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副官サマの日記帳  作者: 茅嶋ときわ
13/50

副官サマのメイドの腕前 前編

2021年もどうぞよろしくお願いします!

 ルカ様が襲われた翌日早朝。私は肩を叩かれて目が覚めた。まだぼんやりする視界が捉えたのは、呆れた顔のルカ様だった。

 

「朝まで見ている必要はなかったのでは?」


 私はハッとして背もたれから背をはなし、背筋をただして尋ねる。


「ご気分は?」

 

 そう尋ねると、ルカ様はうーんと伸びをしてからゆっくりと答えた。

 

「昨日よりは良いですよ。ちょっと喉は痛いですけどね」

 

 確かに、声は掠れているものの、顔色は昨夜よりもだいぶ良い。

 

「セオドールは僕が起きる前に出て行ったみたいですよ。支度は自分でできますから、セオドールを手伝っては?」

 

 ルカ様に言われ、私はまたハッとして慌てて椅子から立ち上がった。

 手伝いが必要か必要じゃないか、それともさっさと下がって朝の仕事を進めるべきか、そんな行動の選択肢が頭に一切なかった。

 先に気づくべきなのに、主人に指摘されてしまったことがどうにも恥ずかしくて、私はうつむき加減で自分にかかっていた薄手の毛布を畳んでルカ様に頭を下げた。

 頭を下げて目に飛び込んできたのは、濃い緑の絨毯にカーテンの隙間から落ちた細い光だ。その光が妙に眩しく感じるのは、あまり深く眠れなかったからだろうか。

 私は使っていた椅子を壁際に戻し、もう一度ルカ様に頭を下げて部屋を後にした。

 足早に台所まで行って中に入ると、鍋をかき回しながらセオドール様が振り返って、挨拶と質問を投げてきた。

 

「おやレティシア、おはようございます。ルカ様はお目覚めですか?」

 

 私は挨拶を返して、「今お支度を始められたところです」と答える。そうするとセオドール様は頷いて鍋に視線を戻し、顔を洗ったら朝食用の皿を出すようにと吊り戸棚を指さして言った。

 私は言われた通りに自室に戻ってさっと顔を洗い、髪と衣服の乱れを簡単に直してから再び台所へ戻り、準備を始めた。

 薄めに味付けた野菜のスープが入った鍋と、それぞれの好みに合わせて焼いた卵とパンの、簡単な()()()の朝食を客間まで運び、窓際にある広めのダイニングテーブルに並べていく。

 短辺にルカ様の分を、その両側に、十分なゆとりを取ってセオドール様と私の分を。

 こうして主人を囲んで食事を取るという食事形式には未だ慣れず、お皿を並べながら毎回戸惑ってしまう。

 

「いい匂いですね」

 

 私があらかた食事を並べ終えるとルカ様がやってきて、いつの間にかテーブル近くに立っていたセオドール様がさっと椅子を引いた。

 ルカ様が着席すると、セオドール様がルカ様にスープをよそって置いて、それから鍋の横に置いてあったゴブレットをどん! とわざと音を立ててスープ皿よりも前に置いて言った。

 

「だいぶ顔色が良くなりましたが、ここでご無理なさいますと、()()悪化しますからね!」


 確かに、昨夜のように無理をされては治りも遅く、悪化してしまうだろう。またふらついたりするほど熱が上がったら大変だ。

 心配になって思わず私もルカ様をじっと見ると、ルカ様はうんざりした顔でゴブレットを見下ろして、「わかっていますよ」とつぶやくように言った。その様子が気に入らなかったのか、セオドール様はさらに小言を続けた。

 

「本当にわかっていらっしゃるんでしょうかね? 今日は早く戻ってもらいますからね! 部屋で仕事をするのも無しでございますよ! 夏至祭もそうですが、ご無理が祟ってルチアーノ公の夜会に出られなくなったら困るでしょう?」 

「わかっている……」

 

