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ダンジョン最深部 このモンスターはしつこい系です。ボスです。


 ゴブリンたちを始末することにも飽きてきたほどに、戦闘の回数は多かった。歩けば歩くほど、敵がどこかしらから湧いてくる。ゴブリンだけというのは幸運だった。時間もそこまで取られることなく、ひたすらダンジョンを潜る。 

 やがて目立つようになってきたのは、トラップである。種類も様々なトラップが、レシキたちに襲いかかった。

『誰にも負けない剣士としての称号を手に入れた者とかけまして、相手の行動を阻害するために隙の少ない行動を取ることとときます。その心は?』

「剣聖(牽制)です」

『いいだろう。通るがいい。大事なことだから忘れるでないぞ。牽制とはな……』

 ながながとトラップが語りだしたのを無視して、一行は次の部屋へと繋がるであろう通路を走り出した。

 地面にあるスイッチを誤って踏んでしまい、大きな岩が転がってきて踏み潰されそうにもなった。しかもその岩はこちらのいる方にも自動追尾してくる、魔法のかかった岩であったから厄介だったが地雷で何とか爆発させて粉微塵にした。

 敵に囲まれるトラップや、時間制限のある扉を急いで通過しなくてはならないトラップ。

 針のついた天井が落下してくるトラップや、じゃんけんに三連勝しなくてはらならないトラップ。

 実にダンジョンらしい、バラエティに富んだ構成であった。

「そもそも、何でダンジョンって危険がいっぱいなんですかね。もっと安全なダンジョンとかないんですかね」

「探検心をくすぐるじゃないか。俺は嫌いじゃないぜ。まあ多少めんどいけどな」

「ガハハ。心躍る冒険! 戦争ばかりの世のカンフル剤よ!」

「走るの疲れた~……。ガルラ、おぶってくれよ~」

「ガハハ。これも訓練だと思えい、カンラよ」

 余裕が出てきた彼らの目の前に続いて現れたのは、巨大な扉だった。

 今までとは明らかに違う、やけに豪奢な扉だ。

「よし。おそらくここがラストだろう。結構奥まで走ってきたしな。何が待っているか想像はつかない。定石で言えばボスって言ったところだろうから、戦闘になるだろう。心してかかれ」

 その大きな部屋に踏み入る。

 すると、突如としてガスが充満した。ピンク色の、やけにけばけばしいガスだ。

 扉は閉まってしまっていたから、逃れることはできない。全員がガスを浴びてしまい、やがてガスの噴出が止まるまで、むせることとなった。

 ガスが止まり、むせるのも終わった頃、彼らは何が起きたのかを確認するため身体に変化はないか、景色に変化はないかなど、様子を窺った。

 すると、これは罠と呼べるのか、という困ったような困らないような事実を発見できた。

「声ガ、甲高ク、ナッテイルソゾ。ヘリウムガスデモ吸ワサレタミタイニ」

「ウワア。面白イ。別ニ辛クモナイシ、痛クモナイ罠ダ。強イテ言ウナラ、連携が取リ辛クナリソウダケド」

「誰ガ喋ッテイルノカワカラン。コレハ、地味ニ面倒ナ状況ダゾ。当然、ボスト戦ウコトニナレバ、連携ガ取リ辛イトイウノハ問題ダ」

「アンドロイドの私には影響はないみたいですね。普通に喋れますよ。アンドロイド、最高ですね!」

「ガハハ。ドヤ顔ガ好キナ奴ダナ、本当ニ」

 ヘリウムガスを吸ったようになって声が甲高くなった一行は、それで終わるなら特に問題はなかったが、当然ここは他の部屋とは様相が違う。天井にはロウソクの灯ったシャンデリラのようなものが何個も設置されており、壁にも灯火がたくさん付けられている。

 ダンジョンにしてはやけに明るいのは、そういう理由だった。

 そして、部屋のいたる所から、敵が出現してきた。それはゴブリンではない。下等な魔物といった様子でもない。それは、明らかに今までのモンスターとは違っている。

「囲マレタゾ!」

 その魔物は、真っ白な法衣のようなものをひらつかせ、足は幽霊のように無くて、宙に浮いている。武器を持っていて、それは薙刀だ。顔には仮面をつけていて、レシキたちを取り囲んだ魔物一体一体、それぞれ仮面の種類が違う。能面のようなもの、鬼のようなもの、ピエロのようなもの、など。

