表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/14

伊豆、仁義なき女たちの戦い(中編)

「海の家での食事といえば、やっぱりラーメン・カレー・焼きそばが定番だね! どれもたくさん作ってあるから、一杯食べるんだよ」


「わ~い! リク、どれから食べる?」


「どれからって言われても……どれも十皿ずつないか?」


 普段は混雑している海の家の食事スペースに、ラーメンなどが大量に置かれていた。腹はたしかに空いているが、ここまでの量を食べきれる自信はない。すると助け船のつもりなのか、須佐之男と月読が手を伸ばしてきた。


「俺達もちょうど腹が減っていたんだ、ありがたくいただくよ」


 だが二人の手をおばちゃんは払いのけると、鬼のような形相で二人を睨みつける。


「誰が食って良いと言った? あんたらは海に潜って、スベスベマンジュウガニあたりを捕まえて喰えば良い」


「……俺達に死ねと言うのか、大気都 姫」


「どうせ喰っても死にゃあしないよ。でも残ったのを食べる分には、うるさくは言わないから安心おし。まあラーメンはスープを吸って、麺が伸びきっているだろうけどね」


 麺が伸びきったラーメンを食わせるのは流石に忍びなく、陸達はラーメンから優先して食べることにした。


「そういえば月読先生は、授業何を担当しているんだ? 受けた記憶がないんだが」


「主に化学よ。君は生物を選択してたから、オネェさんの担当じゃないの。ゴメンネ」


 オネェ教師に残念がられても嬉しくない、ここで飯も食べずにまた酒を飲み始めた天照が月読に話しかける。


「月読博士、例の試作品は完成したのですか?」


「はい姉上、今回の旅行で性能を確認する予定です」


 そう言いながら月読は、ウミに船の形をあしらったペンダントを渡した。


「ウミちゃん、最終日に試作品の評価試験を行うわ。協力してちょうだい」


「リョウカイ! ああ、最終日が待ち遠しいネ♪」


「評価試験?」


 陸の疑問に対して、クゥが月読の代わりに答える。


「ウミに新しい装備を追加したの、その性能を確かめるためにこの海岸を貸し切りにして試験を行う。何を追加したのかは、ワタシもまだ知らない」




「さて本日は懇親旅行の最終日ですが……あいにくの空模様となっております」


「あいにくというか、すでにどしゃ降りだろ」


 天照のあいさつに陸がツッコミを入れた。空には暗雲が広がり、滝のような雨が朝から降り続いている。これだけ雨が降っている中で評価試験を行うと、正しい性能を引きだすことが出来ないかもしれない。そう考えたのか天照は携帯を取り出すと、どこかに電話をかけ始めた。


「……ええ、そうです。大土肥海水浴場付近の海域の天気を、快晴にしてください。はいお手数をおかけします」


 天照が電話を切ると同時に、空を覆っていた雨雲が瞬く間に晴れわたる。彼女の電話の相手が誰か気になった陸は、その相手の名を聞いてみた。


「もしかしてあのどしゃ降りを晴れに変えたのは、今の電話の相手?」


「はい、そうです。住吉の神には、あとで勝湖のワインでも贈ってあげないと……」


 海上交通の守り神である住吉の神の力で、この海岸一帯の天気を変えさせたらしい。陸が唖然としていると、海上に多数の黒い球体が姿を見せる。


「お~! あれが評価試験で使う的か、ずいぶんと大量に用意するんだな?」


「そんな訳ないでしょ! あれは全部、正真正銘本物のデモンです!?」


「マジかよ!? ここから見るだけでも、百以上あるぞ!」


 陸が驚くのも無理もない。これまで一つずつ出なかったデモンが、一気に百体以上出現しようとしているのだ。おまけにどれが爵位をもつデモンなのかも分からない、これだけの数の敵を倒すには火力が少なすぎる!


「ツクヨミ! 例の新装備、この場で試してみることにするヨ」


「危険よウミちゃん! もしものことがあったら、危ないわ」


「あれだけの数のデモンが実体を得たら、どれだけの被害が出るかワカラナイ。普段役に立てない分、ここで働かせてもらうわ」


 月読が止めるのも聞かず、ウミは一直線に海岸へ走り出した。そしてペンダントを取り出すと、お約束の言葉を口にする。


「変身!」


 ウミの変身もクゥと同じく、身体の線がはっきりと分かるものだった。だが変身の途中で月読の手で目を塞がれ、最後まで見ることが出来ない。


「はい、そこまで。若い男の子の視線に晒すのは忍びないわ、そんなに見たいのなら今晩私の変身する姿を……」


「断固として拒否します!」


 そんなくだらない言い争いをしていると、ウミの変身が終わったのか月読が塞いでいた手を離した。そしてウミの本当の姿を見た陸は、その場で腰を抜かしてしまう……。


「……ウミ。それがお前の本当の姿なのか!?」


『リク、驚いた? エヘヘ、これがワタシの本当の姿なのだ♪』


 海上に姿を見せているのは一隻の船。アメリカ海軍タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦の二十七番艦、ポート・ロイヤルだった!


『それじゃあ早速、新装備の実験開始!』


 ウミが叫ぶと同時に警報音が鳴り響き、艦上のミサイル・セルの蓋が開く。そして彼女に搭載されたトマホークミサイルが次々と発射された。


『た~まや~! 記念すべき第一射だから、トマホークを百二十二セル全ての発射口から射ち出してみたネ♪』


「あれが全部トマホーク!?」


 大土肥海岸防衛戦の幕は、空を覆い尽くすミサイルを合図に開かれたのである……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