 ルカ様は渋々といった様子で薬湯に口をつけ、一気に飲み干してから「はぁ」と重苦しいため息をついて、丸パンを一つ手に取った。

 夏至祭までにはだいたいひと月あるから、さすがにそれまでには完治すると思うが、体調だけでなく仕事の進み具合のこともセオドール様は含んでおっしゃったのだろう。


「ところでセオードル、例の件は頼みましたか?」


 小言を言い終えて着席したセオドール様に、ルカ様が尋ねると、セオドール様は持ち上げかけていたフォークを皿に戻して答えた。

 

「レティシアの件でございますか? ならばもう、段取りをつけてございますよ。向こう様が三日後が都合がよろしいとのことでしたので、予約をしてまいりました」

「そうですか。三日後なら僕も完治しているでしょうし、好都合ですね。セオドールも同席して構いませんよ。気になるでしょうしね」

「かしこまりましてございます!」

 

 なんの話をしているのかと思えば、そうか、私の剣の腕前を測るという話か。

 ルカ様の体調のことに気を取られて忘れていたが、昨夜刺客に襲われた後に、家族諸々また疑われる羽目になったのだった。

 思い出したら気分が暗くなり、パンに伸ばそうとしていた手が止まった。


「じゃあ、夕方までには戻るようにしますから」

 

 ルカ様がそう言って立ち上がって、近くに置いてあった書類挟みと錫杖を持って扉へと向かった。

 食事済みの皿とは到底思えない量が残っているが、まだ食欲がないのだろう。

 

「お約束の時間に帰って来なかったら、お迎えにあがりますからね!」

 

 扉向こうに消えていくルカ様の背に、立ち上がらずにセオドール様が言葉を投げた。

 ルカ様から返事はなく、パタン と扉の閉まる音だけが返ってきた。

 セオドール様は返事がなかったことに少し不満そうに鼻を鳴らしたが、すぐに好みの具合に炒った卵を嬉しそうに見下ろして頬張り始めた。

 そろって朝食をとる時は、大体がこんな感じだ。

 主人の見送りをしなくても良いのだろうかと今でも思うし、ルカ様が立ち上がるとつい条件反射で腰が浮くが、ルカ様もセオドール様も三人の時はやらなくてもいいと言う。

 ルカ様が言うには、私生活ではあまり緊張感を持ちたくないのだそうだ。

 ルカ様の仕事のことを考慮して、そう求められたらその意思は尊重すべきだろう——— と、当初同席を渋る私を、そうやって言い含めたのはセオドール様だ。

 私は卵をもりもり口に頬張っているセオドール様をチラリと見た。

 昨夜ルカ様に疑われた件を、セオドール様はどう思っているのだろう。

 態度に変化はないし、特に疑いはお持ちでないのだろうか。

 私はパンを一つ手に取り、ちょっとだけ肩を落とした。

 

「どうしました? 今朝は食事が進んでいませんね? ルカ様のお風邪がうつりましたか?」

 

 肩を落とした私を見て、セオドール様が眉をひそめた。

 私は慌てて「いいえ」と首を振り、パンをちぎって口に入れる。

 ルカ様がお出かけになられて気を取られることが無くなったとたん、頭を支配するのは自分のことだ。

 疑いの件は今の私にはどうしようもないが、剣についてはどうだ? 不安じゃないか?

 宮廷で働き始めてから今日まで、ほとんど剣を触っていない。

 与えられた少ない休日に実家へ戻った時だって、鍛錬なんてしなかった。

 昨夜刺客に襲われた時は、運が良かったのだと思う。咄嗟にあれだけ動けたことが、自分でも不思議でならない。

 そもそも、腕を確かめるとは何をするのだろうか? 単に型を振れとか、そんな生ぬるいことじゃないだろう。

 先程お二人がしていた話からすると、懇意の兵士——— もしかしたら騎士とかを相手に模擬戦をするのだろう。私の腕なんて、実戦をしている人間からしたら手習も良いところだろうに。何だか申し訳ない気がしてくる。