 数は、八体。レシキたちは完全に包囲されており、逃げ場もない。

 戦いになることは必定である。

「オ前ラ、イクゾ!」

「……」

「オイ、ナゼミンナ、何モ答エナイ!」

「多分、声が甲高いせいで気合が入りにくいんじゃないですかね。なんか女々しいというか」

「ソンナノ、知ッタコトカ! 細カイ事ヲ、気ニスルンジャナイ!」

 まず駆け出したのは、ガルラである。

「ガハハ。先陣ハ、我ニ任セロ!」可愛い声を発しながら、部屋の中心に駆け出していく。当然すぐに囲まれてしまったが、ガルラは退くことを知らない。

「チッ。コンナ状況デモ突ッ込ンデ行クトハ、相変ワラズノ突進馬鹿カ! アンナ、左翼デガルラヘノ攻撃ヲ防ゲ! 俺ハ右翼ダ!」クロイズも可愛い声で叫ぶ。援護のため、駆け出す。

「みんな可愛い声になって、可愛い部隊になりましたねえ。こういう部隊、私、憧れだったなあ子供の頃。ま、私アンドロイドなんで、子供時代とか、無いんですけどね!」

「コンナ時に馬鹿ナコトをイッテンジャナイ! ココガ正念場ダゾ! 全員、固マッテ敵ノ攻撃を防イデイケ!」

 小隊の兵士たちは固まることで隙をなくし、敵の薙刀を防ぐ。五十対八。数では圧倒的に有利なはずではあるが、勝負はわからない。互角と言っていいかもしれない。

 いや、徐々に押され始めてきた。

「この、オ面野郎ガ!」

 お面野郎と呼称されたその魔物は、速さは並であったが、薙刀の振り回しが、実に破壊力があって兵士たちを圧倒した。また範囲も広く、一回振り回すだけで三、四人が剣で攻撃を防がなくてはならなくなった。状況は悪い。レシキは、能力の必要性を悟った。

 変わるしかない。どうにせよ、こういうぶつかり合いのような戦いでは、自分のような人間はあまり役には立てない。ならば、ここは……。

「オ前ノ出番ダ! ……黒髪!」

 銀髪が黒髪へと染まっていく。染色でもしたのではないかと思えるように、一息に転じていって目つきまでも変わる。彼らは同じ体を持ちながら、まるで別人のように存在する。

「アア……ヤルゼ。ココマデ来テ、鬱ニナッテル場合ジャナイ。俺ハ、セルファヲ救ウカラ!」

 黒髪は落ち込んでばかりの彼とは、少し様子が違っていた。どこか目に輝きがあり、決意のようなものすら感じられる。

 彼は、能力を発動させた。

「ミンナ……力ヲ、自分ノ持チ合ワセテイル、本来ハ内側ニ篭ッテイル本当ノ力ヲ、俺ガ引キ出ス!」

 それは、士気奮起。と黒髪自身は名づけている。

 戦う仲間たちの精神的な部分を引き出し、本来よりも力強い、心の奥深くに眠っているような力を引き出す。もしくは、調子が悪い人間でも本来の調子にまで引き上げることができる。

 精神面をフォローする能力である。

「ミンナ、ヤルゾ!」

 おっしゃー! と全員にかつてないほどの気合が入る。内側から滾るような熱いものが吹き出すのを、誰もが抑えられない。それは戦いにも即座に影響し、お面野郎たちに確実にダメージを与えるようになった。

 それでも押し切ることはできない。

 兵士が一人、二人と、薙刀に振り払われて戦闘不能になる。カンラが駆け寄り治療をしていくが、傷は深く、すぐに復帰することはできなさそうだった。体力の問題だ。長引けば長引くほど、魔物と人間では体力の差が出るのだ。

 レシキは、自らの無力を呪った。能力を発動するくらいしか取り柄がないのに、その能力さえも劇的に状況を転じさせることはできない。

 アンナがビーンズガンを発射する。魔物相手にも体調不良にする効果が発揮できるかは不明だったが、今はできることをするしか。敵から身をかわしながら発射したので、敵に当たった他にも壁にも直撃し、壁の灯火を地面に転がした。また、薙刀によってビーンズガンが弾き飛ばされて、天井のシャンでリラに直撃し、シャンでリラは落下した。

