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ヤブか名医か

早々に俺の診察を切り上げカリンの方へ集中する女医。


まあ自分でも俺よりもカリンの方が酷い怪我だと思っていたのでそちらの状態の方が気になるわけで。


「こっちの子は…………酷いわね。手の傷は勿論、顔に受けた傷が重傷ね。鼻の骨が折れてる上に頬骨にも少しひびが入ってるわ。女の子の顔にここまで酷い事が出来るなんて一体どこのどいつの仕業なの?」


カリンの頬に氷水に浸した布を押し当てるようにしてその顔にへばりついた血と泥を落としていく女医の口調には明らかな怒りが感じ取れた。


「この町の近くにドナールの森ってあるだろ。そこの住人に襲われてね」


「……最近やけに多いのよね」


「俺が聞いてたゴブリンって奴らはもっと知能が低い筈だった。それが実際は俺たち二人を追いまわしてる振りをして、罠を張って待ち伏せしてる場所に追い込みやがった」


「あんな話聞いたことないっすよ」


「近頃、この辺りのゴブリンの行動が組織的なものになってきているらしいわ。やつらが集団で行動するのは元からだけど、その動きがより統率のとれたものになっていると……」


カリンの顔の汚れを落とし終えたらしい女医は治療室の壁に沿って並ぶ戸棚の数々からいくつかの道具を取り出し始める。


「こんなファンタジーまみれの世界なんだ、回復魔法とかって存在しないのか?」


「魔法……というか似た様な物がない事はないけど、ああいうのは何十年と長い年月をかけてその道を極めた僧侶や賢者みたいな信心深い人らにしか扱えない代物なのよ。こんなしがない町医者に使える訳ないでしょ」


それに、と女医は続ける。


「私なら首が繋がって心臓が動いてさえいればどんな状態からだって治して見せるわ。そんなインチキなんかに頼らなくてもね」


それは頼もしい事で。でも、確かに大層な口を利くだけの事はあるみたいだな。俺との会話の片手間でガーゼや消毒液といった道具を順次取り換えながら手際よく手当を進めている。


いつの間にか俺とカリンの頭部が包帯でぐるぐる巻きにされ、残るは俺の肩をカリンの手の処置だけとなっていた。いや、ほんとに手際いいな……さっきまでの酔っ払いと同一人物とは思えねえくらいだわ。これはほんとに噂通り腕の立つ医者って感じだな。


内心で感心していた矢先、針で刺すような鋭い痛みが俺の肩からほとばしった。


「いっでええええええ!!」


「あらごめんなさい。やっぱり麻酔が必要だったかしらぁ?」


あっけらかんと言い放つ女医。その顔は一切の罪悪感のかけらもない、純粋な疑問の形だった」


「いるに決まってんだろ!? 傷口の縫合するのに麻酔打たねえ医者がどこいるんだよ!?」


思わず涙目になっちまったが俺の気持ちは分かって貰えただろうか。


「うーんでもねぇ、麻酔を打つ為には一つ大きな問題があってねぇ……」


問題? アレルギーがどうのとかそういうのか? 俺の頭上のハテナマークに気づいたのか女医が一言で説明してくれた。


「ああ、別にアレルギーとかそういうのを気にしているんじゃなくてね。麻酔はそっちの戸棚に入ってるんだけど……、そこまで取りに行くのがめんどくさいのよねぇ」


「そんくらい取りに歩けや――――ッ!!?」


眩暈のしそうな女医の言い草に、柄にもなく大声を出してしまった。


その時頭の奥からぷつっ、という音が聞こえたと思ったら目の間が真っ暗になりゆっくりとベッドの上に倒れ込んでいった。途中カリンの顔を見ると三分の二くらいの面積を包帯で覆われた彼女の表情が


「えっ、そんな理由でこの手も麻酔で無しで縫われるんすか……っ!?」


と恐怖に引きつっている様にも見えたが生憎俺には関係の無い……事……で……。


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