休日返上
最寄り駅のチェーンコーヒーショップ。昔からSNSを上手く使って急成長した~。などと特に自分とは関係の無いことを思いながらコーヒーを啜る。今日のコーヒーはコスタリカ産だったか。コーヒー豆由来の上品な薫りが鼻を抜ける。今日は大学も仕事も無い。持ってきた小説を読もうとかばんに手を掛けた瞬間、机に置いてあったスマホが着信が届いたという振動を発した。その振動音でコーヒーで良くなった気分も何処かへ吹っ飛び、嫌な予感を感じながらスマホを手にとった。
「…はい。今日は休みのはずなんだけど?。」
「おぅ、それがな。ちぃーとばかし面倒になりそうでな?力貸してくんね?」
「…後で飯ね。」
「しゃぁねぇ。背に腹は変えられねぇ。30分後に何時ものところで説明するわ。じゃ。」
と、「こっちの居場所も聞かないんかい」、と悪態をつきつつ、カップのコーヒーを飲み干し、ご馳走さまとともに店を飛び出した。
「で、何で僕は今日呼ばれた訳?」
「いや、今日の仕事なんだけどよ。俺と相性が悪くてな?それで…」
「なる程、つまり「俺は脳筋なので、助けて下さい」と。」
「どうしてそうなる!泣くぞ!」
「はいはい、で詳細は?」
と、事務所で使っているビルの一室にあるオフィスで、僕と僕の休日を邪魔した悪の権化、筋肉馬鹿、脳筋の神向 水火はタブレッドPCを顔を合わせる形で覗いている。画面にはこれから向かう場所の地図と、メモアプリが立ち上がっている。
「はぁ…。まぁいい、場所は東京の此処だ。まぁ何というか、出るって話だ。」
そういってタブレットに表示されている地図を指差す。
「帰るね。」
なんだ、出るって。この馬鹿はふざけているのか。
「わー!待て待て!すまなかった!すいません!ちゃんと説明します!。…っふぅ。まぁあまり情報が無くてな?。民間人二人が夜道で刺殺。刺殺と言っても刃物ではないもので殺されているらしい。既に協会から規制と人払いぐらいは入れられてるからそこまで厄介な奴ではないみたいだが、まぁ俺らに回されているってことは…。」
「ドンパチって事だよなぁ。でもこれ霊的災害ではないんじゃないかな?」
「いや、それがな?血で逆十字にペンタグラムが描かれていた。これが写真。」
といって、水火は被害者と思わしき血で生々しく、しかし、精巧にペンタグラムの中央に逆十字が描かれている写真をPCに表示させた。
「うっわぁ。何、ということは何処かの馬鹿が呪術災害でもしようとしているって事か。というかこれ、早く蹴りつけないとやばいな。」
呪術災害とは、その通り呪術と呼ばれる現代から排斥された法により、通常保たれている世界の均衡を崩れ、通常では起こり得ない事象現象が起きるとこ。
その名の通り災害である。
「まぁ協会から緊急で流れてきてはいない以上、マジでやばいと言うわけではないみたいだが、すぐに蹴りをつけたほうがいい事に変わりはないな。」
「で、いつ当たる?」
「早ければ今晩にも。」
「はぁ、了解。そろそろ休暇も終わっちゃうし、早めに終わらせて温泉でも行っておこう。勿論水火の奢りで」
「それも俺のかよ!?」
東京某所。海沿いに倉庫やクレーンが建ち並ぶ、海の物流拠点のど真ん中に、眠たい目を擦りながら、水火と歩いている。真夜中に。
「帰っていい?」
「終わったらラーメンと温泉奢るから!頼んまっす!」
「はいはい。」
そうくだらないやり取りをしながら進んでいると、明らかに雰囲気が違う倉庫に通りかかった。水火も気付いているのか、此方に目配せをしてくる。と次の瞬間、僕と水火は二手に別れ、大きく横に飛んだ。今までいた場所には明らかに自然発生したものではありえない。黒く淀んだ火柱が轟音をあげながら出現し、アスファルトを溶解させた。
「警告無しの攻撃たぁ、中々御大層なお出迎えだなぁ!」
「あーもう、結局こうなるんだ。平和的交渉とかって言うのは無し?」
「敵さんに聞いてみるといいんじゃね」
と、次々と出てくる火柱を後退しながら避け、大きく後ろに飛んだ。攻撃が止み、視界を倉庫に向けると、待ってましたとばかりに中から腕が血まみれの男が無骨なナタを持ちながら出てきた。
「若いお二人さん。こんなところに何のようかしらー?」
その男は薄ら笑いを浮かべながら、無骨なナタを肩にあてがい此方に尋ねてきた。
「俺らに攻撃してきたってことは、やる気満々なんでしょ?」
「然り、いいねぇまた若い贄が。しかも今度は二人ぃー!いいねぇいいねぇいいねぇ!前の子たちと一緒に贄にしてあげるよぉ」
そう言い、一般の人間ではありえない速度で突っ込んできた。
「うわ、めんど。水火、処理」
「お前も少しは手伝えよ!?」
そう言いながら、水火はポケットから一枚の札を取り出す。そして、
「開放」と一言言い放つ。次の瞬間、札を中心に空間がぼやけ、空間が戻ると其処には一本の鍔がない真っ直ぐな鞘に入った刀が現れた。それを掴み流れるような動作で抜刀すると、そのまま男と切結ぶ。
「へぇ、魔術師だったんだねぇ。尚更良い良い。」
「へいへい。で、お前を捕まえに来たんだが、今投降すれば、薄切りスライスにならなくて済むぜ?」
「そんなありきたりな台詞じゃ私は止まらないよぉ!」
「うっせぇありきたり言うな!オーケー。じゃ、警告はしたし、いっちょやるか。」
そう言うと男と水火は一度大きく後ろに飛び、次の手に移る。
男が、腕に付いていた血を横一線に地面に振りまく。
次の瞬間、先程にも見た淀んだ薄暗い火柱が立ち上り、水火に襲いかかった。