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副官サマの日記帳  作者: 茅嶋ときわ
12/50

副官サマと刺客 後編

 夕方、約束通りに普段より早めに戻られたルカ様は、夕食後数時間は静かに休まれていた。しかし、二十一時半を回った頃に、急に気になる箇所を思い出したと言って書記官室へと行ってしまった。それからかれこれ一時間弱。一向にお戻りになられないルカ様を、セオドール様に連れ戻してこいときつく言われた。

 私は魔石のランタンをぶら下げて、薄暗い政務区の廊下を静かに歩く。

 昼間は窓から入る灯りで煌びやかに見えるこの廊下は、夜がふけると不気味さがそこらじゅうに蔓延る。

 人気がないからかもしれないが、数年前に皇帝陛下が決めた灯火令(ともしびれい)のせいもある。

 

 夜は不用意に明かりを灯すな。

 

 大きな城は魔石や蝋燭の消費が激しい。だから経費削減の一環として、夜間未使用の廊下は警備用の明かり以外は灯さないことになったのだ。

 そのことについて異論はないが、人気のないだだっ広い廊下をぼんやりとした灯りの中で歩くのはすごく嫌だ。

 閉じられたカーテンが揺れている気がしたり、廊下のどこかで何か物音がしたような気もする。

 私は怖い想像をしだす頭を何度も振りながら、足早に書記官室へと向かった。

 書記官室のある廊下の入り口には衛兵が二人立っていた。

 彼らは私に気がついたが声をかけることはなかった。

 私は彼らの前を通り、何部屋かある書記官室の扉をじっと観察する。

 セオドール様に言われた番号は五番だったはず。私はその番号が貼られた書記官室のドアを見つけると、早めにコンコンと叩いた。

 

「ルカ様。レティシアでございます」

 

 声をかけるとすぐに「どうぞ」と掠れた声が聞こえてきた。

 音を立てずにドアを開けて入ると、ルカ様は壁に沿って置かれた机に向かっていた。

 私は十分に距離をとってルカ様の斜め後ろに立ち声をかける。

 

「そろそろお戻りになられては? かれこれ一時間でございます」

「そんなに経ちましたか?」

 

 ルカ様が机の端に置かれている置き時計の針を目で追った。

 

「セオドールは怒っていましたか?」

 

 私がうなずいて「はい」と答えると、ルカ様は小さくため息をついて「もうちょっとだけ。十分ほど」とまた書類に視線を戻してしまった。

 よく集中しているのが背中からでもわかり、声がかけづらい。

 十分くらいならば急かさず待つべきだろうか。セオドール様なら椅子から立たせてでも連れて帰りそうだが、さすがに私にはできない。やはり待つしかないか。

 カチコチと、置き時計の針が進む音が聞こえる。その正確な音の中、ときおり紙の擦れる音や羽ペンの走る音が混じる。

 静かな空間にある魔石のランタンと机の周囲を照らすルカ様の魔法の淡い光。そこだけ見れば幻想的に思えるが、夜に一人でこの部屋で仕事をするのはちょっと怖い。

 さほど広くはないこの書記官室は、ルカ様の使っている机以外の場所は仄暗い。

 厚手のカーテンもしっかり閉じられているから外の光は全く入ってこない。だから、部屋の隅の方はあまりはっきりと見えない。つい、その暗がりにあらぬものを想像してしまう。

 妙な寒気を感じて私は部屋の隅から視線を逸らし、ルカ様の後ろ姿をじっと見据えた。

 怖い想像を払拭するようにルカ様を観察する。

 丁寧に切られた髪の襟足は少し短めで清潔感がある。

 ときおりサラサラと揺れる前髪が耳の影から見え、その糖蜜色に近い髪色がキラキラと魔石の明かりに反射して綺麗だ。

 ルカ様の姿を初めて見たのは、確か宮廷に勤め始めた頃だったか。

 最初の印象は綺麗な人——— だった。

 噂では冷酷な白魔導師とか言われていたが、そんな風には見えなかった。

 貴族の御子息——— 綺麗な人に続いて浮かんだのはそれだ。

 不自由なく育ち、愛情に恵まれ教養もある。身のこなし一つとっても私たち庶民とは雲泥の差だ。

 

