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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

どうして部屋に全裸の金髪女性が倒れているのでしょう?

作者: sunadori

 週末の夜。賃貸マンションの3階にある自室の鍵を開け、中に入った男(24歳・女性経験無し)は固まっていた。


 ちょっと待て、ちょっと待て。落ち着いて良く思い出すんだ。

 北須賀(きたすが)真宙(まひろ)は朝からの行動を必死で思い出そうとしていた。


 朝は普通に起きた。普通に支度をして、玄関から出た。鍵も・・・ちゃんと掛けた。うん、ここまでは問題ない。

 仕事から帰って来て、鍵を開けた。うん、ちゃんと開けた。それまでは鍵はしっかりと掛かっていた。で、ドアを開けて部屋に入って、電気を点けた。


 で、どうして部屋に全裸の金髪女性が倒れているのでしょう?

 混乱する頭で必死に考えてみたが、どれだけ考えても答えは出てこなかった。


 まさか、死んでないよな?


 ピクリとも動かず倒れている女性。救急蘇生しなきゃかな・・・と考えて近寄ると、僅かに胸が動いて呼吸をしていることが判る。


 とりあえず殺人事件の容疑者になるという事態は回避できたようだが、誘拐や監禁の容疑については絶賛継続中である。もちろん真宙にとっては全く身に覚えがない容疑ではあるが。


 本人を起こして聞いてみるのが手っ取り早くはあるのだが、日本語が通じる保証はない。しかも今の状況を本人も把握していないとしたら・・・目覚めたら素っ裸で知らない場所に居る、それこそ真宙が誘拐犯だと疑われる状況である。


 それでも!いつまでも目の前の裸の美女をそのままにしておくことは(たとえ自室であっても)耐えられない。そう考えた真宙は室内を見渡して、タオルケットを手に取ると女性にふわりと掛けた。そしてタオルケットの上から肩を叩いて声を掛けた。


「もしもし?大丈夫ですか?もしもーし?」


「ぅ・・ぅぅ・・う~ん」

 そして女性がゆっくり目を開けて、真宙を見た。


 ---


 リーナは牧場ですくすくと育った。そう、育ったのだ。出荷される程の大きさまで。

 鬼と呼ばれる存在の作った牧場で、ヒトは家畜として飼われていた。もちろんみんな全裸である。


 鬼はヒトの魂を喰らうために、ヒトを育て、増やし、そして殺した。

 (オス)は5歳くらいで選別され、種を取るために残した一部を除いて残りは全て出荷された。

 (メス)は卵巣が成熟するまで16~18年ほど育てられてから出荷された。


 出荷された(オス)は魂を刈られ鬼に食べられた。魂を抜かれた(むくろ)は他の魔獣の餌にされた。

 出荷された(メス)は生きたまま腹を割いて卵巣を摘出し、そのまま魂を刈られた。苦痛に喘いだ魂の方が、鬼にとって貴重な力になるらしかった。

 残った(むくろ)を触媒に、摘出した卵巣と精子を加えて鬼の法術を使用することで、ヒトの子を一度に30~40人ほど生み出し、牧場に戻した。


 ヒトは、鬼に殺され魂を食べられるために生かされているだけの世界。


 明確に知ることは無くても、牧場で育てられているヒトは皆知っている。

 大きくなったら連れていかれて、二度と戻って来れないことを。

 惨たらしく苦痛に喘いて殺されて、望んでもいない子孫を残すことになる事を。


 そしてリーナは自分の身体を見て、そろそろ()()()()()であることを自覚していた。


 深夜、牧場をこっそり逃げ出したリーナは、崖で足を滑らせてそのまま即死した。真っ暗で見えなかったが、どこか満足気な表情だったらしい。


 ---


『リーナ、リーナよ』

 自分を呼ぶ声でリーナは目を開ける。ここは一体どこだろうか?どこもかしこも真っ白で、自分が横たわってるはずの床さえ見えない。真っ白な空中にいるかのようだ。


『あなたは、この世界のちょうど1億人目の死亡者です。そこで、特別に即時転生する権利を授けます。今のまま生まれ変わる事も出来ますし、赤ちゃんからやり直す事も出来ます』

 優しい、それでいて感じた事のない神々さが女性の声から感じられた。


「わ・・・私はあんな世界に戻りたくありません。生まれ変わっても、何も楽しい事もなく、ただ鬼に殺されるのを待つだけの世界になんてっ・・・」


『別の世界に転生する事も出来ますよ?』


「えっ?」


『鬼のいない世界とか。あなたの今回の一生は中々ハードでしたから、もっと平和に幸せに生きる道があっても良いのではないかと思いますよ』


「是非っ!是非お願いします。その鬼のいない平和な世界!それでお願いします!!」


『判りました。他に転生ボーナスは必要ですか?』


「転生ボーナス?」

 リーナは何を言われているのか判らなかった。まともな教育を受けた訳でもないし、そもそも家畜として育てられているヒトにそんな文化が有るはずもなかった。


『いえ、何でもありません。転生先であなたの願いを3つ聞くことにしましょう。それでは人生の続きをお楽しみくださいね』

 たったこれだけのやり取りであったが、リーナは心の底から湧き上がる安堵感に支配され、再び目を閉じるのであった。


 ---


 リーナが目を開けると、そこは見た事のない世界だった。いや、世界と言うよりは部屋のようだ。身体にはなにか柔らかいタオルケットが掛けられ、肩を揺するそれはヒトのようだったが、見た事もない物(服)がその身体の大半を隠していた。そして多分、リーナは見たことが無かったがそれは大人の男らしかった。


