連続爆破事件
『欧州国王子、王子妃の出席する記念式典を爆破する』
インターネット上で犯行声明が示されました。
画面にはそう映っていた。警視庁警備部の会議でその話題がなされた。担当の管理人工知能はトモヒト。彼らは、3日後に行われる欧州国王子、王子妃出席の記念式典の警備担当だ。
今回は警視庁の警備部と民間の非公式警備屋が合同で警備することになっていた。異例だと言ってもいいくらいだった。
しかし、政府からすると、ここ最近、成果を上げている非公式警備屋の力は借りたいものだ。それにより、民間の非公式警備屋が警備を半分担当することとなったのだ。
「いいなー」
明日香と匡爾はいつもの喫茶店で報道番組を見ていた。
明日香は専属型に憧れている。それにより、専属型の業務であるボディーガードの職がうらやましいのだった。
「高校卒業したら、いくらでも専属型へ移行できるよ。それまで我慢」
匡爾は諭す。すると。
「はーい……」
明日香は肩を落として、顎を机につけた。目の前には読みかけの小説と匡爾のコーヒー。いつもと変りない一日であった。
3日後の式典当日。二人は、喫茶店でテレビを見ていた。報道番組で式典のライブ中継が入っているのだ。彼らは、喫茶店で待機している間に式典の様子をみようとしていたのだった。
――欧州国王子と王子妃って、どんな人なんだろう?
明日香は中継を楽しみにしていた。匡爾は隣の席でコーヒーを飲んでいた。
すると、突然、爆発音が辺りに響いた。
「何!?」
「明日香、すぐそこだ!! 行こう」
「うん」
二人は荷物をそのままに走っていった。路地を走り、住宅街を目指す。400メートル進んだところで二人は目の前の光景に言葉を失った。
目の前には、大破した一軒の家屋があった。
「まさか、この家が爆発したの?」
明日香は唖然とし、つぶやく。
「そうみたいだな」
二人は周りを見渡す。すると、けが人が多数いた。それを見た二人はけが人や周りの人々の誘導を始めた。
「大丈夫ですか?」
明日香はけが人に手を貸す。匡爾は人々を誘導していた。すると、後ろから声がした。
「私たちも手伝うわ」
桜田門第3班の3人だった。どうやら、誰かがアラームを鳴らしたのだろう。他の班も駆けつけていた。桜田門第2班、第4班も来ていた。桜田門第5班は、爆発音を聞き、駆けつけてきていた。
「救急車が到着しました。けが人の方をこちらへ!!」
加嶋和樹が叫ぶ。
「はい!!」
明日香と匡爾が誘導する。亜崎あかりたち桜田門第3班と第2班は、現場の保全に努めていた。警察が来るまで、現場から人々を遠ざけるのだ。
すると、遠くからパトカーのサイレンが聞こえた。
――やっと、来た。
「もうすぐ、警察が来る。あと少しの頑張りだ」
「うん」
明日香は頼もしく返事を返す。明日香と匡爾は現場のけが人の方々の誘導を続けた。
警察が到着した。
「ありがとう。あとは私たち警察に任せて」
「はい」
非公式警備屋は警察の到着により、役目を終えた。
「まさか、こんな時代に爆破事件が起きるなんて」
亜崎あかりは遠くから現場を見て言った。
「そうね」
野崎日向は相槌をうつ。次に柏崎陽景が疑問を口にする。
「っていうか、もしかして私たちが知らないだけで爆破予告があったりして」
「ありましたよ」
「え!?」
皆は驚いた。五十里エルの登場に。彼女は、明日香の携帯端末から立体映像として姿を現した。
「本当なんですか!?」
明日香は一番驚いたように尋ねた。
「はい。3日前にインターネット上に予告文が掲載されていました」
「この場所を爆破すると?」
匡爾が尋ねる。
「いいえ。たった今、行われている欧州国王子、王子妃の出席する記念式典を爆破するというものでした」
――え!?