 地面で火と共に、それが壊れる。

 その時に、シャンデリラの近くにいたお面野郎が、露骨に飛び退いた。壁の方へと逃れたのである。さらにおかしなことに、壁の近くに逃げたにも関わらず、そこからさらに飛び退いて引き下がってみせたのである。不自然な行動だった。

 それをクロイズはしっかり目に納めていた。そして、彼は地面に転がっているシャンでリラ、壁から落下した灯火、その二つを見比べて理解した。

「やつらには、弱点がある……。火、だ。火が、奴らは思わず飛び退いてしまうほどに苦手なんだぜ! だからシャンデリラからも灯火からも逃げたんだ! ガルラ、火を吐け。火力なんてなくてもいい。とにかく、やつらを一箇所に追い詰めるように、火炎放射器のように火を出すんだ!」

 彼らは必死だったので自分の声が元に戻っていることにも気がつかなかったが、そんなことはどうでも良かった。クロイズの言葉で、ガルラは了解し、ガハハ、と笑いながら火を吐いた。

 紅蓮の炎が、撒き散らさせる。蜘蛛の子を散らすように連中は部屋の隅っこへと退避していったので、さらに火の範囲を狭めていくと、ついに連中は団子のように一つに固まってくれた。

「よし、あとは上手く青いガルラになってあそこに地雷を仕掛ければ、爆発で全員を一斉に片付けられるんじゃねえか!?」

 クロイズの提案に、全員が了解する。そのように動こうとした所で、お面野郎たちはただ黙ってやられるわけではなかった。彼らには、まだ切り札があったのだ。

 団子のようになっていた八体のそれらが、一つに重なっていくのだ。

 それはまとまったとか、密着させたとか、そういうレベルではない。とにかく一つへと変わっていくという様子である。つまり、合体だ。

「こいつら……。何か恐ろしい力を感じるぞ……」レシキはたじろく。

 竜巻が発生し、小隊全員を吹き飛ばす。

 その後に、竜巻が消えた後に、姿を現したのは化物だった。

「き、気味悪いぞ……不気味な……」カンラは気分が悪くなった。

 蜘蛛のような足が六本ほど生えており、腕は八本あってそれぞれが薙刀を持っている。胴体はぶよぶよとしていてスライムのようで、その天辺に頭部がくっついていて、真っ黒な、漆黒の両目をしている。人間のような顔をしているが、張り付いた顔という印象で、表情がない。それがどことなく不気味な感じを相手に与え、不快にさせるのだ。

「来るぞ……! 兵士は下がれ。無駄に被害を増やすだけだ。ここは、副長たちだけで仕留める。ガルラは早く青くなれ。なれなくてもなれ。まずは足だ。攻撃をかわしながら、足を潰して動けなくするんだ!」クロイズの命令を、全員が聞く。

 無力感に囚われながら、レシキは拳を握り締めた。だが能力は発動している。いないよりは、いたほうがまだマシというレベルだが、効果がないわけではないはずだ。

「みんな、頼む」呟く。

 先陣をガルラが切る。すぐに薙刀によって薙ぎ払われるが、それによって青くなって鉄壁の守りへと転じる。怯えるせいで攻撃ができないが、その合体魔物を引き寄せることは、重要な役割だ。

 すぐに戦うことを放棄したように丸まるから、魔物からすれば格好の的になる。それがかえっていいのだ。それによって、狙われ続けてくれるというわけだ。

 ガルラの後に続いたのは、クロイズとアンナだ。右と左から回り込むように合体魔物に接近し、薙刀を回避しながら、確実に足へとダメージを与えていく。クロイズは刀で、アンナはナイフで。しかし足は思ったより固く、削れはするが、切断はできない。