 私の稽古相手といえば、ずっと父や兄、兄の友人で、ちゃんとした戦闘といえば近所の大ネズミ退治くらいだ。

 〝はぁ〟とつい重たいため息をつきたくなってしまう。けど、私はため息をグッと飲み込んだ。

 ため息をついている姿をセオドール様に見られたら、また心配されそうだからだ。

 

「あぁそうだレティシア、今日はベッド周りの洗える物は、全部持っていって下さい。風邪の時は小まめに取り替えたいので」


 朝食終わりの紅茶をゆったり飲み始めたセオドール様が、チラリとルカ様の部屋を見て言った。私は「かしこまりました」と頷いて、お茶以外の朝食の片付けを簡単に済ませてルカ様の部屋へとい(おもむ)いた。

 シーツからベッドカバーまで、洗えるものを全て()がし、底の深い籠にどんどん入れていく。浴室のタオルや着替えやらの、普段の洗濯物を収める頃には、リネン類が山のように積み上がってしまった。

 私は一度カゴを見下ろしてから一息つき、気合を入れて籠を持ち上げ、ルカ様の寝室を出た。

 客間に戻るとお茶を飲み終えたセオドール様が後片付けをしていた。

 私はセオドール様に「行ってまいります」と挨拶をして、リネン室へと向かう。

 廊下を歩くたびに目の前のリネンの山がゆらゆらと揺れ、視界が遮られる。しっかり乗せているから落ちたりはしないが、鼻の高さまである布の山はけっこう邪魔だ。

 私は「はぁ」と我慢していたため息を吐いた。

 

『殿下たちにあなたの身辺について指摘された夜に、こうも偶然に襲われるなんて、できすぎていませんか?』

 

 ため息を吐くと、ルカ様が昨夜言った言葉が脳裏に蘇り、私は歩く速度をわずかに落とした。

 アレス皇子たちに疑われている。

 その事実が私の精神にかなり打撃を与えている。

 尊敬し慕っている人間に疑われるというのはかなり辛い。

 ルカ様の日記帳を読んだあの日から、前にも増して清廉潔白でいようと心に誓って生活してきたのに、茫然自失もいいところだ。自分にはどうにもならない家族についてまで持ち出されたら、もうどうしようもないではないか。

 昨日の話からするに、一番懸念されているのは元宮廷魔導師の母だが、父は所在を知らないと言うし、こちらからの連絡手段はない。だから、本人に潔白を証明してもらうことはできない。

 これ以上、悪い方向へ進まないように礼拝堂で祈ろうかしら。

 そんな考えが浮かぶ頃には、リネン室の近くまで来ていた。そうして、リネンの山からちらと見えたのは、リネン室の戸口から中を覗いて眉をしかめているソレーユさんだ。

 ソレーユさんの手には、持ち手付きの小ぶりの籠と、薄い翡翠色の肩掛けがある。どうやら届け物の途中のようだ。

 どうして中に入らないのだろうと不思議に思いつつリネン室に近づくと、中からボソボソと複数人の声が聞こえてきた。噂話だろうか。くぐもった声は途中で消え、話の内容は私の耳まで届かない。

 ソレーユさんに手を伸ばせば届くほどの距離に来ると、ソレーユさんが私に気づいて顔を向けた。そうしてソレーユさんは二度、リネン室の中と私を交互に見てから、少しだけ口の端をキュッと動かして私の方へと歩いてきた。

 私が挨拶をしようとすると、ソレーユさんはそれを(さえぎ)るように持っていた籠と肩掛けを、私が持つ籠の(かたわ)らから押し付けるようにしてさっと取り替え、私から受け取ったリネンいっぱいの籠を廊下に置き、エプロンのポケットから取り出した携帯用のペンとメモ帳を扱い始めた。

 あまりの手際の良さに呆然(ぼうぜん)としていると、ソレーユさんは数秒で書き上げたメモをベリっと一枚はがし、無理やり私の手に渡した。

 

