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非公式警備屋  作者: 津辻真咲
5/10

現役人類の管理人工知能


人工知能型非公式警備屋。

彼らは、頭脳で街を犯罪から守っている。

現役人類、元人類、完全機械。それぞれの頭脳をもって。


アラームが鳴る。そして、警備本部の人工知能たちに連絡が光速で飛んできた。今回、桜田門を担当しているのは佐々ささき

彼女は現役人類の人工知能型非公式警備屋だ。それに加え、現役の巡回型でもある。警備会社の管理人工知能をしながら、街を巡回しているのだ。要するに2つ以上のことが同時にできるのだ。

なぜ、人類なのに管理人工知能として働けるのかというと、後頭部に数本、脳波を観測できるワイヤーが通っているのだ。それは、頭皮の上を髪の毛のように張り巡らされている。それにより、脳内で警備本部にアクセスしたり、機械たちをコントロールしたりできるのだ。

「桜田門第1班。緊急出動。北700メートル」

 インカムから管制室の命令が入って来た。

「はい。向かいます」

明日香と匡爾は現場へ向かった。

この時、この管制室には人がいない。完全に機械化しているのだ。つまり、管理人工知能たち3人(=現役人類、元人類、完全機械)がアラームの発信を受け取り、各班へ指示を出しているのだ。

「匡爾、急ごう」

明日香が全力で走る。

この時、桜田門第1班は上位第2位。1位は桜田門第9班。佐々木が巡回型として所属している班だ。

「見えて来た!! あそこに上位1位の人たちが!!」

 明日香が叫ぶ。

――良かった、保護されてる。

明日香と匡爾は現場へたどり着いた。

「救急車と警察へはもう連絡をしておきました。安心して」

 巡回型桜田門第9班の三井若葉みつい わかばが話しかけて来た。

「はい」

 明日香はそれに返事を返す。

「それから、アラームを鳴らしたのはこの子。きっと娘さんよ」

その少女は泣いていた。筒井うらら (つつい うらら)が肩をぎゅっと抱きしめていた。

「はい」

「父親と思われるこの男性の止血はしておきました。救急車を待ちましょう」

 金井学かない がくは傷口を圧迫していた。

「はい。分かりました」

「警察はあと5分。救急車はあと1分で到着できるようです」

 巡回型の桜田門第9班と管理人工知能型の桜田門第10班を兼任している佐々木が皆に伝えた。

「はい」

 明日香は返事をするが。

――ん?

――インカムにそんな情報は届いていないような。

「どうしましたか?」

 明日香のきょとんと見つめる視線に、佐々木は聞き返した。

「もしかして、兼任の方ですか?」

明日香は彼女が人工知能型と巡回型を兼任している非公式警備屋かを尋ねた。

「はい。管理人工知能の職もやっております」

――わぁ、すごい。

明日香は少し目を輝かせた。すると、佐々木は後ろを振り返った。

「北、50メートル。すぐそこまで救急車が来ています」

「え!?」

「GPSで確認しました」

「え!? え!?」

「この街の情報は全て、把握しています」

佐々木は脳内で警備本部にアクセスして、情報を得ていたのだ。警備本部には彼女のもう一つの所属班である桜田門第10班がある。その桜田門第10班の彼女たち3人は全員、人工知能として働いている。

――さすがだな。

匡爾は感心した。



次の日。いつもの喫茶店。二人はそこでいつものように待機していた。

「知ってる?」

 明日香は匡爾に話しかける。

「何が?」

 匡爾はコーヒーカップを置いた。

「昨日の出動の時の被害者。あの刑事の茂取さんだったんだって」

「あぁ、知ってたけど?」

「え!? そうなの?」

「お前、それ現場で顔見れば分かるだろ」

 匡爾は頬杖をつき、呆れて明日香を見た。

「ごめん、顔見れてなかった」

「観察は初歩だろ」

「う、うん」

「それで? 何が言いたいんだ?」

「いや、ただその情報を伝えたかっただけ」

明日香は肩身が狭く感じた。すると、管制室から連絡が入った。

「桜田門第1班、緊急出動。北、900メートル」

「行こう」

二人は現場へ走り出した。


二人は路地を通る。そして、住宅街へ。空は薄暗い。

もうすぐ7時。日の入りはしていない。だが、街灯は灯り始めていた。

――被害者はどこ?