「もう終わりますから」

 

 視線を感じたのか、ルカ様がそう言って羽ペンを元の位置に戻した。それから机の上にある紙をまとめて卓上で端を揃え、黒い書類挟みにしっかりと仕舞い込んで小さくため息をつく。ずいぶんと気怠げな息の吐き方だ。

 

「大丈夫でございますか?」

 

 思わず声をかけると、ルカ様が振り返って小さく笑みを浮かべた。ルカ様の頬は少し赤みを帯びている。

 

「大丈夫だと思いますよ。少し熱が上がったくらいでしょう。さて、戻りましょうか」

 

 机を支えに立ち上がるルカ様の足元で、ギッと椅子の足が鳴った。よろけないかと心配になり、思わず二歩ほど前に出るが、立ち上がったルカ様は書類挟みを持ち上げて忘れ物がないかを確認し始めたので、私はホッとしてその場に留まった。

 ルカ様が椅子を元に戻して振り返る。

 揺れた前髪の下に、どこかぼんやりしている薄い水色の瞳が覗く。

 振り返ったルカ様がパチンと指を鳴らして魔法の明かりを消した。

 室内に残るのは私が持ってきた魔石のランタンの明かりだけだ。

 薄い水色の瞳にランタンの明かりがゆらゆらと揺れ、その目が潤んでいることがわかる。おそらく熱のせいだろうが、妙に扇情的だ。

 

「レティシア?」

 

 よほど見入っていたのか、ルカ様に顔を覗き込まれて我に帰った。


「も、申し訳ございません」

 

 クスクスとルカ様が笑った。その表情はとても穏やかだ。 

 

「あなたは可愛い人ですね」

 

 今ルカ様は何とおっしゃたのか? 我が耳を疑い眉を寄せようとすると、頬にルカ様の指先が触れた。その指先はほんのり暖かい。

 その暖かさに引き込まれるようにルカ様へ踏み出す足。

 何故自分が前に歩んでいるのかわからない。

 自然と近づく距離に、心臓の鼓動が早くなる。けど、胸の内側から叩くその鼓動の音は私の耳には届かない。聞こえるのはわずかに擦れる衣服の音だけだ。

 妙に感覚が研ぎ澄まされていく。

 すぐ鼻が触れ合うくらいまで近づくと、ルカ様に見つめられるのが急に恥ずかしくなって目をつむる。そうすると、感覚は余計に鋭さを増した。

 衣服の擦れる音に吐息が混じる。

 唇に触れるか触れないかの距離に熱を感じる。

 腕にそっと触れられて、そこから伝わる熱が心地良い。

 このままじゃいけない。いさめないと。これは真っ当な関係じゃない。そう頭の中で冷静な自分が言っても、体は動かなかった。

 このまま受け入れてしまおうと、ただ流れに身を任せている。

 頬にルカ様の熱い手が触れると、耳の奥でわずかに土埃を踏む音がした。

 私は反射的にルカ様の肩を押し、一緒に床へと転がる。

 背中を床に打ちつけたルカ様が痛みで呻いた。

 わずかに背後を振り向くと、机に刺さった一本のナイフが光って見えた。そうして同時に放たれたであろうもう一本も視界に映り込んだ。先ほど立っていた場所の絨毯に弾かれて音もなく倒れたところだ。

 強い殺気が天井から降ってきて、私はとっさに近くの机の上に見えた手紙の封切り用ナイフに手を伸ばす。

 天井から舞い降りる黒い影。

 響く金属音。

 私の手が無意識に弾いたのは鋭いナイフだった。その鋭さに耐え切れず、私の手したナイフの刃が割れ落ちる。

 