皆は再び、驚いた。
「大丈夫なのか!? このまま式典を続行して」
「式典の警備を半分任されているからといって、中止にする権限を持っているのは私たちではありませんから」
「確かに」
「これから、どうするんだ? 式典を爆破するといっている以上、また爆破される可能性は残っているのでは?」
匡爾は五十里エルに疑問をぶつける。
「はい、確かにそうです。しかし、今はまだ待機するようにと警備本部は判断しました。どうか」
「そうか、分かりました。そうしましょう」
村山慶一は潔く、指示に従った。
いつもの喫茶店。二人はここでいつものように待機をしていた。テレビからは式典の中継が流されていた。
「大丈夫かな?」
「さぁな」
明日香の問いに、匡爾はコーヒーを飲みながら答えた。
「っていうか、式典っていつ終わるんだっけ?」
明日香が問う。
「夕方の5時ぐらいかな」
「それがタイムリミットか」
「何がタイムリミットだよ。物騒な」
「ごめん」
明日香は申し訳なさそうに謝った。
すると、次の瞬間、巨大な爆発音が再び、響いた。
「え!? まさか、次の爆破!?」
明日香は思わず席を立ち、窓の外を見た。遠くに黒煙が見えた。二人は、走り出す。喫茶店を出て、住宅街を走り抜ける。そして、現場へとたどり着く。そこは公園だった。よく見ると、公園の端から煙が立ち込めていた。
「ゴミ箱? それともベンチ?」
明日香はインカムから管制室へ連絡を取る。すると、管制室から連絡が返って来た。
「ゴミ箱です」
衛星写真との照合結果、元々はゴミ箱があった場所だった。
「大丈夫か?」
桜田門第4班もやって来た。
「けが人は!?」
そして、第3班も。
「今日は、どこも危険かのう?」
すると、第2班もやって来た。どうやら、今回も誰かがアラームを鳴らしたようだった。続々と、巡回型と非常勤傭員が集まってくる。
「皆、状況は?」
桜田門第5班も遅れて到着した。
「どうやら、どんどん非公式警備屋が集まってきているようだね」
村山慶一が話す。
「えぇ、爆発音を聞いた方々が次々とアラームを鳴らしているのでしょう」
亜崎あかりが答える。
「しかし、警察はまだか? 現場の保全をしないと」
中嶋英一が提案する。
「けが人も保護しましょう」
野崎日向が言う。
「そうね、行きましょう」
柏崎陽景は皆に言った。
桜田門第3班はけが人の捜索を。そして、第4班は現場保全へと急いだ。
「私たちも行こう、匡爾」
「あぁ」
二人はあとを追った。
そして、警察の到着後、非公式警備屋は彼らへ役割を明け渡した。
「大丈夫かな?」
明日香は匡爾に話しかける。
「もう、非公式警備屋もただ街にいるだけではいかないだろうな」
「そうだね」
非公式警備屋は少し集まり、話し合いをしていた。
「しかし、皆。このまま、ここで話し合いをしているわけにもいかないだろう」
加嶋和樹が皆に言う。
「また、爆破が起こるとしたら、こことは別の場所のはず。それなら、一刻も早く街中へと散らばったほうがいい」
「それもそうね」
「私も賛成だわ」
野崎日向と柏崎陽景がそれぞれ賛同した。すると、そこへ五十里エルが現れた。
「皆さん、緊急連絡です」
「どうしたの?」
「緊急警戒体制を発令します」
皆は驚いたが、すぐに納得した。
「それにより、非常勤の皆さんも巡回型として機動してもらいます」
「はい」
明日香は返事をした。
緊急警戒態体制の発令は、ごく稀である。非常勤傭員と巡回型が増員され、非常勤傭員も巡回型と同じく街を巡回しなければいけなくなるのである。
今回は連続爆破事件。もう既に、2回も爆破されていた。
――緊急警戒体制、気を引き締めなくては!!
