移動式警備屋
移動式警備屋。彼らは個人営業の警備員たちである。
「桜田門第1班。緊急出動」
インカムからその言葉が耳へと入って来た。
「はい」
二人は走り出す。喫茶店を出て、路地を。
桜田門は彼らの警備区。だから、この住宅街も警備区。そして、この通りの向こうも。
二人は保護対象を目視した。
「大丈夫ですか?」
明日香と匡爾はしゃがみこむ女性の姿を見つけていた。明日香は女性へと駆け寄る。
「匡爾、救急車」
「分かった」
その女性は左腕から血を流していた。
「止血しますね」
明日香はハンカチを取り出すと、その傷口を圧迫した。その後、救急車と警察が到着した。
次の日。二人は警備本部にいた。
――用って何だろう?
明日香と匡爾の二人は備前敬吾の部屋へと入って行った。
「お二人とも、よく来てくれました。今回は、あなた方に専属型としての依頼が来ましたので、お呼びだてしました」
――専属型。
明日香は目を輝かせた。
「昨日、あなた方が保護をした女性がいるでしょう?」
「はい」
備前敬吾は話を続けた。
「その女性が警護をしてほしいと依頼して来ました。どうやら、殺害予告が届いていたそうで」
「え!?」
明日香が驚く。しかし、彼はそのまま続ける。
「それなので、今から彼女の所へ行ってもらいます」
「はい」
「期限は一週間。それまでに犯人を確保して下さい。あ、あとそれから、今回は、移動式警備屋と合同警護になっておりますので、あしからず」
「え!? 合同? 移動式と?」
明日香は再び驚く。しかし、備前敬吾は動じない。そして。
「えぇ。では失礼」
彼はそう言うと、自分のデスクに座り、業務へと取り掛かった。二人は、取り残される形となった。二人は、仕方ないので現場へと向かった。
「昨日の女性、傷の具合は大丈夫かな?」
「本人に聞けば?」
「う。それはそうだけど」
明日香は少しひるんだ。すると。
「着いた。この会社だ」
二人はビルを見上げる。現場へと到着した。電車と徒歩でやっと着いたのだ。
「行こう。10階のフロアが彼女の会社のオフィスだ」
「うん。分かった」
二人はそのビルへと入って行った。
「こんにちは」
明日香が挨拶をする。
「こんにちは。はじめまして」
依頼主の女性、山口百合子がこちらへ歩み寄って来た。
「私が山口百合子と申します。非公式警備屋の方ですよね?」
「はい」
明日香は答えた。
「良かった、来てくれて」
女性、山口百合子は安堵で笑顔になった。
「殺害予告が届いたんですよね?」
「えぇ」
「分かりました。移動する時は声をかけて下さい。ここで待っていますので」
明日香は頼もしく答えた。
「はい。ありがとうございます」
女性は自分のデスクへと戻って行った。一方、明日香は小説を取り出した。
「よく、持って来たね」
匡爾は呆れて言う。
「待機は基本です」
明日香はぴしゃりと言った。
「はいはい」
匡爾の方は携帯端末を取り出した。インターネットサーフィンだ。それぞれ、時間を潰そうとしていた。
夕方。退社の時刻となった。すると、とある人物が現れた。
「紹介します。私が個人的に雇った移動式警備屋の方です」
女性、山口百合子が明日香と匡爾にその人物を紹介した。彼女は井戸田由貴。移動式警備屋だ。
移動式警備屋は個人営業の警備員で、業務のほとんどが短期のボディーガードだ。
「はじめまして。本部から聞いています」
明日香は挨拶をした。すると。
「はじめまして。こちらこそ、よろしくお願いします」
彼女も挨拶をし、右手を伸ばした。そして、明日香と握手をした。すると。
「何!?」
大声が聞こえた。
「?」
皆はそちらを向いた。
課長は、ある段ボール箱の中を見ていた。
「どうしたのですか? 課長?」
山口百合子が課長へ尋ねた。すると。
「警察に連絡してくれ、爆破予告が届いた」
課長は緊張を隠し切れずに、切迫して答えた。
「え!? どれですか?」
明日香がしゃしゃり出て行った。
「これです」
明日香は箱の中身を覗いた。そこには、ピエロの人形と爆破予告のカードが入っていた。
「どうして……」
明日香は息をのむ。
「私のせいだわ。私が狙われているから」
山口百合子は顔を青ざめて、手で顔を覆った。
「そうなのか? いや、でも君のせいじゃない。悪いのは犯人だ」
課長は彼女をかばった。
「匡爾」
明日香は匡爾の方を見る。
「大丈夫だ、警察はもう呼んだ」
彼は冷静に答えた。すると。
「爆弾を探そう」
明日香はそう言った。
「明日香!?」
「警察の指示を待っている暇はない。行きましょう」
彼女はオフィスを飛び出した。
「おい、待て!!」
匡爾も後に続いた。
「匡爾は北側をお願い!! 私は南側」
明日香はそう言うと、廊下を右へと曲がった。
「ったく」
匡爾は左へと曲がった。
10分後。警察が到着した。警察への説明は、移動式警備屋の井戸田由貴が行った。警察は刑事たちを使い、ビル屋内にいる一般市民を避難させ始めた。
一方、明日香と匡爾はまだ爆弾を見つけられずにいた。
「おかしい。この10階フロアじゃないのかな?」
明日香は足を止める。そして、隣の匡爾が答える。
「他の階だったら、探しようがない。範囲が広すぎる」
――一体、どうすれば。
明日香はその場に立ち尽くした。
次の瞬間。轟音が響いた。
――爆発音!?