「チッ、護衛だったか……」

 

 黒い影のような衣服の男が私を見て呟いた。

 ルカ様を見ると、いつの間にか錫杖を握っている。

 男は形勢が悪いと判断したのか、後退して窓へと身を投げた。

 硝子の割れる音が室内に反響する。

 追おうとする私をルカ様が錫杖で止めた。

 どうして止めるのかと振り返るが、ルカ様は首を振るだけだ。

 

「何事でございますか!」

 

 扉を叩く衛兵に、ルカ様が「入れ」と促した。

 扉を勢いよく開けて入ってくる衛兵の顔は厳しく引きつっている。

 

「廊下に他に人は?」

「我々だけです」

 

 ルカ様の質問にきびきびと答える衛兵が部屋を見回して緊張感をさらに高めた。

 破れた窓に一人が駆け寄ろうとするが、ルカ様がそれを止める。

 

「もう逃げました。追わないで下さい。この件は他言無用でお願いします」

 

 淡々と告げるルカ様に、衛兵二人は顔をしかめた。

 

「しかし、このような事態は上役にお伝えせねば……」

「僕が預かります。あなたたちの上役には何も報告しないよう。レティシアも、セオドール以外には話さないで下さい。良いですね?」

 

 


   *  *  *  


  

 

 衛兵たちを言い含めて部屋に帰ると、セオドールがソワソワした様子で待ち構えていた。

 

「ルカ様! 一時間以上も外で仕事なさるなんて! レティシアも! 呼び行ったきりずいぶんと遅かったじゃあありませんか!」

「セオドール、あなたのその小言は後で聞きます。とにかく客間へ。それから水をくれませんか?」

 

 セオドールは僕らの様子がおかしいと感じたのか、小言を言うのやめて台所へと水を取りに行った。

 

「レティシアはこっちに」

 

 僕は台所に向かうセオドールの背を見ているレティシアの腕を掴み、客間に引きずるように入る。

 

「ルカ様……」

 

 不安げな面持ちで僕を見るレティシアを無理やりソファに座らせて、近くの一人がけに僕も腰を下ろした。

 腰を下ろして気づくのは自分の体調の悪さだ。

 下ろした腰から広がる気だるい感覚が、全身に広がっていく。

 セオードルが水差しごと持って入ってきた。

 

「レティシアにはお茶でも入れましょうか?」

 

 ソファに座らされているレティシアを見下ろしてセオドールが尋ねると、レティシアが首を横に振った。

 セオドールは水差しをテーブルに置き、グラスになみなみと注いで僕に手渡した。

 僕はコップの中の水をあおるように半分ほど飲み干す。


「それで、何がおありで?」

 

 セオドールが僕の傍まで下がって尋ねてきた。

 僕は先ほどあったことをかいつまんで説明する。それを聞いて、セオドールは眉間に皺を寄せてわずかに殺気だったが、僕が何もするなと告げると殺気だけは抑えた。ただ納得はいかない様子で、再び尋ねてくる。

 

「何もするなとは、配下に調べさせるから良いと言うことでございますか?」

「いいえ、調べるつもりはありません。ここだけの話で終わらせます」

「何故でございます? あのように襲われてお調べにならないなんて……」

 

 レティシアが口を挟んだ。

 僕は水をもう一口飲んでから言う。

 

「調べると言うのなら、僕はレティシア、あなたにいくつか聞かなければならいと思っていますよ」

 

 頭が痛い。さっきよりも熱が上がってきた気がする。

 僕はグラスを持ったまま背もたれに体を預けた。

 

「以前、僕の部屋で会った時も思いましたが、ずいぶんと腕が立つようですね。まぁあの時は、今日ほど戦闘に長けているなんて思っていませんでしたが?」

 