明日香は心に誓った。
「では、皆さん。街へ散らばって下さい」
「はい」
その返事を聞くと、五十里エルは立体映像を収納していった。
「では、私たちは北へ向かう」
桜田門第4班は北方向へ。
「私たちは南へ行くわ」
第3班は、南へ。
それぞれ四方八方へ散らばっていった。すると、そこへ明日香と匡爾だけが残された。
「どこを巡回する?」
明日香は匡爾へ尋ねた。
「警察の動きはどうなっているんだろう、知りたくないか?」
「確かに」
「五十里エル」
匡爾がそう言うと、彼女は再び、立体映像として姿を現した。
「何でしょうか?」
彼女は瞬きを2回した。質問受付の合図だ。
「警察の動きはどうなっている? 連携はしているはずだ」
匡爾は尋ねる。すると、五十里エルは瞬きを再び、2回。そして、答えた。
「警察はこの一連の事件を連続爆破事件として立件しました。そして、担当は捜査一課に決まりました」
「他には?」
匡爾は尋ねる。
「警察はまだ、インターネット上の爆破予告の発信者を特定できていないようです」
「分かった。ありがとう」
明日香がお礼を言う。
「はい。また何かありましたら、呼び出して下さい。では」
五十里エルは立体映像を閉じていった。
「匡爾、私たちも巡回しよう」
「あぁ、行こう」
二人は街へと出て行った。
しかし、無情にも爆発物は爆発した。
「匡爾、向こうに黒煙が!!」
「分かった。行くぞ」
「うん」
二人は走り出した。
――今度はどこ!?
住宅街を抜け、大通りを進む。黒煙は一向に途切れない。火災が発生していた。
「匡爾、消防にも連絡した方がいいかも。火災になっている」
「分かった、入れとく」
匡爾はインカムを通じて、管制室へと連絡を取った。明日香は黒煙を見上げて走った。
現場へ到着すると、数人のけが人がいた。そして、数組の非公式警備屋の姿も。
「救急車には?」
明日香が現場の亜崎あかりへと尋ねた。
「大丈夫。あと1分以内には到着するわ」
「分かりました。ありがとう」
「いいえ」
亜崎あかりは少し口角を上げてみせた。
「第1班は、現場の保全にあたって。野次馬が集まってきている」
隣の野崎日向が言う。
「はい」
「分かりました」
二人は、それぞれ返事をした。
「私たちも加わります」
明日香は人々の誘導をしていた加嶋和樹へと話しかける。
「分かりました。こちらをよろしく」
「はい」
明日香と匡爾の二人はそれに加わった。
「加嶋さん」
明日香が話しかける。
「何でしょう」
「今回の爆発物は一体どこに?」
「このコンビニのトイレに仕掛けられていたそうです」
加嶋和樹は明日香の問いに答えてくれた。
「分かりました。ありがとうございます」
明日香は丁寧にお礼を言った。すると、ちょうどそこへ警察が到着した。
「どうやら、交代のようだね」
「はい」
非公式警備屋が役目を終えたあと、警備本部の五十里エルが姿を現した。
「非公式警備屋の皆さん。追加任務です」
「何でしょうか?」
加嶋和樹が尋ねる。
「本部会議で決定した事項です。巡回型と非常勤傭員の皆さんで、街中に仕掛けられていると思われる爆発物を捜索してほしいのです」
「え!? 私たち……」
明日香は言葉尻を濁した。
「警察とはもう既に合意済みです」
五十里エルは淡々と伝える。
「分かりました」
明日香の代わりに匡爾が承諾した。
「捜索する範囲はもう既に警察が指定してきました」
「指定?」
「警察は、この3度の爆発位置が爆破予告の式典の場所へ次第に近づいて行っていると判断したそうです」
「なるほど、それで捜索範囲を計算で絞り込んだのですね」
上嶋竜也が話す。
「えぇ、そうです」
五十里エルは立体映像で頷いた。
「分かりました。すぐに向かいます」
「お願いします。範囲は皆さんの携帯端末に送信しておきました。では、失礼します」
五十里エルはそう言うと、立体映像を収納して消えて行った。
「明日香、行こう」
