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第二話 櫟との稽古

 白い足が床を踏みしめて走る。急げ、急げ。障子戸を開いて布団のふくらみの上に乗る。

「ぐえっ」

「おーきーろー!!」

 白い手が布団を引き剥がす。銀色の長い髪の少年が身を丸めていた。長いまつ毛ふちどられた金の双眸が眠たげに見返す。あくびをかみ殺して一言。

「紫楽、上に乗るのやめろ!」

 藍色の長い髪をひとつくくりにした小柄な少年が涼やかな目を細めて言う。

「じゃあ起きて!! 白銀!!」

 銀髪の少年、白銀はあくびをすると布団をたたみだす。

「もうお昼だよ!! ご飯できてるからね!!」

「へーい」

 白銀は寝着の浴衣から銀の小袖をタンスから取り出して着る。紫楽が白銀の帯を貝の口に結び、一緒に連れ立って部屋を出た。


 厨に入ると、白銀は椀と箸をとってきて置き、紫楽がその椀に温めた味噌汁と白米をよそった。

「うん。」

 紫楽も囲炉裏端の対面で同じように自分の分をよそい、食べる。

「「いただきます」」

 紫楽も白銀も上品にゆっくり噛んで食べる。

「ん」

 白銀が食べ終わった茶碗を差し出すと、そこに紫楽がおかわりの白米をよそって渡す。

 食べ終わった紫楽が茶碗にお茶を注ぎ飲む。少しして白銀も同じように茶碗にお茶を注いで飲んだ。

「「ごちそうさま」」

 手を合わせて椀と箸を2人で洗う。それが終わると白銀が紫楽に聞いた。

「今日の予定は?」

「櫟兄ィと稽古」

「うっし、じゃあ行くか」

 2人は屋敷内にある道場に向かう。

 庭の桜の花を見て紫楽は表情をほころばせる。

「なぁ、今日は櫟兄ィから一本取れるかな?」

「取るよ。絶対。この間、惜しいところまでいったもん」

「手加減してくれてアレだぜ? 本気だとどれくらい強いのやら」

 道場の引き戸をがらりと開ける。

 中では櫟が稽古着姿で素振りしていた。

「来ましたね、2人とも」

 一礼して中に入る。

「櫟兄ィ」

「今日は一本取るぞ」

 櫟はゆるりと微笑む。

「竹刀持ってきて構えて。どこからでもかかってきてください」

 二人は子供用の竹刀をとって構える。じりじりと間合いを図り、紫楽が打ち込んだ。

「やぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 櫟がひらりと身を交わし、竹刀を閃かせる。バチーン!!