 僕の質問にセオドールが興味深げに身を乗り出した。

 そういえば、レティシアを雇うと決めた日に、セオドールは〝腕が立つようで〟とか何とか言っていたな。セオドールは僕よりもレティシアの実力を見抜いていたのだろうか。

 

「ルカ様のお話ですと、襲われた時に相手をしたのはレティシアだと?」

「うん。彼女です」


 セオドールがレティシアに視線を向けて頭の先からつま先までをじっと観察した。

 口元に浮かんでいる笑みから察するに、大当たりとでも思っているのだろう。

 自分の目に狂いは無かったと。

 

「ともかく、まずは二点を明確にしましょう。殿下とルーイが疑っている事が本当かどうかと、レティシアの戦闘能力がどうしてそんなに高いのかを」

「おや、お二人はレティシアをお疑いで?」

「念のためという感じだと思いますよ。それでもよく調べていたから、何かあって言及されたら終わりでしょう」

 

 終わりという言葉に反応してレティシアがわずかに身を引いた。その反応は間違ってはいない。きっと、アレス皇子とルーイはレティシアを放置するなんてことはしないだろう。

 

「これを尋ねるのは今日で最後にしましょう。レティシア、あなたは何か思惑があるのでは?」

「ま、前も申し上げた通り、ございません! 私は帝国が傾くような事を望んでおりません!」

 

 レティシアの両手は強く握られていてわずかに震えている。まぁこう何度も無実の疑いをかけられれば憤って当然だろう。

 

「なら、あなたの家族はどうですか? 父母に兄、その他の身内は調査で上がりませんでしたが、近しい人間がそれを望んでいたりは?」

「それもございません。皇帝陛下を敬ってございます」

「東の帝国は宮廷魔導師が国家転覆を目論んで荒れました。北の帝国でもかつて一国を滅ぼすような事があったと聞きます。あなたの母親は禁名を願い出ているくらいですから、だいぶ力がある魔導師でしょう。元傭兵の父親も、見たところまだ現役でも通用しそうでしたし。あなたの言葉だけでは家族の疑いはぬぐえません」

「そんな……」

 

 意地の悪い内容だとは思うが、はっきりさせねばならない事だ。

 城下のパン屋、レティシアの実家で会った彼女の父親は、人柄を見れば帝国に害をなすような人間には見えなかった。傭兵として現役だとしても、信用して問題無いだろう。しかし、もし母親が操っているのだとしたら? 

 善良な人間をも操れるのが魔導師だ。それも禁名を許されるほどの魔導師ならば容易いだろう。

 ついついため息が出てしまう。

 この禁名の母親についてを調べられれば、皇子もルーイもきっと疑いを持たなかったはずだ。今まで禁名という制度についてなんとも思わなかったが、こうなってみると実に面倒臭いじゃないか。

 禁名になった者の資料は魔導師棟の書庫の奥に保管され、安易に調べることはできない。

 宮廷魔導師の最高位、長老と呼ばれる者でも勝手に一人で閲覧することは許されない。もちろん皇子や皇帝陛下だってそうだ。

 一番手っ取り早いのは本人を調べることだが、消息不明でできない。

 禁名で資料がない上に消息不明で調べられないなんて、疑ってくれと言っているようなものだ。

 なんでこんな迷路みたいな経歴を残すのだと嫌味の一つでも言いたいが、自分も似たようなことをしそうだから何も言えない。

 魔導師という生き物は複雑で難解なのだ。

 あぁ、頭が痛い。

 熱のある頭でこれ以上考えても良い案は浮かばないだろう。

 僕はさらにため息をついてレティシアに言う。

 

「殿下たちにあなたの身辺について指摘された夜に、こうも()()()襲われるなんて、できすぎていませんか?」

「私は何も!」

 

 立ち上がって叫んだレティシアに、僕は頭の痛みが気にならない程度に横に振ってみせる。

 

