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小善寺防衛戦(後編)

「Miー24V、これがワタシの本当の姿」


「そ、そうなんだ。凄いなクゥ」


 凄いと言われたことが嬉しかったのか、頷くように機首を振るクゥ。陸の方は正式な型を言われても、軍事オタクでは無いのでさっぱり分からない。凶悪そうな武装が見えたので、とりあえず凄いと言っただけである。すると陸の脳内に、天照の声が響いてきた。


『国守 陸二等陸士、クゥ・クニモリ一等空曹。学園の南東にある小善寺で、デモン出現の予報が出ました。至急現場に急行し、排除してください』


「運が良いのか悪いのか、俺達は既に現地にいるよ。クゥがヘリに変身して、攻撃を開始するところだ」


『それは良かった。念のためお願いしますが、本堂は国宝ですので絶対に傷つけないようにしてくださいね』


 その天照の言葉は微妙に届かずクゥが放った対戦車ミサイルは、黒い球体を逸れ御神木に命中してしまう。火のついた御神木の破片が本堂の屋根にまで飛び、慌てて陸は消火器を探し始めた。


「おかしい、どうやっても照準がずれてしまう。もしかしてデモンの仕業?」


 クゥの呟きは陸の耳にも届いた、どうやら何らかの妨害を受けているらしい。だが照準の修正をしている間に、黒い球体にヒビが入ると中から黒い棒状の化け物が現れ空に舞い上がった!


「あれがデモン。まるで……ぷっ、空飛ぶウナギだ」


 緊張感もなく陸は吹いてしまう、だがそれを窘めたのは冷静なクゥ。


「陸、油断しないで。あのデモンは単体とはいえ、おそらくは騎士号クラス。攻撃が直撃すれば、ワタシでもただでは済まない。それよりも陸……消火を急いで」


「えっ?」


 本堂の延焼を防いで安心していたが、飛んだ破片で周囲には白い煙が。陸はペンダントを通して天照に、消防車の出動を要請する。


「済まない。御神木が木っ端微塵になって、破片で裏の山に燃え移ろうとしている。付近の消防署に、出動を要請してもらえないか?」


『……山火事に発展したら怖いから、自衛隊にも要請しておくわ。チヌークまで出す事態とならないよう、早めに片付けるように!』


「前向きに善処します」


 陸は通信を切ると、自分も攻撃に加わる方法はないか周囲を走り回った。そして小善寺の前を流れる月川の反対側に、良さげな場所があることに気付く。それは中央自動車道、略して中央道だった……。




 バキバキバキ……! 勝湖ICのETCゲートを一台の戦車が破壊しながら、高速道路へ侵入する。料金所の職員が即座に警察に通報したが、到着するまでの時間なにもすることができない。悔しそうに戦車が向かった上り線の空を見上げると、視線の先では空飛ぶ黒ウナギとヘリコプターが戦っていた。


 クゥはウナギ型のデモンを相手に苦戦している。機銃で攻撃しても、身体を曲げて攻撃を避けるうえに想像以上に動きも素早い。虎の子の空対空ミサイルを使用するにしても、デモンの攻撃を引きつける何かがあれば……。


 すると後方から高速で飛翔してくる物体を感じてクゥが避けると、徐々に高度を下げて浅沢入り口の交差点付近にあった遠藤勇の像に直撃する。


「あちゃ~! もう少し角度をつけておけば良かった」


「陸!?」


 クゥが振り返ると10式戦車に変身した陸が、中央道の上り線から主砲を撃っていた。


「これだけ離れていれば、射角をそれほど気にしなくても攻撃出来る。俺が支援するからクゥは攻撃に専念しろ」


「……うん、わかった」


 小善寺の方では消防のサイレン、中央道ではパトカーのサイレンが近づいてくる。ここまで騒ぎが大きくなると、揉み消す方も苦労するに違いない。だがデモンを撃破しないと多くの人の命を危険にさらしてしまう。


 陸は自分が囮になることを決断した。


「俺が奴の目を引きつける、その間にクゥがトドメを刺してくれ」


「でも……」


「いいから!」


 陸はデモンに向けて主砲を発射する。ろくに狙いを定めずに撃った弾は、デモンを逸れ柏頭山かしずやまの裏に作られたソーラー発電所に命中した。


 後方から上がる土煙を見て、デモンは攻撃対象をクゥから陸に変える。彼女の横を通り過ぎようとするデモンをロックすると、クゥは空対空ミサイルを発射した!


「陸はワタシが守る!」


 背後から撃たれたデモンは避けることが出来ず、直撃を許してしまう。そして黒い身体を大きく膨らませると、陸達の目の前で爆散してしまった……。


「……これで終わったのか?」


「多分。それよりも陸……早く逃げて」


「えっ?」


 陸がまわりを見ると、たくさんのパトカーに囲まれている。


「抵抗を止め、車両からおりて投降しなさい! 君は完全に包囲されている!」


 その後変身を解いた陸に、戦車をどこに隠したのか警官が詰め寄った。だが迎えに来た須佐之男が一言二言警官に向かって喋ると、何故か全員引き上げていく。呆然と見ている陸を車に乗せると、須佐之男は彼を学園とは別の場所に連れていった。


「とりあえずご苦労、だが今回も幾つか損害を出してしまった。そこでこれから一週間、おまえには東藤演習場ひがしふじえんしゅうじょうでデモンとの戦闘を想定した実弾演習を行うことにする」


「実弾演習!?」


「現役の隊員直々の指導だ、帰ってきたら男前の顔になっていることを期待している」


 そして一週間後陸は男前になるどころか、全身を包帯でぐるぐる巻きにされた状態で学園に戻ってきたのである……。松葉杖をつきながら校門を抜けると、グラウンドで全校集会が開かれていた。朝礼台に立つ須佐之男の隣には、見覚えのある女性が白衣を着て立っている。


「っという訳でこの天照先生が、今日から本学園の保険医となりました。わざと負傷して保健室に通わないように」


「本日より当学園の保険医となった、天照あまてらす 大日女おおひめです。皆さん、宜しくお願いします」


 自室という天岩戸に閉じこもりたい、陸は本気でそう思いかけていた……。

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