ダンジョン攻略(やっと(おっそ)
ダンジョン内部はとにかく広く、分かれ道も多くて行き止まりがある。レシキの能力を使ってディスプレイを見ながら進むことによって、正しい道と正しくない道を判別することは可能だった。そういうわけで、小隊はどんどん奥へと進むことができていた。
セルファの位置も確認してある。セルファも道には迷うらしく、道を正確に進むことはできずにいるようだった。おかげで距離はだいぶ離れているが、油断はならない。
ダンジョンに入ってからすぐに、魔物たちに襲われた。低位のゴブリンのような魔物ばかりだったので簡単に蹴散らすことができたが、このように魔物を倒すことで時間が取られる。セルファ自体はレシキたちの後ろからやってくる訳だから、魔物討伐に時間を掛けることはほとんどないはずだ。
となれば、強力な魔物と遭遇し戦闘になれば、それだけ時間がかかり、セルファとの距離はだいぶ縮まることになってしまう。
距離を、時間を、とにかく稼がなければならない。
そのための手段は、すでに思いついている。
「大丈夫かな。下手したら、やられる可能性もあるんじゃないか……」カンラが呻く。
「あの二人ですから、問題ないはずです。この小隊のキーマンですからね」
「ピーマン? 私、緑黄色野菜は苦手なんだよなあ」
「キーマンといったんです」
二人がそんなやり取りをしている頃。
クロイズとガルラは、セルファが曲がってくるのを確認して、一旦姿を隠した。ばれて突っ込まれでもしたら作戦は失敗する。というわけで、二人は慎重に行動していた。ばれないように。
やること自体は実に単純だ。単純だからいいのだ。失敗する可能性が少しでも下がるのはいいことだ。ぎりぎりまでばれないこと。これさえ達成できれば、ほぼ成功したようなものだ。
「しかし俺たちの能力は、本当に汎用性が高くて便利だな。この能力さえあれば、大体同じくらいの敵であっても撃破は容易だし、こういう特別なダンジョン攻略でも、役に立つんだからな」
「ガハハ。魔印タトゥーという技術に感謝だな。我たちが二重人格者であることが、まさか戦争の役に立つことになるとは思わなかったが」
「まあ、お前のもうひとりに関しては能力がなくても便利っちゃ、便利だがな……」
「主の場合は面白いといった所だな。二重人格者の中でも、特に珍しいだろうからな」
「まあ、俺しかこの世にいないかもな。……世界広しと言えどもな……」
セルファの影が、灯火のおかげで見えた。
わざと足音をたてて、行き止まりのある方へと進んでいく。
すでに仕込みは終えてある。
「さて……あとは網に引っかかってくれるかどうか……」クロイズは仕上げということで、わざと叫んでみることにした。「あああああああ」その叫び声はダンジョン内を反射して、とてもやかましく響く。間違いなく、これで気づかれたはずだ。
「来たぞ」
「おい、ちゃんと時限式にしてあるんだろうな。踏むタイプとかだと踏まない可能性があるからな」
「ガハハ。当たり前だ。ぬかりはない。ちょうど良いタイミングで爆発するだろうな。あとはこのダンジョンが想像よりも固くできているとか、そういうことが不安材料だが」
「やってみなきゃわからんからな。よし、セルファが突っ込んで来るぞ。それと同時に、『引き寄せ』る!」
剣を振り上げてセルファが接近して攻撃を加える瞬間に、能力によってクロイズとガルラは引き寄せられてその位置から消えた。目標を失って、剣を振り下ろせなくなったセルファはしばらく立ち止まっていたが、振り向いて、その場から去ろうとする。
その瞬間に、地雷が炸裂する。
凄まじい衝撃音が鳴り響き、ダンジョンの天井が崩れ落ちて、土砂崩れが起きたみたいにその通路が通行止めになった。セルファは驚くこともせず、とにかく進めなくなってしまった事実だけを確認して、魔法を唱え始めた。
しかし、途中で魔法をやめる。判断能力がなくなっているといっても、ダンジョンで強力な魔法を放つことは危険だと本能で察知したのだ。
火力を少なめにしなければならない、と本能でわかった彼女は、小さめの火球『ファイヤーボール』を連射して、地道に土砂崩れを削っていくことにした。
こういうわけで、時間稼ぎの作戦は成功した。




