シリウス
ファンタジア文庫の大賞の、一次落ちしました!
もう一作品は一次通過したのですが、これは悔しいことに墜落です。というわけで、ただ御蔵行きになるのも悲しいし、他の新人賞に送るかどうかもちょっと危ういので、毎日投稿していきます。三話ずつ投稿していきます。一応完結まで書いてありますが、まあ、完全なる完結ではないことをご了承ください。一区切りまで書いてあるといった具合ですので。
拙いですが、よろしくお願いします。
シリウスと呼ばれる上層、下層に分かれる都市での生活をしている人間たちは、争うことを生業とでもしているかのように、戦い続けている。シリウス上層の生活水準はとてつもなく発達しているにも関わらず、下層の生活は中世そのものであった。それには勿論理由があるのだが。
争いを止めぬ彼らの戦闘に使われる兵士の装備や、戦略、戦術なども、中世時代に編み出されたようなロートルなものばかりである。
たとえば銃器のようなものは使われず、主に使われる遠距離装備はクロスボウなどであったし、平野を高速で移動したい時に使用されるのも、自動車などではなく、訓練された馬、あるいは馬車などである。
さて、そんな中世時代の争いが展開されるその世界の中の、比較的、北の方角にある島。そこでも戦争は行われていた。
二つのシリウスが存在するその小島では、かつて二つのシリウスは同盟を結んでいたが、ちょっとしたいざこざのせいで同盟は破棄されて、戦争状態へと突入した。
東に位置するシリウスを、イスカリオテ。
西に位置するシリウスを、オッカム。
この二つのシリウスが、組織的に機能させた兵士たちを利用し、軍隊を結成させているというわけだ。彼らは愚か者であり、同時に優れし者であった。戦いの中では、優劣が常に同居しているということはよくある話である。
そんな彼らの内の一部分である、進軍中の騎兵部隊が一つあった。狭間を彼らは進んでいるが、その狭い空間では騎兵の高機動を活かすことはできず、進軍は遅滞的である。しかしこの狭間を超えれば敵の横腹を突くことができるので、騎兵にとっては不利な地形を、隠れて進軍しているというわけである。
「本隊はそろそろ戦闘に入る頃だろう。全軍、急いで進め」
隊長がそんな大声で話しかけた騎兵部隊の兵士たちは、すでに疲労が蓄積していたが、この地形を突破して奇襲に成功すれば、という思いがあったので、士気は高かった。
すこぶる、疲労以外は良い状態の部隊であった。
「この調子ならば、我らは負けまい。兵士たちは誰もがこの作戦がうまくいくと信じている。己の力で道を切り開くのだという、気概に満ち溢れているのだ」
この部隊にとって重要なのは進軍の速度もあったが、それ以上に敵にバレないこと、隠密的に行動することが大切であった。焦らず、遅すぎず。
だが狭間の視界は悪い。その谷を崖上から見下ろせば見つかるだろうが、敵に見つかる心配はほとんどないように思えた。
その頃、そこから少し離れた森林で身を隠す一つの部隊があった。その部隊のリーダーはディスプレイのようなものを目の前に置き、椅子に座り、そのディスプレイをじっと見つめていた。そこには監視カメラの映像のような、細かく分けられた四角がいくつもあって、その四角それぞれが空間を映していた。
「どうやら、連中は横腹を突こうという考えらしい。悪くない作戦だな」
彼がそう呟いてから立ち上がると、ディスプレイが初めからそこになかったかのように消失した。
椅子も消えて、森林の中を蠢く、他の兵士たちを見回して彼は合図を送った。
兵士たちは、森林を出発していく。
そんなことがあってから三十分後、もうすぐ狭間を抜けられるかと思った騎兵部隊を、矢の雨が襲った。隊長が見上げれば、崖上の至る所にクロスボウを持った敵が並列していた。
「なぜだ……なぜ、進軍がバレたのだ。あと少しで連中を撃滅するための準備が……」
彼が最後まで言い終える前に、彼の喉を矢が貫いた。「ぐえええ」と叫びながら、隊長は落馬して地面を転がり、そしてやがて動かなくなった。
すべての騎兵部隊が戦闘不能になるのに、十分もかからなかった。
「うまくいったな。これで連中の目論見は潰せた。あとは、本隊に合流し……」
そこまでリーダーが言ってから、彼は気が付く。倒した部隊長の手元に、魔法スクロール(魔法を習得していなくても魔法が一度だけ唱えられる消耗品)が握られていることに。リーダーはその魔法スクロールで何が行われたのか察した。
「全員、ただちにこの場から去るぞ。急ぐ必要がある、とにかく急ぐことだ!」
彼はもはや落ち着いてはおらず、焦っていた。
場合によっては、こちらも全滅する可能性すらある。
彼が背後に振り向いて、崖上から去ろうとする瞬間。
轟音が、鳴り響く。
「……ちっ。早すぎる……」
崖上に展開していたクロスボウ部隊、そのほとんどが一瞬にして焼き払われて、命を散らしていった。それはつまり、魔法、である。詠唱などに時間がかかり、習得にも時間がかかるために兵士としての活用が困難な、魔法使いという存在がこの世界にはあった。それが使うような魔法、今しがた使用されたその威力は、通常の魔法の威力からはかけ離れた、異常な火力であった。
天から、それは落ちてきている。『流星墜落魔法』。別名、メテオ。たしかそのように呼ばれる魔法だった。
業火が至る所で燃え盛り、流星の影響で地面が震える。もう逃げ出すことは叶わない。すでに逃げ出そうとする者もほとんどいない。なぜなら、ほぼ全滅してしまったからだ。
「……あれが、敵か……」
リーダーは天を浮遊する、その敵を直視した。メテオはすでに止み、彼以外はもう動く者はいなかった。運が良かったのか、はたまたリーダーだけは生かして捕虜にでもするつもりなのか。
それは、遠目からでもよくわかった。女、だ。女の敵が、こちらを見下ろしている。リーダーとその敵は、天空と地上で、睨み合うように、視線を交わしていた。
「セルファ……セルファ=ランバート……か……?」
リーダーは銀髪をしていた。
しかし何時の間にか、彼の銀髪が、黒髪へと転じた。
そのセルファという女性を見て、心でも変わって、それに応じて髪色まで変わったかのように。
まるで、恋でもしてしまったように。
「セルファ! お前は、そんなところにいていいやつじゃない! 人殺しなんて止めるんだ! 俺の声が、聞こえないのか! おい、答えろ!」
彼の張り裂けるような大声を聞いているのか、いないのか、そのセルファと呼ばれたロングの金髪、青を基調とした服装をした女性は、天空を滑空するかのように飛んでいき、その場から姿を消していった。
それからしばらく、黒髪だけが取り残されてしまって、彼は絶望したように目を閉じて、やがて目を開けた。その瞬間、黒髪から、銀髪へと戻っていた。
「久しぶりに変わったな……。しかし、セルファか……。俺だけが生き残ってしまうなんてな……」
苦しそうに唇を噛んでから、彼は走り出す。
イスカリオテへと、帰還するために。