 何度も足を切り裂こうとする時間など、あるはずがない。

 足が潰せないのであれば、狙いを変えるしかない。弱点を探すことから始めるのだ。

 幸い、ガルラのおかげで敵の猛攻はクロイズとアンナには向いてこない。

「どこだ……絶対に見つけなくてはならないぜ……追い込まれてきて、楽しくなってきたなあ!」

「私は戦闘向きではない。でもアンドロイドだから、私にしかできないことがある!」

「ひええ……もう小便ちびってる気がするよ……びしゃびしゃになってない?」

「「知るか!」」

 言いながら、二人は足を伝ってぶよぶよの体に辿り着く。そこにダメージを与えるのは見た目からして難しそうだ。魔法なら聞きそうだ。ならば。

「レシキ! 黒髪は学園で魔法を学んでいたんだよなあ! このぶよぶよに、なんでもいいからぶちこむんだ! 俺たちは、顔をやる!」

 その言葉にレシキは頷く。基本的な強化魔法とか、基礎魔法くらいしか覚えていないが、たしかにあのぶよぶよのスライム部分には魔法が効きそうだ。少しでも、力になりたい。俺は暗黒の支配者になろうとしていた男じゃないか!

 レシキは足に強化魔法を唱えてから、駆け出した。 

 薙刀が一本、襲いかかってきたが、なんとか回避する。少し掠めて、頬から血が流れた。

「せっかくだ。同時に行くぜ! 顔面と、ぶよぶよ。三人で、同時攻撃だ!」

 息は合っていた。駆け上る二人と、駆け寄る一人。その三人はほぼ同時に、攻撃への動作へと移り、そして放つ。刀。ナイフ。火球。

 ダメージは、あった。合体魔物は見るからに退き、壁にぶつかってよたよたした。だが、それでもとどめには至らない。追撃をしようとしても、ダメージを与えたせいで八本の腕の注意が三人へと向かい、三人は防御で手一杯になる。彼らもダメージを受けて、わずかに出血、打撲などを受けた。

「決め手がない。決め手に欠けているせいで、押し切ることができねえ。このままではジリ貧になって全滅するぞ」

「私、こんな気味悪いやつに負けたくないですよ。食べてもおいしくないですよ、私は」

「いや、みんな。話は簡単じゃないか」レシキはすでに答えを見つけている。

「え?」

 彼は歩いている。薙刀によって損傷した箇所を抑えながら、しかし一歩ずつ確実に、目標との距離を縮めている。その歩くに伴って、彼には変化が生じていく。黒い髪の毛が、少しずつ色を変えていくのだ。黒から、赤へ。三人目の、レシキ=レイニーデイへと。

「まだ、俺の能力を見せていなかったなあ、お前ら。だから知らなかったんだろうが、俺はただの暴力野郎なんかじゃねえ。いざって時に暴力を振るうだけの、チンピラだと思っていたかもしれねえが、ようやくそうじゃねえって所を証明できそうだ。感動してるぜ、俺は」

 薙刀が、襲いかかってくる。それが赤髪に直撃したように見えた。砂埃が舞い、彼の姿がみんなから見えなくなる。やられてしまったのではないか、と思われても仕方がない直撃だった。

 だが、砂埃から彼は抜け出した。

 レシキは薙刀の腕を駆け上り、一気に合体魔物との距離を縮めていく。それで終わりではなかった。彼は腕から跳躍して、宙で停止した。なぜ停止することが可能なのか。それがつまり、彼の能力の一部ということだからだ。

 まず、背中から真っ黒の、赤い亀裂が入った羽が四枚生える。まるで蝶のようでもあったが、もっと禍々しい色遣いと形だった。その後に、彼の全身がドス黒いものに内側から湧き出るように染まっていき、それにも赤い亀裂が走った。顔もドス黒く、形が刺々しく変わり、目が赤光りする。

『黒神獣転身』

 赤髪は自らの能力をそう名づけている。

 黒神獣の右腕が、みるみる血でも溜まっていくかのように、膨れ上がっていく。筋肉や骨自体が膨張しているかのような、異常な増長だった。

「一撃で仕留めるぜ……」

 羽をはためかせ、急降下して地上に降り立ち、地上を滑るように滑空して一瞬にして合体魔物の懐に入り込むと、再び上昇して、ボクサーがアッパーでも決めるように顔面の顎辺りを拳で殴りつけた。そして躊躇なくもう一発、顔面に思いっきり、何もかもを破壊するような一撃を、繰り出した!

 合体魔物の顔面が割れて、粉々に砕ける。それに伴ってぶよぶよも組織を崩壊させてぐずぐずになり、ぶよぶよで繋がっていた手や足なども、すべてがバラバラに地面に落っこちていく。

 合体魔物は、完全に動かなくなった。

 強敵は、撃破された。



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