5 友人を作ろう作戦(東城空視点)
突然だが。俺、東城空には好きな幼馴染が居る。
黒板を正面にして一番後ろ、廊下側の自分の席。その真逆の位置で、今も勉強している彩香の事が好きだ。
その容姿は世界遺産に登録されて欲しいと思っているし、氷の女王と呼ばれているの変な男が近寄ってこなくて俺得ではある。
しかし、それはそれとしてだ。
彩香は決して一人が得意と言うわけじゃないことを知っている。
学校で俺と関わらないのも彩香から言い始めたことで、クラスで人気のあなたが私なんかと話していたらめんどくさいことになるでしょ、らしい。
だとしても正直心配な所。
「なーにしてるの?」
「どわッ」
いきなり廊下の窓から女子に声をかけられ、俺はびっくりして振り返る。
オレンジの髪に童顔に、小学生高学年の様な身長。
その慎重に不釣り合いの、きっちりとボタンで止められた大きな胸。
そこには、面白いものを見つけた子どものような顔をしている女子が居た。
「ちょい、何でそー嫌な顔するかなー? はろろーみんなのアイドル風谷にくらげちゃんだよー?」
「黙っててくれエセギャル。今良いところなんだ……」
「西城さんの横顔を盗み見る事が?」
「あぁ、そうだ」
「開き直りは、ちょっとキモイよ空……」
「事実だから別に」
再度彩香の方を見る。
「俺って彩香のこと好きだよな?」
「そうだね。アタシから見たらそう見えるよ」
「だよな。付き合いたいぐらい好きなんだよ」
「待って? まだ付き合ってなかったの?」
「うるさいなぁ」
高嶺の花と、常にふざけているフツメンの自分を比べたら告白することすらおこがましい。
「でも、私あんまり西城さんのこと知らないんだよね。近寄りがたいっていうか、実際周りにそう言われてるし」
「浅いんだよなぁ」
本当に浅いと言わざる負えない。
確かに最初は近寄りがたいし罵倒もされるが、信頼した相手へしか見せないあの優しい表情を知らずに上っ面だけで彩香を評価してる奴の気が知れない。
「でも、俺にしか見せない表情って言うのも独り占めしたい」
「うっわ、彼氏ヅラきっしょ」
「そこまで言う⁉」
「正直前から思てたけど、西城さん関連になると気持ち悪くなるのやめた方がいいよ。特に本人の前でね! 女の子そういうの敏感だから」
「大丈夫! 偽ることにかけては右に出るものは一人しかいない!」
「それ嘘つきってことだからね? かっこいい言葉じゃないよ?」
「まぁ、ボロは出してないから」
「てか、そこまで好きならもう告白しちゃえば?」
「はぁ……」
それが出来ないから悩んでるんだろうが。
「方や学校でも有名な美人。方やふざけたフツメン。釣り合ってないだろ」
「確かに西城さんの隣に空が並んでも不釣り合いに見えるし」
「グハァッ」
「学力面でも天と地ほどの差があるし」
「グフゥッ」
「月とスッポンって言葉が似合う二人もなかなかいないと思うよ?」
「ゴフッ……やめ、て……もうやめ、て」
痛い、痛すぎる。
自分でも分かっているが、他人から言われると痛すぎる。
だが、良いところに来た。
「お昼って暇か?」
「昼休みだよね……まぁ、今日はだれとも食べる約束してないけど」
「じゃあお願いがあるんだが、今日のお昼ここ行ってくれないか?」
渡した紙には、食堂の奥の誰も通らない階段の図。
もちろんこれを渡されたくらげは嫌そうな顔をする。
「なんかアタシにする気なの? こんな誰も来なさそうな場所に呼び出して」
「なわけないだろ」
「なら告白とか? 全然お断りだけど」
「もっとないわ。なんでお前なんかに告白しないといけないんだよ」
「ならなんで?」
その疑問はごもっともである。さてどう説明したら良いんだろうか……
「んー、そこに彩香が居るから話しかけて欲しいんだ」
「警察って百当番だったよね?」
「なぜ、警察を呼ぼうとする?」
「ストーカーが居るからだけど」
誰がストーカーか、好きな人の行動ぐらい知ってて当然だろう。
「小さい頃から一緒に居るんだ、なんとなくどこら辺にいるかわかるだろ」
「いやその良い訳は無理でしょ」
ですよねー。
「で、なんで行って欲しいの?」
「一人で食べてる彩香の相手をして欲しいんだ。一人が寂しいのに泣きながら弁当食べてるだろうから」
「そんなことする人には見えないけど……」
確かに、学校の人前の彩香しか知らない人間には想像もできないだろう。
でも、俺だけは知っているんだ。あり得ないぐらいの寂しがり屋で、もはやこのままでは孤独死してしまうんじゃないかと!
「それに、前彩香にはお前紹介するって言っちゃったしな……」
「まって! なんで勝手に約束してんの⁉ 私の意見は⁉」
「そんなの彩香優先に決まってるだろ?」
何当たり前のこと言ってるんだか。
「ふざけないでよ! まるで普通だろ? みたいな顔しないでむかつくから!」
「じゃ、そういうことで頼むよ……高校生デビュー」
「アンタだって一緒でしょ!」
「俺は別に高校生デビューって公言してるからなーくらげと違って」
「あぁもう! やりますよ! やればいいんでしょ!」
「マジか助かるー」
今度ヌタバでもおごってやろう。これぐらいは気遣いできるのだ! 俺は良い奴だから!
「まぁ、行っても泣いてないだろうし、無駄だと思うけどね! あと仮に居ても仲良くできる保証なんてないから!」
そう言っているくらげだったが――
「うぅ……今日も空にお弁当渡せなかったよぉ……また一人で二つお弁当食べないと……シクシク……」
(マジでいる⁉ そんでもって泣いてる⁉ しかもまたって何度忘れてるのこの子!)
わりと仲良く出来るかもと思ったくらげだった。
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