 紫楽が背中を打たれてたたらを踏む。

「一本。」

 紫楽はじわりと涙をにじませる。

 白銀と櫟はにらみ合う。じりじりと間合いを詰め、櫟が仕掛けた。

「そこですっ」

 足を払うと白銀が飛び上がり打つ。櫟は髪の毛一筋でそれを避けて白銀の肩を打った。

「一本。」

「クソっ」

 白銀はうめく。

 じり、じりと双子は間合いを詰める。櫟はフッと笑って足を払った。双子は後ろへ飛び退く。

「身軽ですね」

「鍛えられているからねっ!」

「クソっ、隙がねえ」

「手加減してあげているんですよ? 隙なんてありません。そらっ」

 櫟は白銀を突く。そこを紫楽が打ち込む。

「やぁぁぁ!!」

 櫟はそれを左腕の手甲で受ける。

「良い打ち込みです。紫楽」

 紫楽の顔がぱぁっと花やぐ。

「だが甘い!」

 左腕を凪いで紫楽を吹き飛ばした。

「うわぁ!!」

 紫楽はころんと転がって受け身をとり、すぐに立ち上がって構える。

 櫟はそれを見て頷く。

 白銀が打ち込む。櫟の背中に向かって。櫟は軽快な足さばきでしれをひらりとかわし、白銀の腹に膝蹴りを放った。

「ぐっ!!」

 櫟の竹刀が白銀の首に据えられる。

「一本。」

「大人気ねーぞ!」

「訓練です。ここからは左手は使いませんから一本とってみてください」

 櫟が左手を腰の後ろに回して構える。

「クッソ!!」

「兄ちゃん、挟み込もうぜ」

「そうだな紫楽。俺もそれが良いと思っていた」

 二人が櫟の周りをぐるぐると回る。櫟が視線を2人に交互に滑らせる。先に打ち込んだのは紫楽だった。

 上段から薙ぐ。

「やぁぁぁ!!!」

 それを櫟は苦も無くかわして紫楽の腹に打ち込む。

「一本。」

 白銀が櫟の足元に打ち込む。

「やあっ!」

 櫟はそれをうしろに飛んで避け、白銀の白い首にちょんと竹刀をあてた。

「一本。」

 白銀が悔しそうにうめく。

「クソっ、取れねえ」

「隙だらけですねえ」

「クッソー」

 紫楽が歯噛みする。

「今日こそは一本とってほしいのですが、さて、どうしますか?」

 白銀と紫楽が頭を突き合わせる。

「兄ちゃん、挟み撃ちもダメなら」

「連続で打ち込んでいくしかないな」

 双子は頷きあう。

 双子は構える。

「「やぁぁぁぁぁ!!!」」

 同時に打ち込み、櫟にひらりとかわされる。白銀が身をひるがえして打ち込み、竹刀同士がぶつかる。紫楽がそこへ打ち込み、櫟がひらりと身をひいた。白銀がたたらを踏む。そこに櫟の竹刀が閃き、竹刀同士がぶつかる。櫟は竹刀を引いて紫楽を打った。紫楽の竹刀と紫楽の竹刀がぶつかる。櫟の後ろから白銀が打ち込む。紫楽が刀を振り上げた隙に櫟が身をかわして、紫楽と白銀がぶつかりそうになった。櫟が双子の首に竹刀を走らせる。

「二本。」

 ひゅっと双子の口から息が漏れた。涙がじわりとこぼれる。

「強すぎね?」

「強いよ」

「紫楽は振り上げすぎ。白銀は攻撃が一通りしかありません。隙は見つけるものではなく、作るものですよ」

 櫟は構える。

「さあ、もう一度です」

 双子は泣きそうな顔になって構えた。


 夕方。肩で息をしながら道場の床に伸びる白銀と紫楽が居た。

「強ええ。」

「クッソー!! 今日も一本取れなかった!!」

「だんだん上達してきていますよ」

「うっそだー!!」

「ほんと? ねえ、ほんとう?」

「本当ですよ。この時間まで戦えるようになったでしょう? あとは技術です」

「僕たち上達しているんだ」

「うん」

「さあ、起き上がれますか?」

 櫟は双子に手を差し伸べる。双子はその手を取り、起き上がり様に打ち込む。櫟はぴょんと飛び上がった。後ろに着地するところに白銀が打ち込む。櫟がくるりと回転して竹刀同士がぶつかる。櫟が着地するところに足を狙って紫楽が打ち込む。櫟が足を引っ込め、振り向きざまに紫楽を打って竹刀同士がぶつかり、白銀が櫟の背中を突く。それが通った。

「一本! お見事」

「わぁ!!」

 紫楽の顔がほころぶ。白銀が信じられないという気持ちで櫟を見る。櫟は微笑んで頷く。白銀が表情をほころばせた。

「やった! やったぜ!! 俺様やったぜ!!」

「やった!! やったよ〜!!」

 白銀と紫楽が手を握り合い、喜びを分かち合う。

「バンザーイ!!」

「バンザーイ!!」

 櫟が微笑ましいものを見るように二人を見る。

「櫟兄ィ!」

「櫟兄ィ!」

「褒めて!」

「褒めてくれ!」

 櫟は満足げに笑って二人の頭を撫でる。

「二人共よくできました!」

 白銀と紫楽は花が咲いたように笑う。櫟は慈しむように目元を和ませて言う。

「二人共、水分とって夕餉にしましょう」


 その日の夕食は少しだけ豪華で、鮎の塩焼きが出た。双子は喜んで食べた。

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