「明日香、爆発だ。いくら警察が来ているからって、安全じゃない。避難するぞ!!」
「うん」
明日香と匡爾は避難を開始した。
「ねぇ!!」
明日香が匡爾を呼び止める。
「何だ?」
「山口さんには、井戸田さんがついているはずだよね?」
「あぁ、当たり前だ。外へ出たら合流しよう」
二人は階段へと向かった。
ビル屋外。そこで移動式警備屋の井戸田由貴は焦っていた。
――どうして、どうしていない!?
背後にいたはずの山口百合子を見逃してしまったのだった。
――どうしよう、どうすれば!!
「移動式さん!!」
明日香が彼女のもとへやって来た。
「あれ? 山口さんは?」
明日香は周りを見渡す。
「それが……」
井戸田由貴は言葉に詰まった。
「まさか」
明日香は嫌な予感がした。
「この人の波に巻き込まれて……」
「そんな」
「明日香、俺は本部へ連絡を入れる。お前は移動式と辺りを探せ!!」
「うん」
明日香はそう返事をすると、井戸田由貴と共にその場を後にした。
「五十里エル、応答を頼む」
匡爾は警備本部へと連絡を取った。
「大変なことになりましたね」
「すみません」
匡爾は頭を下げた。五十里エルは立体映像で現場へと瞬間移動してきていた。
「本部としては管理人工知能型へ出動命令を出しました。これで、彼女の居場所はすぐに分かるでしょう」
「ありがとうございます」
匡爾は再び、頭を下げた。
「匡爾、どうなった!?」
明日香が息を切らして、走って来た。
「連絡は入れた。どうやら管理人工知能型が出動するらしい」
「本当に!? それならすぐに見つかると思うけど」
明日香は息を整える。
「もし、犯人に連れ去られていたら?」
明日香は匡爾に尋ねる。
「大丈夫だ。その為の管理人工知能型の出番だ」
匡爾は頼もしく答えた。
「そうだね」
明日香は苦笑した。すると、管理人工知能型の代々木が立体映像で姿を現した。
「今回担当します、代々木です。よろしくどうぞ」
彼女は立体映像でお辞儀をした。すると、彼女は顔を上げると、早速、捜索を開始した。色々な場所にある監視カメラと防犯カメラの映像を検索していた。
――さすがだな。管理人工知能型。
匡爾が感心する。
彼女は今、超個体状態である。様々な情報が彼女の脳内に流れ込んできているのだ。
「見つけました。どうやら、男性に同行しているようです」
「え!?」
明日香は驚くが。
「ナイフか何かで、脅されているんじゃないか?」
匡爾は推測した。
「えぇ、その可能性もあります。自身の意志かどうかまでは判断しきれません」
「それで、最終目的地は!?」
「丸の内の監視カメラを最後に映っていません」
「という事は?」
「丸の内ビルにローラー捜査をかけます。巡回型へ出動命令を出します。いいですね?」
代々木は淡々と捜査を進めた。
「はい」
明日香は真剣に返事をした。
「桜田門第1班、あなた方にも出動してもらいます」
代々木は不意をつく。
「え?」
「あなたたちは、上位第3位です。あしからず」
代々木は立体映像で口角を上げてみせた。
「はい。行こう」
「あぁ」
明日香と匡爾の二人は全速力で走って行った。
「では、私も」
移動式警備屋の彼女も走って行った。
1分後。彼らは丸の内ビル群へたどり着いていた。しかし、どのビルに彼らがいるのかが、分からずにいた。
「どこのビルか分からない!!」
「とにかく、本部の指示に従え。巡回型が次々と集まってきている。もちろん上位第4位以下もな。だから、安心しろ。さっき代々木が言っていた通り、これはローラー捜査だ」
「分かった」
「本部指示を」
明日香は尋ねた。
「目の前のビルに入ってください」
インカムから管制室の音声が聞こえて来た。彼女たちはその指示に従い、目の前のビルの捜索に取り掛かった。すると、次の瞬間。インカムから新たな情報が入って来た。
「被害者の女性を発見」
「え!? どこのビルですか?」
明日香は警備本部に尋ねた。
「桜田門第1班、南。第2班、西。第3班、北です」
インカムからは、そう返事が返って来た。
明日香はそれを聞くや否や、今いるビルを出て、南側に隣接するビルへと向かった。
明日香たちが突入した時には、もう既に犯人は確保されていた。
「大丈夫ですか?」
明日香は山口百合子へと駆け寄った。
「白石さん。大丈夫です。かすり傷程度でした」
「そうでしたか、良かった」
明日香は安堵で苦笑した。すると、背後で声がした。
「さぁ、退いた。もうすぐ警察が来る。現場保存だ」
「おじいちゃん」
明日香はきょとんとする。すると。
「今日は、大失態だったな?」
「う。それは言わないで」
明日香は少し落ち込んだ。
次の日。二人は警備本部にいた。
「今回は何ですか?」
明日香が備前敬吾に尋ねた。
「昨日で事件は無事解決した。よって、君たちには専属型からいつもの非常勤へと戻ってもらいます」
「はい」
明日香は返事をする。
「今日からだ。いいね?」
「はい」
「以上だ」
「分かりました。失礼します」
明日香はそう言うと、部屋を出て行った。匡爾もそのあとに続いた。
「どうした? 晴れ晴れした顔をしているが?」
匡爾は明日香に尋ねた。
「友達になったんだ。移動式さんと」
「へぇ、それは良かった」
匡爾は珍しく、笑顔を見せた。