「行けば分かるわ」

 

 そう言われてメモの内容に目を向けると、〝図書室付近の渡り廊下を東屋とは反対側に下りた先にある小川に行け〟と書いてあった。そうして、〝セオドール様には言っておく〟ともあった。

 首をかしげてソレーユさんを見るが、ソレーユさんは置いていた籠を拾い上げて、〝しっしっ〟と手で払う仕草をしながらリネン室へと向かってしまった。

 どうやらソレーユさんは私をリネン室から遠ざけたいようだ。なら、中では私にまつわる噂話が繰り広げられているということか。

 私はため息をついてメモを見直す。

 ソレーユさんのメモを無視することはできない。セオドール様には言っておくともあるし、言われた通りに小川へと向かうしかない。

 私は手提げ籠と肩掛けを手に、足早に元来た道を戻り、廊下を抜けて指定の回廊を降りて小川まで進んだ。

 小川まで来ると、側にある薄い枝葉の林から、朝の木漏れ日がキラキラと差していた。

 そんな木漏れ日を受け、小川のほとりにしゃがみ込んでいる銀髪の少女が一人。

 見間違えることもない。北の皇女、イリア様だ。

 どうやらこの届け物はイリア様への物のようだ。

 あぁ、どうしたらいいのか。皇女様に声をかけるなんて、どうやって?

 私は動揺しながら躊躇いがちに、イリア様に声をかけた。

 

「あの……イリア様、お届けものでございます」

「あら、ありがとう」

 

 イリア様はゆっくり振り返りながら言って、私へ顔を上げた。

 愛らしい小さな顔には、薄い微笑みが浮かんでいる。

 

「あら? ソレーユは?」

 

 私の顔を見たイリア様は、不思議そうに首を傾げた。

 私は途中でソレーユに頼まれたのだと告げ、頭を下げる。

 イリア様は「そう……」と言って少し考えるような仕草をしてから、再び私に視線を向けて尋ねた。

 

「あなた、名前は?」


 穏やかそうな優しい声音には、どこか緊張感を帯びている。

 私は頭を下げたまま「レティシアと申します」とだけ答えた。

 

「レティシア? レティシア・スプリング?」

「……は、はい?」

 

 名だけ告げたのに、なぜイリア様は私の苗字ごと呼んだのか? 私のことをご存知なのだろうか?

 わずかに顔を上げて見ると、菫色の瞳を大きく開いた興奮気味のイリア様の顔が見えた。

 

「あら、あらそう! まぁ、どうしようかしら……」

 

 心なしか、声も弾んでいるように聞こえるが、いったいどうしてそんな調子になるのだろうか。

 イリア様の顔が明るさを帯びる一方で、私の顔はどんどん怪訝になっていく。

 ルカ様か? それとも、アレス皇子だろうか?

 誰から聞いたかわからないが、イリア様は確かに私のことをご存知のご様子だ。

 

「どのみちソレーユに手伝ってもらおうと思っていたのです。レティシアは、ルカのところのメイドよね? セオドールには伝えるから、薬草を摘むのを手伝ってくださらない?」

「薬草……で、ございますか?」

「えぇそうよ。際夏水草(さいかすいそう)というの。軟膏に混ぜたりする薬草なのだけれど、この時期の、朝のこの時間に摘むと効能が良いのですって。どうかしら?」

 

 姫君に頼まれて断る度胸は私にはない。

 頷いて見せると、イリア様は自分の両手の指先を軽く合わせて、「よかったわ」と楽しげに笑い、腰に下げていた小さなポーチからダートを取り出した。そうしてダートに走り書いた手紙を仕掛けに仕舞い込み、空に向かって投げたイリア様は、私を手招きする。

    

「三十分か、長くても一時間以内には終わると思うの。さ、水際を探してちょうだい」

 