明日香は辺りを見渡す。

「白石!!」

「あ!」

明日香は声のする方へ振り返る。すると、そこには桜田門第3班の姿があった。

「GPSではこの辺よ。気を付けて」

「はい」

亜崎あかりも辺りを見渡した。

「どうして? 被害者の姿もない」

「確かに」

隣の野崎日向が答えた。

「早く、保護しないと……、けがをしているかもしれないのに」

柏崎陽景は少し移動して辺りを探し回る。

「皆さん、こちらです!!」

村山慶一の声がした。

上位第3位の桜田門第5班も現場へ到着していたようだった。村山慶一たちは、被害者を保護していた。

「大丈夫ですか?」

「……」

 藤村重行の呼びかけに被害者は返答しない。意識がないのだろうか。明日香は被害者を見た。すると、あることに気付いた。

――加嶋さん!?

 その被害者は桜田門第4班のリーダー、加嶋和樹だった。明日香は思わず、匡爾の方へ視線をやった。しかし、匡爾は首を振った。それにより、明日香は何も口にはしなかった。


そして、救急車が到着した。彼は腹部を刺されてはいたが、命には別状はなかった。



――加嶋さん、大丈夫だったかな?

 いつもの喫茶店。しかし、明日香は小説など開きもしなかった。

「気にしているのか?」

「うん」

明日香は少ししょんぼりしていた。

「聞いてみるか? あいつに」

 匡爾は携帯端末を取り出した。

「あいつって?」

「警備本部担当、五十里エル」

匡爾がそう言うと、五十里エルが立体映像で姿を現した。

「なんでしょうか?」

彼女、五十里エルは備前敬吾の補佐官であり、管理人工知能とはまた別の役職である。

「今日の事件のことについて、教えてくれないか? なぜ加嶋和樹警備員が狙われたのかを」

「あなたたちは桜田門第1班ですね。今日の緊急出動に関わっている。分かりました。お話しいたしましょう」

「ありがとうございます」

匡爾は礼を言った。

「彼の事件は一連の事件の第2件目の事件です」

「第2件目? 一連の事件って?」

 明日香は聞き返す。

「彼の事件の第1件目は茂取壮一刑事の事件です」

「え!?」

明日香は驚いた。

「これからの情報は他言しないようにしてほしいのですが、いいですか? 警察との合同捜査で得た情報です」

「はい」

「第1と第2の事件には、たったひとつ共通点がありました」

――共通点。

「彼らの担当していた事件が同一のものだったのです」

「事件?」

「はい。桜田門内誘拐事件です」

「それって……」

「一カ月前の誘拐事件。確か、人質の女児は死亡してしまった事件」

 匡爾がぼそっと独り言を言う。

「はい。その通りです」

 立体映像が瞬きをした。

「この事件しか、共通点がないのですか?」

 明日香が尋ねる。

「はい。今のところ」

 立体映像はもう一度、瞬き。

「分かりました。情報提供ありがとうございました」

 明日香は深々と頭を下げた。

「いいえ、いつでも呼び出してください。私は全、非公式警備屋のサポート役ですので。では」

五十里エルはそう言うと、立体映像を収納して消えて行った。

「っていうことは、まだ事件は起こるっていうことだよね?」

「確かに。一体、次は誰なのか」

 匡爾は遠くを見た。


「桜田門第1班、緊急出動。西500メートル」

「はい。出動します」

二人は走り始めた。喫茶店を出て路地を進む。そして、住宅街。

――被害者はどこ?

「保護対象者は、小学2年の女児です」

インカムから情報が入って来た。

「いた!!」

匡爾が指し、走り出す。明日香もそちらへ向かう。

「大丈夫?」

明日香は女児に駆け寄り、辺りを気にする。どうやら、加害者は逃走してしまったあとのようだった。

――一連の事件とは関係なかったか。

明日香は一連の事件が気になっていたのだった。すると、彼女はあることに気付いた。目の前の住宅街の向こうに人が倒れているのが見えたのだ。

「匡爾、人が倒れている!!」

「何!?」

匡爾は明日香が指さした方へ目線をやる。するとそこには確かに地面に倒れた人物がいた。

「行ってくる」

匡爾は女児を保護している明日香をその場において、そちらへ向かった。

女性が倒れていた。腹部からの出血があった。しかし、息はあった。それを確認した匡爾は救急車を呼んだ。



翌日の放課後。二人は、喫茶店で待機をしていた。明日香は小説に集中できていない。匡爾は携帯端末で情報を検索していた。

――あれが第3の事件だったなんて。

明日香は昨日の倒れていた人物を思い出していた。

昨日の女児を保護したあとに見つけた人物は、腹部を刺された女性警察官だった。彼女は、交渉人として捜査一課強行班に所属していた。そして、桜田門内誘拐事件の担当刑事だった。

――今度は一体だれが狙われるのだろう。

――非公式警備屋で保護できればいいのだけれど。

明日香はそのことをずっと考えていた。すると。

「桜田門第1班、緊急出動。南東400メートル」

「はい。すぐに向かいます」

明日香と匡爾は走って喫茶店をあとにした。すると、インカムから情報が入って来た。

「追加情報。保護対象者は中学3年生の女子」

「はい。分かりました」

明日香は返事を返す。

――この路地を抜けたところが現場。急がなければ!!

