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第一ゴブリン発見

「おいおいちょっと待て、何か勘違いしてるぞ。絶対」


「言い逃れしようったってそうはいかないっすよ! アンタのさっきの話、アイツがこの世界に現れた時の話とそっくりだったんすよ!」


アイツ、が誰の事かはさっぱり分らんが今の話には少し興味が出てきた。この子の話が本当なら俺以外にも違う世界からやってきた人間がいるって事になる。


ぜひとも一度会って話をしてみたい所だけど――――


この剣幕を見るとあんまり人柄には期待できそうもないなぁ。険しい表情をこちらに向ける少女から一歩引いて辺りを見渡す。何かこの子を落ち着かせるいい方法は無いかと探していると視界の端で何かが動いた。


「あーちょっといいか、今後ろで何か動いた気がしたんだけど……」


「はっ、そんな手に引っかかる程間抜けじゃないっすよ。そうやって油断させて後ろから――――」


「――――――馬鹿ッ!!」


咄嗟に手を伸ばし少女の腕を引く。突然の事に虚をつかれたのか、大した抵抗も無く俺の元へと引き寄せられた。直後、少女の頭があった位置を黒い塊が高速で通過する。


「い、いきなり何するんすか!? やっぱりあなたは――――」


咄嗟の事で加減も出来ず勢い良く少女を引っ張ったせいで、されるがままに引き寄せられた少女と激突しもみくちゃになりながら地面を転がった後の第一声がこれだった。


「今は……そんなこと言ってる場合じゃないんじゃないか」


「……へ?」


素っ頓狂な声を上げながらも少女が俺の視線の先へと目を向ける。ここでようやく俺たち二人は同じものの存在を認識した。


そこにいたのは、小柄な体躯、暗い緑色の肌にとがった耳、醜悪な顔つきに乱雑に並ぶ薄く黄ばんだ鋭い歯、岩を掘り出して作ったような粗雑な棍棒持ち、殆ど全裸に近い恰好をしているくせに腰には一丁前にベルト替わりに紐を巻き小さな短剣数本が収まっている、そんな甲高い豚の鳴き声にも似た声を出す醜い生き物――――


「ゴブリン、ねぇ……これが」


参った。心のどこかでは未だにこの状況を信じられずにいたもんだけど、こうして目の前に|現実≪ファンタジー≫を突きつけられるともう認めざるをえないみたいだな。


「で、こっからどうするんだ? お友達になりましょう、って雰囲気には見えねえけど」


「…………」


「おーい?」


「…………ひっ!? え、あ、えと」


「いやだからこういう時どうすればいいか聞いてるんだけど……。あんたもそんな恰好してるんだからああいうモンスターに遭遇した時の対処ぐらいお手のものだろ?」


「――――い、――――です」


「は?」


今度は俺が頓狂な声を上げる番だった。


「あたし、今まで一度もモンスターを戦った事ないんです。それどころか生き物を殺した事すら……」


おいおいまじかよ。そんな如何にもな装備着こんどいてそれは無いだろ……。いや、そう言われてみれば確かにこの子が付けてる装備の全部が傷一つ無い新品みたいなのばっかだったわ。


いや今はそんな事気にしてる場合じゃない。現在の状況を整理してみよう。


1、出会い頭に問答無用で人の頭を叩き潰そうとしてくる危険な生き物と遭遇。


2、頼りになりそうだった冒険者ルック女はドの付くルーキーでスライム一匹倒したことも無さそうで。


3、ついさっき目覚めたばかりで右も左も分からない俺に至っては身を守る武器すら無い始末。


「よし逃げるか」


人間引き際ってもんが一番大事だ。ゲームでよく見るゴブリンだったら雑魚扱いされる様な大した存在じゃない、でももしこの世界のゴブリンがそうじゃなかったら? 


