第一話 再び動き出した歯車 1
学校の昼休み。魔法少女の目撃情報についてまとめていると、隣から声が聞こえた。
「今日も、今日とて、精が出ますな誠司殿」
名前を呼ばれ隣を見ると、そこには見知った友人の姿があった。
「将人か。まぁ、学校じゃこれくらいしかやる事ないからな」
「そういわず、夏休みが明けて久しぶりに会ったんだから、色々話そうぜ」
「色々って、どうせ魔法少女系アニメの話だろ」
そういうと、将人は微笑みながら空いている前の席に座った。
「その話もしたいところだが、そっちの調子はどうだ。夏休みの間に何か進展はあったか?」
「一応、一つだけわかったことがあったな」
「なんだ!」
将人が机に乗り出し、顔を近づけてくる。それを押しのけつつ、話を続ける。
「とりあえず、これを見てくれ」
先程まで、データをまとめていたノートを見せる。そこには地域の地図と、その上に赤い点がいくつか記してある。
「魔法少女の目撃位置を記した地図だ。最初は県範囲で記録してたんだが、段々と目撃位置が自分達が住んでいる地域に集中していることに気づいてな」
「魔法少女がこの近辺に住んでる可能性があるってことか」
「そうだ」
その意見を肯定すると、将人は頻りに教室内を見渡すと、こちらに顔を寄せてくる。
「つまりよ、俺たちのクラスに魔法少女がいるかも知れないってことだろ」
「は?」
突然の発言に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
「だったらよ誠司、誰がそうだと思うよ。俺はもちろん白井さんだな、明るくて、誰にでも気軽に接する優しさ、そして何よりもあの笑顔。彼女が魔法少女に違いない」
「いるわけないだろ学校に。第一、俺の探してる人は、もう大人になってるはずだよ」
「そうだったのかよ。ちくしょう、現実は甘くないなー」
それから、他愛ない雑談を続けていると、昼休みが終わった。
放課後、学校の図書室に寄って、棚からお目当ての本を探す。
探しているのは、魔法少女についての本だ。夏休みの間、偶然ネットで見つけた物で、既に絶版されているため本屋には売っておらず、中古屋でも探したが、その本が置いてある店はなかった。
一応、魔法少女というのはオカルトのジャンルに入っている事はわかっているため、そういった本が置かれている棚を探しているが、望みは薄そうだ。
「あれ、山里君ではないか」
そろそろ探すのをやめようと思った時、名前を呼ばれ、声がしたほうを振り向くと、そこにはクラスメイトの本町灯火が立っていた。
「珍しいね、君が図書室にいるなんて」
「少し、探し物があってな」
適当に返答して、すぐ調べものに戻ろうとしたが、彼女がとある同行会に所属していることを思い出し、会話を続ける。
「そういえば、本町さんって、オカルト同好会に入ってたよな」
「そうだけど、どうかしたのかい。あっ、もしかして入部希望かい!」
彼女が顔をこちらに寄せてくる。それに少々気圧されながらも、本題に入る。
「いや、教えて欲しいことがあるんだが」
「なんだ、入部希望じゃないのか。それで、何を教えて欲しいんだい」
「魔法少女について本だが、何か知ってるか」
「山里君、いくら僕がオカルト好きだからといってもさすがに…いや、魔法少女についての本なら一冊だけ家にあったな」
「本当か! もしよければ貸してくれ」
そういうと、彼女は意地悪そう顔をして、不敵な笑みを浮かべた。
「いやー、この本は既に絶版されていてね、ネットでも高額で取引されているからなー。それをタダで貸すのはちょっとなー」
何を考えているのかを察し、大きくため息をつく。
「なにが望みだ」
「話が早くて助かるよ。貸す代わりに、オカルト同好会に入ってくれないかい? 部活には別に参加しなくていい、名前を貸してくれるだけでいいんだ」
「それくらいでいいなら、別にいいよ」
「交渉成立だ」
本町との交渉が終わる。彼女は元々調べたい事があったらしく、その場で別れ、図書室から出ようと、引き戸に手を掛けた瞬間、戸が勝手に開き反射的に体を後ろに引く。
そこには、女子生徒が立っており、彼女が戸を開けたのだとすぐにわかった。
お互い微妙な空気になり、軽く会釈すると、向こうも会釈して道を譲ってくれたので、その脇を通っていく。
しばらく歩いて、先程の女子生徒が同じクラスの人だと思い出した。
確か名前は、木野崎心。正直それだけしか知らない、いつも机で勉強しており、入学から彼女が誰かと話している姿を今まで見たことがない。