匡爾は携帯端末の捜索範囲を確認すると、彼女の名を呼び、先へと進んだ。
「主任、警察本部から連絡です」
一方、式典会場では警視庁警備部のSPが会場の警備にあたっていた。
「何番だ?」
「1番です」
栄日大翔はインカムの番号を合わせた。
「はい。栄日です。はい、……はい。分かりました」
そして、インカムをもとの番号へ戻した。
「真森、本部から連絡があった。また爆破があったようだ」
「それで?」
真森景子は聞き返す。
「次はこの式典の会場になる可能性が高いようだ」
「分かったわ、私のチームにも伝えるわ」
彼女はそう言うと、自身のチームへと連絡を入れた。
栄日大翔と真森景子は同じ班である。しかし、チームは違う。
この時のチームとは、出身枠のことである。
栄日大翔は人類。要するに、人類のSPチームの主任だ。一方、真森景子は完全機械。機械のSPチーム所属なのだ。
昨今、警察の警備部は、人工知能搭載の完全なる機械のSPを投入した。今では、それをSPRと呼んでいた。
彼らは、人類では危険な場所にも行くことが出来る。優秀な人類のパートナーとなっていた。
爆発音が辺り一面に響き渡った。SPたちは一斉にそちらへ振り返った。黒煙が立ち上がる、式典の裏駐車場。
「全班。王子と王子妃を誘導しろ!!」
栄日大翔は全SPに指示を出した。SPが守るのは、王子と王子妃の二人のみ。一般客は非公式警備屋の担当だった。
――爆発!?
明日香と匡爾は黒煙の昇る方向へと視線を移していた。
――向こうは、式典会場。
明日香と匡爾は嫌な予感がしていた。しかし、それが当たるとは限らなかったが……。
一方、式典会場からは、何台もの黒塗りの車が出て行っていた。それは、王子と王子妃を乗せた護衛車であった。その中の一台に彼らが乗っているのだ。
「匡爾、あれ」
明日香は匡爾に声をかけ、指を指す。その方向には、黒塗りの車が。
「きっと、王子と王子妃の乗った護衛車だろう」
「そうだね」
明日香と匡爾は、その車たちを目で見送った。すると、次の瞬間、再び爆発音が響いた。そして、目の前には、火柱が上がった。
――まさか、まだ、終わっていなかったの!?
「明日香、行くぞ!!」
「うん」
二人は目の前の車へと駆け出した。一台目と二台目は完全にひっくり返っていた。しかし、三台目以降は気にせず、前進していった。どうやら、王子と王子妃は三台目以降に乗っていたようだ。
明日香と匡爾は、ひっくり返った車から、SPを助け出していた。
「大丈夫ですか?」
「あぁ、かすり傷だ」
他のSPたちも意識はあるようだった。すると、二人のインカムに情報が入って来た。
「爆弾の捜索範囲を変更します。それぞれ、携帯端末の情報を確認するように。以上」
それは、爆弾の捜索範囲を変更するというものだった。二人は、それを確認すると、走ってそちらへ向かった。
一方、警察は内部犯を疑っているようだった。この爆破が起きた道は、今回、警察が出した避難用ルートのマニュアルに載っているものだった。それにより、警察は内部犯も視野に入れているようだった。
――爆弾は一体どこに!?
二人は、あちこち、色々と探し回った。しかし、まだ、発見できていない。すると、インカムに再び情報が入って来た。
「桜田門第4班。爆発物らしきものを発見。警察の爆弾処理班の到着待ち」
「匡爾、聞こえた?」
明日香が匡爾に話しかける。
「あぁ、どうやら、ひと段落したようだな」
「あとは犯人の確保だね」
「あぁ」
次の日。二人はいつもの喫茶店で待機していた。そして、目の前のテレビからは、いつもの情報番組が流れていた。
ニュースは昨日の爆破事件のものだった。犯人確保のニュースもやっていた。
犯人は、20代の男性だった。爆弾作りの前科があったため、今回、解体した爆弾から出た指紋で足がついたのだった。
「犯人、捕まってよかったね」
明日香は匡爾に話しかけた。
「あぁ、そうだな」
匡爾は口角を少し上げて、微笑んでみせた。




