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伊豆、仁義なき女たちの戦い(後編)

『トマホーク全弾命中、けどレーダーの範囲内に残存デモン多数ネ!』


 ウミから初弾の結果が報告される、しかし百二十二発のミサイルでは火力不足らしい。すると陸の隣にいたクゥも、援軍として加わるためハインドに変身する。


『ウミだけじゃ心許ない、ワタシも加わる』


 義妹二人だけに戦わせて、自身は何も出来ないことに陸は苛立ちを隠せない。須佐之男に詰め寄ると、出来る支援が何かないか聞いてみる。


「おい! 俺にも何か出来ることはないか!?」


「おまえの主砲では届かん。もしあの二人を抜けてくるデモンが居たら、それをおまえが迎え撃てばいい」


 二人の攻撃が通じない相手に、自分の攻撃が果たして通用するのか? 不安と焦りで陸の足は震え始める。


『あんたもオトコだったら、いま出来ることをきちんとこなしな! あんたがそんな調子だと、神に笑われちまうよ』


 頭の中に聞き覚えのない声が響き渡ると、三沢方面から一機の蒼い戦闘機が飛来した。


『自己紹介がまだだったわね、私は三沢みさわ 不二子ふじこ。旧姓国津、じんの妹であなたの伯母よ』


 突然の伯母の登場に陸は驚く。葬儀の際に国津の親族は誰も来なかったからだ。不二子は頭上を旋回しながら、状況をつかめていない甥に言葉を選びながら説明する。


『うちの家系はどいつもこいつも血気盛んでね。神がデモンにやられた際も弔い合戦だと言いながら、葬儀にも顔を出さずに全員でデモンと戦っていたんだよ。かくいう私もそれに参加していたのだから、あんたに恨まれても仕方ないけどね……』


 戦闘機が高度を徐々に下げてくると、その機体が何か陸にも分かった。米のF-16をベースに開発された国産戦闘機、F-2。公式な愛称はないが平成の零戦やバイパーゼロなどと、ファンからは呼ばれている。


 よく見るとその両翼にひとつずつ、何か大きな塊が括り付けられていた。不二子はそれを高度百メートルから切り離すと、ウミとクゥがいる戦場に急行する。


『爺さん達、時代遅れの身体でも陸の盾くらいにはなれるでしょう? 国津の次代を繋ぐ血を、ここで絶やすんじゃないよ!』


 爺さん達? さらに混乱している陸の目の前で、その二つの塊は地面に激突した……。




「あたたたた……。おいひろし、おまえの娘は伯父に対する扱いがひどすぎないか!?」


「そうは言うがなたけし。高速で移動出来ぬわれらをここまで運んでくれたんだ、少しは感謝しておくべきだろう」


 百メートルの高さから地面に激突して、なんで無傷なんだこの爺さん達……。陸は驚きと呆れが入り交じった、複雑な感情を抱く。すると旧帝国海軍の軍服を着た爺さん二人が陸の手を掴みながら、伯母の不二子と同様の自己紹介を始めた。


「陸よ、驚かせてすまない。わしは国津くにつ ひろし、神の父でおまえの祖父だ」


「そしてわたしは国津くにつ たけし、大の弟でおまえの叔祖父おおおじだ。よろしくな」


 次々と現れる身内に頭の中が真っ白になる陸、すると大が子供のような笑みを浮かべて孫に良いところを見せようと弟に言い出す。


「なあ武、陸にわしらの凄いところを見せてやらんか?」


「おお、それは面白そうだ。まだまだ若いもんには負けんと、そこのババアにも見せないといかんからの」


 大と武の視線の先には、ババア呼ばわりされて怒りに震えている天照が……。


「あんた達……。数十年ぶりに姿を見せたかと思えば、その暴言。もう一度沈めば?」


「相変わらず老人をいたわらぬ女子おなごじゃのう。妙なサラシと褌を巻いて孫を誘惑しようとは……、須佐之男も相変わらず苦労しておるようだな」


 残念そうな顔で海に向かう大と武、天照が背後で何やら罵声を浴びせているが二人が気にしている様子はない。そして祖父と叔祖父が本当の姿に戻ると、陸は思わず天照の肩を掴んでしまう。


「……おい、あれってひょっとして?」


「ええ、そうよ。実物を見るのは初めて?」


「当たり前だ! 七十年以上前に沈んだ船を見ている訳ないだろ!?」


 陸の目の前で並んでいる二隻の船、それは大日本帝国海軍が建造した大型戦艦。大和と武蔵だった……。


「でも第二次大戦で沈んだはずの大和と武蔵に、どうやって付喪神が宿ったんだ?」


 その疑問に対する天照の答えは、あいかわらずメタである。


「昔、とある有名な方がおっしゃいました『俺の宇宙では音が出るんだ』と。ならばこの作品内で大和と武蔵に何故か付喪神が宿っていたとしても、何の問題も無いのです」


「検証好きな方にケンカを売る発言だぞ、それ」


「それならば付喪神の宿らない世界で、大和と武蔵が甦る物語をご自身で想像をされたら良いのです。なにしろこの作品は作者が描いた空想の世界、ファンタジーなのですから」


 メタ発言を止めようとしない天照の口を、手で塞ぐ真似など陸には出来ない。恐れ多いのではなく、ただ単に隣でもっとうるさい音が出始めたからだ。




「よし、わしらの砲撃で娘達を支援してやろう。武、四十六センチ砲発射用意。交互撃ち方でいくぞ」


「了解した大、われらの力を見せてやろう!」


 不二子に時代遅れと評されたが、四十六センチ砲の威力は現時点でも凄まじい。さすがのデモンも直撃を喰らえば、ただでは済まないだろう。そしてその主砲は発射音も相当に大きなものだった。


「全弾装填完了、撃ち~方始め!」


 発射音のあまりの大きさに陸は思わず耳を塞ぐ。そして直後に届いた発射の際の衝撃波で、全身を強く揺さぶられた。着弾地点にいたデモン達は、実体化する前に爆散して海の藻屑と化していく。なんとか実体を得たデモンも居たがウミから発射されるトマホークや、クゥと不二子の攻撃の前に沈黙した。


 そして戦闘開始からおよそ四時間後、ようやく陸達は大量発生したデモンの撃退に成功したのである。


「ふぅ、なんとか無事にこの海水浴場を守れたな。ウミの新装備の評価試験も出来たようだし、それじゃあ帰るとしますか!」


 水着から私服に着替えようとする陸の両肩を、天照と食堂のおばちゃんが掴んだ。反対の手にはゴミ袋や、ゴミ拾いの際に使うヒバサミを持っている。


「帰る前に海を綺麗にしていかないとね、あの状態で帰るわけにいかないわ」


「あの状態?」


 陸が海岸を見ると、波打ち際に大量のゴミが打ち上げられていた。ウミ達のスクリューによって巻き上げられた海底のゴミが、そのまま流れ着いてしまったのである!


「何故スクリューでゴミが? とは考えないようにしましょうね。これが今回のオチなのですから」


「だからそのメタ発言はやめろ!?」


 八百万防衛隊総出のゴミ拾いは、翌朝まで続いたのだった……。

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