一話
日間一位を取りに来た(目標)
鬱々たる気分だった。
一面の暗緑色に、少しの光。木々が生い茂る中、一人の少女が覚醒した。
湿る土の感触、涼しい空気が肌に当たり悪寒が走る。
「ここ、……ドコ?」
視界に入る景色が記憶に残る森の様子と違ったからか、それとも自らが発した声に聞き覚えがなかったからか。もしくは、別の理由か。
少女は身が竦む思いをした。
それでも、足に痛みを覚えながらも身体を立たせた。
「あれ……?」
身に纏う衣服に付いた葉や泥を落とそうと払う仕草をした際、目に付いた手は、驚くほど小さく細い手。
よくよく見れば、ただの制服を着ていた筈なのに、着用していたのは全く知らないモノ。
制服や普段着と比べると素材は劣るが、見映えは良い。
白の長袖に黒のスカートのワンピース。
丁寧な刺繍がどことなく高貴な印象を与える。
少女は顔や身体など全身隈無く触った。ある程度の時間を掛けて触り終えると、髪や服など自分の目で見える範囲を改めて確認する。
「……やっぱり、小さい。それに髪も伸びてるし、色が銀色になってる」
元々は黒髪で、身長も女性の平均は優に越えていた筈だ。
しかし今は、全身像が鏡を見たわけでもないので詳しくは測り得ないが、ざっと1メートルあるかといったところ。
明らかに縮んでいる。
ショートカットだった髪も腰まで伸び、綺麗な銀色を見せている。
憧れだった色だが、それは似合う人がしていた場合の話。
自分がしたところで、日本人と丸わかりな顔、尚且つ抜きん出て整った顔でもない訳で、銀色の髪になったところで似合うわけもない。
少女はそこまでの思考の末、落胆した様子を見せた。
意外とこの状況に落ち着いている自分に苦笑しながらも、状況を整理し始める。
(確か私は、学校が終わって家に下校していたはずだ)
そこまでの記憶は鮮明に思い出せる。
変わり気もない街並みに目を移すことなく、誰かと話すわけでもなく、ただひたすら家までの順路を歩いていた。
今更一人で時間を過ごしていたことに、若干の悲しさを覚えるが、今は関係ない。その後の自分の行動を頭の中から引っ張り出す。
「あれ、何してたんだっけ、私」
家に辿り着いた記憶がない。どこかで寄り道した記憶も同様にない為、何もなければ普段の様に帰宅している筈だ。
もっと真剣に思い出そうと頭を捻れば、記憶の代わりに出てきたのは思わずしゃがみこんでしまう程の頭痛だった。
「痛い! イたいッイタい!」
あまりの痛さに頭皮を掻きむしる。爪が食い込む感覚を感じたが、気にしているだけの余裕はなかった。
数分もすれば痛みも引き落ち着いたが、現状残ったのは、ボサボサになった髪に、しわくちゃになった服。
思わず笑ってしまった。
笑って現実逃避をするしかなかった。
「……思い出すのは、やめるか」
何故ここにいるのか。
その謎を知るためには、記憶を探るのが一番の解決方法だろうが、痛みを伴ってまで思い出すべきことではない、と結論付けた。
それよりもここは何処か、を今は解決すべきだと考えを変える。
再度辺りを見渡したが、
「こんな場所、東京にあったっけ」
いや、そもそもここは日本のどこかなのだろうか。
少女の目に映る光景は全くの未知の世界だった。
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