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怪しい診療所


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


森を出てから数時間、歩き続けた俺たちの前に建造物の立ち並ぶ区画が現れた。


「おお、これが――――」


レンガ造りの壁で全体を囲まれた街並み。


西洋風の造りの建築物がずらりと並ぶ、いかにもファンタジー然とした空間。


「ついたっすよ! ここがカレストの町、始まりの町とも呼ばれる新人冒険者が多く集まる町でもあるんすよ」


大きな門の前まで近づくと、警備員の様な……いや門番って言った方がしっくりくるな。屈強そうなおっさん二人が駆け寄ってくる。


「おい君たち大丈夫か!? 随分酷い怪我をしてるな。何があった?」


「あー、ゴブリンとちょっと……」


「またか……。最近やけに多いんだよ、新人の冒険者がゴブリン共に襲われるトラブルが。いや新人だけじゃないな、それなりに経験を積んだ冒険者であっても一時の油断で危機に陥る可能性だってある。だが最近のゴブリンどもの行動は度を越えて異常だ、異常な程に知能が高い……。って今はそんな話している場合じゃなかったな、早く医者に見せないと。俺が案内しよう」


おっさんについていくと一つの建物の前に到着した。そこに立つ木の看板には赤い十字架のマークが記されていた。


「さあ着いたぞ。じゃあ俺は仕事に戻るとするから、お大事にな」


そそくさとその場を去ろうとする門番に若干の違和感を覚える。俺の視線に気が付いたのか門番はばつの悪そうな顔を浮かべる。


「いや、ここの先生が……ちょっと、おっかなくてな」


「……今からそこで診て貰おうって奴の前で変な事言わないでくれよ」


「はっはっはっ、すまんすまん。でも安心していいぞ、ここの先生腕は確かなんだ」


門番のおっさんが豪快に笑いながらその場を去っていく。


おいおい、不安煽る様な事だけ言っていきやがって……。


「あの……」


隣のカリンが不安げな視線を向けてくる。



「そうだな、ここで突っ立っていても仕方ねえし……怖いって言っても医者は医者だろ。お互いほっとけるような度合いの怪我じゃねえし、とりあえず入ってみるか」


恐る恐る木製の扉に手をかける。木材と蝶番が擦れる音が鳴り、ゆっくりと扉が開いていく。


「ごめんくださーい」


受付の様なカウンターに人影はない。奥にいるかもしれないと声をかけてみるが反応も無い。


「留守……っすかね?」


「鍵は開いてたし、それはないと思うけど」


その時、カウンターの奥でガラスの割れる音とそれに続いてガタガタと何かが倒れる音が聞こえてきた。


「…………」


「…………」


俺たち二人が息を潜めてカウンターの奥を見据える。そこに―――――――


バンッ、と下から伸びてきた細い手が木製の受付台を叩きつける。


「ひぃ!?」


思わず大きく後ずさるカリン。いや、俺も内心結構ビビったけど。そうこうしている内にもそもそとした緩慢な動きで腕の持ち主が姿を現した。


「あぁー頭痛い……。ここどこ――――って私んちだった。うぇぇえええ、気持ち悪」


現れたのは長い黒髪を後ろで束ね、白衣を羽織った女だった。それも酔っ払いの。


「なあおい本当にこの人が腕の立つ医者なんか」


「とてもそうは見えないっすね……」


「あのーすんません、ここ病院であってる?」


「うん? あなた達どこのどなたかしら?」


一応こちらの言葉に反応は示すみたいだな。


そこで改めて女の姿を確認してみる。


黒髪のポニーテールに白衣、それだけ聞くと何となく知的な印象を受けるかもしれないが目の前の酔っ払いからはそんな雰囲気は一切感じられない。虚ろな目はどこを見ているかも分からず、足元もおぼつかないのか両手をカウンターについて体を支えていた。


「俺たち近くの森で魔物に襲われて、見ての通りの状態なんだけど。ここに腕の良い医者がいるって聞いてきたんだ」


女の視線がようやくこちらを向いた。俺達の状態に一通り目を通していく。


「これはまた……うっぷ、結構派手にやられたものね」


そういって懐から一本の注射器をとりだし、躊躇いもなく己の首筋へ突き刺した。いきなりの行動に唖然とする俺たちへ、空になった注射器を振りながら目をこする。


「ああこれ? 私特性、ただの酔い覚ましよぉ。別に怪しいものは入ってないわよ? ジェルフロッグの内臓の粉末とギガアントの体液を混ぜてポイズンリザードの涎を数滴加えて三日三晩煮詰めたら…………って、今はそれどころじゃなかったわねぇ」


先ほどと別人の様な目つきを見せる。


「二人共、奥へ来なさい」


廊下を進みベッド兼診察台の様な器具の上にそれぞれ横になるように指示され、大人しくそれに従う。

「少し痛むかもしれないけど我慢なさい」


白衣の女医は並列に並ぶベッドの間に立ち、左右それぞれの手でもって俺とカリンの頭のてっぺんから足の先まで流れるようなスムーズさで触診をしていく。


「こっちの彼は見た目ほど重傷じゃあないわね。肩の傷は四、五針縫えばそれで終わりだし、頭の方も派手に割れてるだけで頭蓋骨は無事……適当に消毒して置いとけば後は勝手に治るわよ。問題は……」



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