんな!それで解決だ」
「……わかった」
掴んだ胸ぐらを乱暴に離し、俺は背を向けた。
振り返ることなく、そのまま歩き出す。
次回は少し早めに更新予定。




