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カツ丼にする?それともピリ辛?残虐がいいかな……


 イスカリオテからすぐ近く、西にあるグルグル草原でマルチプル・レイヴン小隊の全小隊員が集まっていた。彼らにはこれから自部隊が極秘作戦を行うことを説明し、また味方であっても別部隊にはこの作戦のことは、内密であること、が告げられた。

 全員防弾コートを装着し、武具などを装備している。主に歩兵で構成された五十人程度の部隊で、レシキが小隊長、クロイズ、ガルラ、アンナが副小隊長である。アンナは新入りではあったが戦闘力の高いアンドロイドということで、特別な計らいである。

「我々が目標とするダンジョンは、このグルグル草原を抜けて、山脈を一つ越えたオッカムの領地内にある。少数である我々に向いている隠密活動と呼べるだろう。言っておくが非常に危険な任務だ。オッカムの連中の軍団に遭遇すれば、すなわち死を意味するだろう。全員、自分で物事を考えながら、俺の命令に従うんだ」レシキは全員に向かって告げる。

「まあ俺たちには魔印タトゥーが備わり。小隊長と俺とガルラがそれぞれ三つと、二つの能力を持っているということを考えれば、これまでよりも確実に戦力はアップしているはずですし。しかもアンナのおかげで、補給のことを気にせず戦えるってわけだ」

「はい。私のコアに埋められた物資小型化機能を使えば、食料や日用品、武具なども心配する必要はありませんからね。太鼓判を押して良い、最新モデルの、シリウスでなくても文明利用できるシビリゼーションシール・キャンセラー付きですから。私に、お任せ下さい」

「がはは。たくましい話だ。ところでリーダー、このちっこいのは誰だ? アンナ以外にも新入りがいたのか?」

 ガルラが指をさした先には、聖職者の格好をした一人のプリーストがいた。神聖魔法を使う、戦争では主に救護、衛生兵となる回復薬だ。ガルラの言う通り、どう見てもまだ小さい子供で、赤髪のショートカット、金色の瞳をしている。

 レシキは頷いてから説明する。

「今回の任務では、オッカム内の領地に入れば、村などでの休憩もままならなくなる。基本的に休憩をする上では野外になるし、戦闘で負傷しても病院などでの治療も受けられない。俺たちの部隊にはヒーラーがいなかった。そういうわけで軍に要請した結果、彼女に今回マルチプル・レイヴンに参加してもらうことになった。名前は、カンラ・プロテッサだ。まだ子供のように見えるが童顔で小さいだけで大人だし、魔法の技術も凄腕だそうだ。みんな、仲良くやれよ」

 カンラは一歩前に出て、お辞儀をしてから腰に手を当てた。

「これは自慢だが、私にはみなぎる魔力がある。せいぜいお前らの役に立ってやるから、くれぐれも私の膨大な魔力が尽きない程度の怪我で抑えてくれよ。あと死なれたら胸糞悪いし、さすがに治療もできんから、とにかく死なないことを心掛けろよ。あと小さいからって馬鹿にするやつはぶっ殺す。じゃあ、これからよろしく」

 ぶっきらぼうで偉そう、そしてどう見ても子供だった。しかしわざわざ全員に握手を求めて、丁寧に挨拶をしてみせた。言葉はぶっきらぼうなのに、どこか行動が礼儀正しかった。

 最後に恭しくお辞儀してから、小隊の後列に紛れ込んだ。小さいのですぐに姿が隠れる。

 だらだらとしていて乱れ気味だった隊列を一旦、それなりに見えるように戻してから、レシキはこれからの行動について語りだす。隊員全員、聞いてはいるがどこか上の空だったので、レシキは何度か怒鳴り声のような大きさで説明しなければならなかった。

「俺たちは先行しているバッカンド大隊と合流することになっている。彼らと共に戦闘することになるが、くれぐれも俺たちが極秘任務を受けることは秘密だ。俺やガルラ、クロイズが魔印タトゥーを刻んでいることもばれないようにしたい。俺たちの正体を全くバレることなく共闘するんだ。そして大隊と敵陣の一部を何とか突破し、オッカムに侵入した所で、別ルートを取り独自に行動していく。できれば俺たちが全滅したと勘違いもさせたい所だ。……おい、お前、何をしている? それは、なんだ……」

 レシキが言葉を止めて、一人の兵士へと近づく。。

 彼は、かつ丼を食っていた。

「いえ、もぐもぐ……・俺、腹が減ると頭が回らなくて…小隊長の説明は食事しながらでも……もぐもぐ……耳に入るし……これ、うまいっすよ。小隊長も食べます?」

 いつものことだった。こいつは人の話をほとんど聞かず、作戦も上手にはこなさない。やけに飯を食う男であったが、腕っ節も普通くらいのただの大飯喰らいだ。

 クロイズはやれやれといった仕草をし、アンナはやや眉根を潜め、ガルラは大きく笑った。カンラは呆れた顔をしていた。だが、レシキの表情はひどい影を作っていた。

 彼の髪の毛が、赤髪に染まった。

 そして兵士を掴む。すでに、ぶちぎれていた。

「てめえ、何様のつもりだ……? 俺はよお、いったよなあ、今回の作戦はとても重要で、危険なんだとよお。言ったのは俺じゃねえが、俺だ。わかるか、お前は死地に向かおうという時に、どんぶりなぞを持って、箸を握り、これだからこの小隊はクズだとか馬鹿の集まりだとか、そういうくだらねえ評価をされるんだろうがあああああ!」