二人は路地を進んでいく。右へ曲がり、そのまま直進。そして、路地を抜ける。視界が開けた。住宅街へとたどり着いていた。二人は辺りを見渡す。

すると、そこには桜田門第9班と通報者の姿があった。そして、地面には倒れている中嶋英一。腹部からは出血が確認された。

「この子がアラームを鳴らしてくれたの」

 三井若葉が明日香へ説明をする。

「という事は」

「この子は目撃者」

「分かりました」

「犯人の確保は、情報が入り次第、急行してください。監視カメラに姿が映れば、居場所が分かりますから」

「はい」

すると、管制室からインカムを通じて他の緊急出動要請が聞こえて来た。どうやら、管制室が共通無線状態に切り替えたのだろう。

――ということは、全、非公式警備屋への緊急警戒体制の発動。

この場合、非常勤傭員は全てが巡回型へと変化する。そして、警察の刑事も警察庁、警視庁の管理人工知能もこの確保に加わってくる場合がある。

今回は、もうすでに警察と連携をしていたので警察の管理人工知能も加わってくるだろう。

「桜田門第2班、緊急出動」

再び、緊急出動のアナウンスがインカムから聞こえて来た。逃走した犯人が監視カメラに映ったのだろう。

「桜田門第5班、緊急出動」

桜田門第5班も出動した。しかし、確保の連絡はまだない。

「桜田門第7班、第8班」

まだ、ない。すると、管制室は次の一手を使った。

「桜田門第10班、出動いたします」

「え!?」

皆、驚いた。

桜田門第10班は、管理人工知能として働いている。それにより、現場へ行くことはない。しかし、緊急事態の場合に限り、人工知能たちは電波となって出動する。

すると、隣の佐々木が意識を失い、地面へと倒れた。

「佐々木警備員!?」

明日香は佐々木の上体を少し起こした。

「何で!?」

「意識が警備本部を経由して現場へと向かったのだろう」

「え!? 現場へ!?」

桜田門第10班が現場へ到着する。

桜田門第10班は、現役人類の佐々ささき、元人類の須々すずき、そして、完全機械の代々よよぎで構成されている。

彼女らは、電磁相互作用を操れるので、実体がなくても攻撃が出来るのだ。それに加え、攻撃はよけなくても当たらない。攻撃時のみしか相互作用を持たないのだ。


犯人の男性は3人を目の前にして逃げ始めた。しかし、この街は彼らの手中の中、逃げ切れるはずもない。

佐々木が攻撃をした。彼らは等身大の立体映像で迫ってくる。男性はもはや恐怖により逃げる。しかし、そう簡単には逃げ切れなかった。監視カメラに確認され、身柄を取り押せられた。

ちょうどそこへ警察が現れた。パトカーで現場へと来てくれたのだ。

「警視庁管理人工知能の命により、来ました」

「ありがとうございます」

どうやら、警視庁の管理人工知能の指示だったらしい。



一連の事件。それは一人の男性による犯行だった。その男性の娘は一ヶ月前に誘拐事件に巻き込まれ、命を落としていた。

非公式警備屋と警察が迅速に対応していたら、娘は死なずに済んだのだとそう供述していた。それにより、担当刑事とその時の担当、非公式警備屋を狙ったのだった。



次の日の放課後。いつもの喫茶店。

明日香は小説が進んでいなかった。机に頬をつけて、気が滅入っているようだった。

「最近、暗い事件が多いね」

「そうか? いつも通りだろ」

 匡爾はコーヒーを飲みなら答えた。

「匡爾は、強いね」

明日香は元気なく笑う。すると。匡爾は。

「そんなことないよ。明日香も強いよ」

 口角を少し上げて、そう答えた。

「そりゃ、格闘技ではね」

 明日香は頬を膨らませて、頬杖をついた。

「お前、ずばっと言うね」

 匡爾は少し呆れた。

「違うの?」

「合ってる」

匡爾は微笑んだ。



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