「混乱を招くようで悪いですが、僕はあなたを疑ってはいませんよ。けど、知っておく必要があるんです。殿下たちを納得させるだけの情報を持っていないと困るんです。まだ自覚はないでしょうが、あなたはセオドールについで僕に近いんです。それがどういうことか、わかるでしょう?」

 

 そう言うとレティシアは難しい顔をしてうつむいた。

 僕の生活に関わる身近な人間——— 配下を含めた彼らは標的にされやすい。特に政治絡みのよからぬ目論見にだ。

 本人たちが重々気をつけていようが、巻き込まれるときは巻き込まれるから、明らかな過失がないかぎり厳しく指摘するようなことはしないが、今回のように皇子やルーイが相手となると話は変わる。

 宮廷で最も信頼している二人に疑われるのは僕にとっては大問題だ。

 

「お調べ下さい」

 

 うつむいていたレティシアが顔を上げて僕を見た。

 気圧されてしまうほど真っ直ぐな視線は、潔白だという自信に溢れている。

 

「潔白だと証明できるのなら、私も家族も本望です」

「では、そうしましょう。スプリングというのはどちらの姓ですか? もう一方の旧姓は?」

「スプリングは父の姓です。母の旧姓はクロッカスでございます」

「ルカ様、その質問以下は配下の者にさせたらいかがですか? この娘をお疑いでないのなら、今日はほどほどにしてお休みになられた方がよろしいかと」


 セオドールの言う通りだが、気になるところは直接聞いておきたい。頭が痛くて普段より考えのまとまりが遅いから質問を漏らしそうだが、それでもこの体調でも気になるほどの質問は、わりと重要なんじゃないかと思う。

 

「戦闘については父上の教えですか?」

「そうでございます」

「剣、でございますかね?」


 頷くレティシアにセオドールが尋ねると、また頷いてみせた。

 

「私は魔法を扱えませんので、身を守る術として子供の頃に教えられました。兄も同じでございます」

「確かに、あなたには魔力が無いようですから武技の一つは必要でしょうかね」

「問題は、どの程度扱えるかということです。さっきの立ち回りからして、そこらの兵士並みにはできそうですが?」

「そんなことは……」


 謙遜しているというよりは、自分の実力を知らないといったところか。

 レティシアの表情には自信を感じられない。

 僕は彼女の実力は一般兵士を余裕に超えているんじゃないかと思っているが、実際どの程度まで動けるかを推測だけで判断するのは良くないだろう。


「お確かめになられては?」


 妙に楽しそうな声でセオドールが提案した。その気持ちはわからないでもない。僕だって興味がある。なら、やってもらうしかない。


「頼んでも?」

「えぇ、手配いたしましょう」


 気だるい眠気が瞼をおろし始めた。

 今日はもうこれ以上話すのは無理だろう。


「では、他の調査の件は明日配下に頼むとして、ひとまずここで終わりにしましょう。セオドール、薬を……」

 

 僕は言って、ソファからゆっくり立ち上がりグラスをセオドールに渡す。

 眠気のせいか、なんだが視界がぼんやりしていて見にくい。早くベッドに向かおう。


「ルカ様!」

 

 慌てる二人の声の後にセオドールに支えられ、自分がふらついたのだと気づいた。

 頭が割れそうに痛い。額に指を這わせると、指先が恐ろしく冷えていた。これは、まだ熱が上がりそうだ。

 

「レティシア、氷と水桶を」


 セオドールから空のグラスを受け取り、レティシアは小走りに部屋を出ていく。

 支えられながらベッドまでくると、セオドールが手早く上着を剥ぎ取り着替えを用意し始めた。テキパキと動く彼に、もう任せてしまおう。

 動くのが辛い。

 そういえば、さっき書記官室で、なんだかレティシアといい雰囲気になったような気がするが、あれは熱のせいで見た幻覚だったのだったろうか。

 僕はぼんやりとした頭で枕を見つめ、静かにまぶたを閉じた。

 

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