 私は小川に近づいて、イリア様から少し距離を取って水際にしゃがみ込む。

 際夏水草は水際の、確か石の隙間から生えていることが多かっただろうか。子供の頃に手伝いで採った時のことを思い返す。

 

「あ、その草よ」

 

 イリア様が私の手元を指さした。

 手のひらに収まる大きさの石の脇から、水々しい緑色の、小さな薄い葉の草が生えている。この草の存在を知らなければ、うっかり見落として気づかないだろう。

 

「採ったらこの籠に入れてちょうだい」

 

 先ほど渡した手提げ籠を指さして、イリア様はまた水際に視線を向け直した。

 私は際夏水草を籠に入れてから、同じように水際に視線を向ける。

 よく考えてみたら、イリア様も魔導師様か。きっと簡単な薬は自分で作っているのだろう。

 私とイリア様は二人で黙々と石の脇から際夏水草を摘み、籠へと入れていった。

 しばらくそんな作業を繰り返していると、イリア様が手を止めずに尋ねてきた。

 

「ルカのところには慣れて?」

 

 その尋ね方からするに、イリア様は私が宮廷からルカ様のところへ引き抜かれたことを知っているようだ。

 私はどう答えたら良いものかと少し悩んでから答えを返した。

 

「なかなか、慣れるには大変でございます……」

 

 本当は、〝慣れてきております〟とか〝慣れました〟と答えた方が、ルカ様やセオドール様の手前、そして自分の立場的には良いのだろうが、私は正直に答えることにした。

 イリア様の独特な雰囲気のせいもあるのかも知れない。

 嘘をついたらいけないと思わせる空気を感じるのだ。

 

「宮廷の仕事とはだいぶ勝手が違うの?」

 

 嫌味などの他意を感じない、純粋な質問を向けてくるイリア様に、私は「そうですね」と頷いた。

 宮廷での私の仕事は主に掃除と片付けだった。しかし、ルカ様のところでは宮廷の仕事に加えて、食事の支度やセオドール様とルカ様の、ちょっとした手伝いがある。

 そうしてこの、ちょっとした手伝いが、慣れない大きな原因でもある。

 手伝いの内容は様々で、セオドール様やルカ様が居ない時に訪れた客人への対応や、魔石を使った空調管理、温室の水やりや諸処(しょしょ)への伝言役、食品を含む台所用品や掃除用具の在庫管理、献立作成に急な買い出しなんていうのもある。あと、滅多にないことだろうが、城下へのお供を言いつかりもした。

 そうして、慣れぬ仕事の中で起こる不測の事態。

 これにはもう、どう対処していいのか、どうするのが正解なのか、正直まったくわからない。

 城下に行けばルカ様は橋の下に落ちるし、宮廷では刺客と遭遇するし、挙句にはまた反逆者ではないかと疑われている。

 

「はぁ」

 

と、思わずため息がこぼれ、慌てて口元を手の甲で覆ってイリア様を見た。

 イリア様は少し驚いたような顔をしていたが、すぐに元の薄い微笑みに戻って静かに言った。

 

「ルカもセオドールも曲者(くせもの)ですからね。慣れるには大変でしょう。でも、根はとても良いのよ」

「それは、わかってございます」

 

 良い人でなければ疑われた時点で私は宮廷から放り出されているだろう。

 

「じゃあ何か、とんでもないことを押し付けられたのね」

 

 クスクスと笑って、イリア様は集めた際夏水草を籠にパラパラと落とした。

 とんでもないこと——— そう、三日後に腕前を調べられると言うのが、正直今の私にとっては一番憂鬱だ。

 

「あらあら、腕前?」

 

 イリア様が反芻(はんすう)して、私はハッとして今度は手のひらで口元を覆った。

 どうやらぽろっと口から出てしまったらしい。

 

「腕前——— と言うのは、なんのかしら?」

 

 そう尋ねながら興味津々の笑顔で少しずつ近づいてくるイリア様を、私はどうしても、交わすことはできなかった。

 

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