「※※※※?※※※※※?」

 その男は優しそうな、そして心配そうな顔で話しかけてくる。だが、リーナには彼が何を言っているのかさっぱり判らなかった。恐らく自分の事を心配してくれているのではないかと思ったが、それに対して何と答えれば良いのだろうか。


「えっと、初めまして。私はリーナです。あなたは誰ですか?ここは何処ですか?」


 ---


「#####、#####。#####?#####?」

 目を開けた金髪美女(全裸+タオルケット)が目を開けて、何か話しかけてきた。

 いきなり悲鳴でも上げられたら堪ったものではないが、パニックに陥っている風でもないその女性の様子を見て、真宙は心底ホッとした。


 ただ・・・ただ、彼女が何を言っているのか、サッパリ判らない。地球上のメジャーな言語であれば、何となくどこの言葉か判るものであるが、彼女のそれは全く不明なものだった。

 かと言って、中央アフリカのどこかの部族の言語で喋っていると考えるのも無理がある。


 真宙は思いついたようにスマホで翻訳アプリを起動して、自動判別モードを試してみたが、やはりどこの国の言葉なのか判らなかった。


「どこから来たの?」

「#####、#####?」

「どうやってこの部屋に入ったの?」

「#####!####」

 :


 紙を用意して、絵や字を書いてみたが、意思の疎通には程遠かった。彼女はボールペンを持ったこともないような手つきで、グニャグニャな線を描いただけだった。


 埒が明かない。でも、どうしようもない。

 警察を呼ぶ?この状況を正しく説明する自信が無いし、自分が捕まるだけのような気がする。


 真宙が天井を見上げて絶望的な状況を嘆いていると、突然女性が日本語を話しだした。


「リーナ、私はリーナです。言ってる事が判りますか?あなたは誰ですか?」


「え?あ、あぁ。僕は北須賀(きたすが)真宙(まひろ)です。えっと、リーナさん?ここは僕の部屋なんですけど、どうしてここに居るのですか?あなたは何者ですか?」


 リーナはちょっと困ったような顔をして考え込むと、自分が転生者である事を打ち明けた。突然日本語で話せるようになったのは、もちろん一つ目の願いが叶えられた結果である。


 まさかの異世界転生者。まぁ、常識の範疇ではないと考えていたので、宇宙人や異世界転生者も十分に想定の範囲内であると言えた。


 そして真宙に告げられた、リーナのいた世界の悲惨さ。間もなく腹を割かれて殺される運命だったと聞かされれば、何とかしてあげたいと思うのが人情だろう。


 でも、このまま自分がこの女性を保護して良いのだろうか?


 警察・・・に異世界転生者を保護しました、とは通報できない。下手したら、情報が広まって人体実験とか、まぁ大っぴらには出来ないだろうけど、何らかの危害が加えられる恐れが無いとは言えない。

 とことんこの件には警察は無用な存在であると真宙は思った。


 見た目は女子大生くらいか。まぁ社会人でも通用するだろうが、そもそも年齢を証明できるような書類はない。戸籍やパスポートもない。幼女っぽい外見だったら、ご近所さんに見られた時に通報の確率がぐっと高まるだろうから、外見が大人っぽいのは幸いだろう。


「まぁ・・・とりあえず、ここで良ければ居て貰っても構わないからさ」


 深く考えるのはやめた。とりあえず、素っ裸で居られると目のやり場に困るので、Tシャツとジャージのズボンを着て貰った。女性ものの下着が無いのは仕方ない事なので、とりあえずは我慢してもらう。


『明日にでも色々と買いに行かなきゃ。とりあえず着る物を用意しないと、外に連れ出す事も出来ない』と真宙は考えていた。週末で明日の仕事が休みなのはラッキーだった。


 リーナは真宙の事をじっと見ていた。見ず知らずの迷惑な自分を優しく迎えてくれる存在に深く感謝しながら、2つ目のお願いをしていた。


『この人、北須賀真宙さんと一緒にずっと平和に幸せに暮らせますように』


 一つ目の願い事をしたときと同様に、二つ目の願いも聞き届けられた、とリーナは確信した。


「宜しくお願いします」

 Tシャツ・ジャージ姿のリーナは頭を下げる。もう何も心配はない。急ぐこともない。平和で幸せな暮らしは約束されているのだから。


 二人の幸せで平穏な同棲生活に、リーナの三つ目の願いが絡んで、ちょっとだけ平穏な暮らしから離れていくのだが、それはまだ先の話。


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