まんま丸腰のむらびとが一人と未使用の装備をぶら下げたむらびとに毛が生えた程度の冒険者一人、俺たち二人がかりでも勝てない様な敵だとしたらここは大人しく引いた方が身のためだろう。


「ほらあんたもいつまで座り込んでるんだ! さっさと逃げるぞ――――!!」


「む、無理っす……」


「はあ??」


「腰が抜けて、立てないんっすよぉ……」


今にも泣きそうな声をあげる。その向こうには下卑た笑いを浮かべたゴブリンが棍棒を弄びながら近づいてきていた。


「ああもうめんどくせえな!」


座り込む少女の肩に手を回し無理やり力づくで立ち上がらせる。


その瞬間、ニタニタ笑いを続けていたゴブリンが棍棒を振り上げ駆け出した。


それに追いつかれる前に半ば少女を引きずる様な形で全力で走る。


「な、なんで助けてくれるんすか? あたし、あなたに剣を向けたのに……」


「その話別に今じゃなくてよくねえ!? ほんとの事言えばあそこに放っていっても良かったんだけどな、こちとらこの辺の地理に詳しくないもんであのまま一人で逃げても逃げ切れるとは思えなかっただけだよ。あと言っとくけど完全なきまぐれだからな! あんたを助けるのに飽きたり、俺まで巻き添えで危ない目に合いそうになったらその場ですっぱり見捨てるから、安心してろ!」


「それは……全然安心できないっすね」


弱弱しくも笑顔を見せる余裕ができてきたらしいので少女を支えていた腕を離す。


「ほらもう自分で走れるだろ! さっきも言ったけどこの辺の地理なんてさっぱり分んねえんだからアンタが案内してくれないと――――」


「その事なんですけど……!! あたしから一つ話があるんすけど、いいっすか!?」


「今にも後ろからゴブリンが飛び掛かってきそうなんだ! 短く、簡潔に頼むぞ!!」


「――――迷ったっす!!」


一言だった。背後でゴブリンがゲラゲラと笑い声をあげたような気がする。なんだこいつらもしかして人の言葉が分かるのか? いや、それを言い出したらそもそも俺とこの少女の間で何の問題も無く会話が成立しているのも気になるけど今はそんな事に気を配っている場合でもなかった。


「よし、とりあえず作戦を思いついた。よく聞いてくれ」


「どうするつもりっすか!?」


「まずお前がユーターンしてゴブリンに向かっていく」


「ふんふん、それで?」


「当然追いかけている相手が急に自分に向かってきたらゴブリンの注意はそっちに向く」


「まあそうっすね」


「その隙をついて俺が…………」


「あなたが?」


「逃げる」


「なるほどなるほど……って、それじゃあたしが唯の囮役ってだけじゃないっすか!! そんな作戦却下! 却下っす!!」


駄目か、いい作戦だと思ったのに。


ちらりと肩越しに背後を覗いてみると変わらずそこにはゴブリンの姿。こちらが少しスピードを上げれば向こうも少しスピードを上げ、スピードを落とせば同じように減速する。まるで狙って付かず離れずの距離を保っている様に。でもなんでそんな事をする? 走って人間に追いつけるならとっとと俺たちに追いついてその手に持った棍棒で襲い掛かればいい。そうしない理由は?


「あのっ! さっきから走りっぱなしで足がそろそろ限界なんっすけど!」


さっきゴブリンの説明を受けた時少女が言っていた言葉を思い出す。


奴らは狡賢いが力は弱い、素手の一対一で人間の大人と正面から戦っても勝ち目がないほどに。勝てない相手を追いかけ続ける理由、俺たちを走り続けさせて消耗させる為か若しくは、どこかに追い込む為……ッ!?


「気をつけろ!! 俺たち、誘導されてるかもしれない――――」


「えっ!?」


やや前を走る少女の足元、深く茂った草むらがばさばさと蠢く。


と、同時にその草むらから彼女の進行方向を妨げる形で一本の木の棒が飛び上がってきた。


全力走っている最中に突如として膝下程度の高さのハードルが足元に現れたような状態だ。それが引き起こす結果は火を見るより明らかなものだった。


「うぇっ!? ちょ、きゃぁああッ!!」

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