 赤髪の鉄拳が炸裂する。兵士はカツ丼ごとぶっ飛んで、そのご飯粒が他の兵士たちに降りかかったが、さすがに彼らも微動だにできなかった。整っている隊列は、おかげで乱れなかった。

 クロイズが、「普段よりもやっぱぴりぴりしてんすねー。怒りがトリガーだからなあ」とぼやくように呟いた。

 レシキは銀髪に戻ると、はあ、とため息をついてから兵士を引っ張り上げた。

「すまんな。ちょっとやりすぎた。俺はぷっつん来ると赤髪になっちまって、それで取り返しのつかないようなことを平気でしてしまうからな。悪かった。だが今回の作戦が、今までとは違うということはちゃんと理解しておけ。小競り合いの戦いなどではなく、イスカリオテとオッカムの勝敗を分ける重要な局面なのだ。くれぐれも、そのことだけは忘れるな」

 作戦の説明はそんな所だった。

 天気は曇っていて、暗雲が立ち込めている。あまり良い天候ではなかったが、快晴の日に出発しようなんてことは言えない。もう、作戦行動は開始せねば大隊に追いつけなくなるからだ。

 イスカリオテ領地内であるグルグル草原はさほど危険ではない。草原であるから道も平坦で進軍しやすいので、特に問題はなく進んでいける手はずである。

 彼らはだらだら進軍しはじめた。おおよそ、軍隊とは思えないだらだらであった。

 それでも進軍速度は遅くはなかった。彼らは基本的な能力、力、速度、などは高いのである。

 唯一進軍中に息を切らしていたのは、カンラである。歩幅が小さく、そしてプリーストであるためやはり身体が弱いのである。

「はあ……はあ……おい、骨爬虫類……はあ……私をおぶれ……私をおぶれることを感謝して……はあ……喜べ……」

「胸が無い奴をおぶっても楽しくないぞ、ガハハハハ!」

「き、貴様……私を……はあ……馬鹿に……」

「まあ、おぶってやろう。いい運動にはなるだろうからな、ガハハ!」

「……」カンラは感謝する意として頭を下げてから、ガルラの背中に乗っかった。骨の外殻がやけにごつごつしていて痛くはあったが、足は解放されたように楽になった。

「お前ら、いきなり仲良いな」クロイズが言った。

 やがて一同は、見晴らしの良い小高い丘に陣取り、休憩をかねた昼食とすることにした。

 天気は相変わらず悪いが、地平線まで広がるグルグル草原を見渡すことは、人によっては気持ちの良いことだった。レシキは、こういう気分の良くなりそうな場所で昼食を取ることが多い。

「広いってのはいいことだ。俺たちはいつも狭い世界にいるからな。食事だって、上手くもなる」

 それが事実かどうかはともかく、たしかに広い場所で取る昼食は賑やかになることが多かった。戦場で陰鬱になりがちな小隊にとっては、大切な時間と言える。

「ふふふ。どうやら私の出番のようですね。このコアから食料を取り出して、皆が満足するまでいくらでも食べさせることができますよ。何がいいですか、塩辛ですか、枝豆ですか、するめですか、それともかつ丼ですか」

「やけにつまみばっかりだな。それとかつ丼はやめろ。さっきのを思い出すから」

「お酒もありますよ。今は当然駄目ですけど。じゃあ、おにぎりにしますか」

「急に質素になったな……」

 各自いろいろな物を食べる訳だが、なんでも揃っているというわけでもない。だが、かつては缶詰のような保存食を食べるしかなかった彼らにとって、その食事は素晴らしかった。出来立てのような状態で取り出されるし、調理されている普通の料理ばかりだったからだ。

 士気を高める上では、こんなに軍隊によって有益なものもないだろう。食事は資本だった。

「リーダーは何がいいです? 砂肝ですか、ピリ辛きゅうりですか、ナムルですか、それともかつ丼ですか?」

「いや、かつ丼はやめておこう……。俺は、ピリ辛きゅうりで」

「ピリ辛きゅうり、注文入りましたー!」

「小隊長は少食だよな……つまみで満足するなんて……」

「俺はピリ辛きゅうりを百皿食べるからな!」

「偏りすぎだろ……食べ過ぎだろ……」

「あ、私はかつ丼で!」

「かつ丼はだめだから! みんなトラウマだから!」

 賑やかに会話をしながらみんなで昼食を取ったことで、体力も気力も回復した。マルチプル・レイヴンは小高い丘を出発し、進軍を再開した。

 明らかに会話の量、進軍の態度、速度などが食事のおかげで増していた。実に順調かと思われていたが、しかし雨が降ってきた。全員防弾コートのフードを被り、雨を凌ぎながら進んだ。

「雨って憂鬱になるんだよなあー。なんていうか、心が重たくなるっていうか」ガルラにおぶさっているカンラがぼやく。

「ガハハ。涼しいではないか。まあ、湿気が高くなるのはいただけないがな」

「私は雨に濡れても問題ありません。最新モデルですからね」

「アンナってやけにドヤ顔をするアンドロイドだよな……」

「アンドロイドがドヤ顔しちゃいけないんですか! 差別ですよ、クロイズ」

「お前ら、無駄話をしすぎて体力を消耗するなよ」

 それから二時間後。

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