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非公式警備屋  作者: 津辻真咲
4/10

巡回型非公式警備屋


巡回型。彼らは常に街中を巡回しており、アラームが鳴らされた時に緊急出動をする、民間警備会社の正社員である。


120db。

アラームが鳴る。

その電波信号は警備本部を通り、非公式警備屋上位3組に伝えられる。それを受け取った巡回型と非常勤は走り出す。

南、北、西、東。それぞれの待機・巡回場所から最短距離で向かう。顧客を守るのは当たり前だが、犯人確保も必須だ。

この頃の非公式警備屋は警察とも連動する、街の警護人たちだ。街中には監視カメラなどセンサーが張り巡らされ、安全を築き上げていた。


そんな中、事件は起こる。

「今から、捜査会議を始めます。まずは報告から」

今回の事件は、ある少年が傷害事件に巻き込まれたところから始まった。

「今回の被害者は石川寛貴いしかわ ひろき。中学1年の13歳。狙われた原因は不明。しかし、犯人にかなり抵抗をしております。彼は、空手の有段者です。地元では少し有名だそうです」

その後、トモヒトが指揮をとり、それぞれの刑事たちを指名し、情報を聞き出していた。

「以上です」

刑事が席に座る

「全員、報告を終えたようだ。トモヒト、以上だ」

「分かりました。では、散会」

彼がそう言うと、刑事たちは捜査本部から立ち去って、捜査へと向かった。



放課後。二人はいつもの喫茶店にいた。

「あー、疲れた」

 明日香は机に顔を伏せる。

「何が疲れただ、小説読んでいただけだろうが」

 匡爾は即座に言い返す。

「う」

「今日は、平和になったかも」

「桜田門の中ではな」

「まぁ、確かに」

もうすぐ5時。夕方のニュースが始まった。

「この事件、知ってる?」

 明日香は匡爾に話しかける。すると、匡爾も明日香の方を見て答えた。

「あぁ、空手少年が襲われた事件だろ?」

「その子、アラーム持ってなかったらしい」

 明日香は頬杖をついていた。

「へぇ、珍しい。今の時代、高校生でも持っているのに」

「助けてあげれなかったんだよね」

 明日香は遠くを見る。すると、匡爾も明日香の方を見ながら、頬杖をついた。

「ん? どういう意味?」

「この事件、桜田門警備区で起こっていたからさ」

「なるほどね」

4時から7時、この時間帯は、バイト傭員の非常勤の非公式警備屋が増える時間帯だ。この事件は、この時間帯に起きた。警備員たちは内心つらい。自分たちの無力さに。


「あと、30分。もうすぐ時間だね」

時刻は6時30分。残り30分でバイト傭員たちは勤務が終わる。下校と帰宅ラッシュ時の危険を排除しているのだ。

「コーヒー、あと1杯」

 匡爾はカウンターの向こうの店長に注文を言った。

「また、注文するの?」

 明日香は少し驚いた様子で聞いた。

「まぁな」

 匡爾は少し口角を上げた。

この二人、明日香と匡爾は喫茶店で待機しているが、正社員の巡回型は待機もしてられない。彼ら、巡回型は常に移動をしており、それこそ街を巡回しているのだ。アラームが鳴らなくても、事件を目撃したならば、もちろん助けに行くのだ。


――ラスト1章。

明日香は小説のラストを楽しみにしていた。匡爾は隣でコーヒーを飲んでいた。すると、インカムから声が聞こえて来た。緊急出動の合図だ。

「行こう」

明日香はそう言うと、小説をたたみ、荷物と共にその場へ置いて飛び出していった。匡爾も向かう。

「大変だね。今日もまた事件……」

店長は彼らを見て、ぽつりとつぶやいた。


――南、600メートル!!

どうやら、桜田門第1班が上位1位のようだ。しかし、先に到着していたのは、桜田門第5班の4人組だった。

彼らは男子4人組のチームだ。右から順に村山慶一むらやま けいいち藤村重行ふじむら しげゆき増村久貴ますむら ひさたか村越祐樹むらこし ゆうきだ。

「私たちが来たときにはもう既に犯人は逃走した後だった」

リーダーの村山慶一が話しかけて来た。

「救急車はもう手配した」

その横で被害者の男性を介抱している藤村重行が見えた。

「アラームを鳴らしたのは、この子、娘さんだよ」

まだ幼い女の子の横で、その子の背中を撫でていた増村久貴が伝える。

「警察にも連絡したから、安心して」

一番近くにいた村越祐樹は、少し苦笑して言った。

「あ、ありがとう」

明日香はそう言うしかなかった。

――完璧。

匡爾は少し焦った。



警備本部。

「今日は大変だったね?」

「え?」

すれ違いざまに亜崎あかりが話しかけて来た。桜田門第3班は今、現場から帰って来たところだった。

「18時30分の緊急出動、第2の事件だったんでしょう?」

「第2?」

 野崎日向の言葉に、明日香はきょとんと聞き返す。

「知らないの? 空手少年が襲われた事件と同一犯の可能性があるって」

「本当ですか!?」

 明日香は驚いた。

「えぇ、そうよ。桜田門第5班のみんなに聞いてみたら? まだ、本部にいるんじゃないかな」

 柏崎陽景は微笑んでくれた。

「ありがとうございます。匡爾、行こう」

明日香はお礼を言うと、匡爾の右手を掴み、会議室へと走り出した。



第5会議室。桜田門第5班の4人は、報告書をまとめていた。

「失礼します」

明日香と匡爾はドアをノックした後、ドアを開けて室内へと入った。

「ん? どうしましたか?」

 リーダーの村山慶一が二人に気付き、話しかけて来た。

「今日の事件のことで聞きたいことがありまして」

明日香は恐る恐る尋ねた。

「いいよ。一緒に来る? 警備本部の会議」

 藤村重行がそう提案した。

「いいのですか?」

 明日香は目を輝かせる。

「いいんじゃないかな、今日の事件にも関わっているし」

 増村久貴は片目を閉じる。

「行こう」

 村越祐樹はそう言うと、ドアを開けて先頭を歩いた。明日香と匡爾は4人のあとをついて行った。



警備本部会議室。

「お待ちしておりました」

ドアを開けて、中へ入ると、警備本部担当の人工知能、五十里エル(いかり える)が話しかけて来た。すると、彼女は顔認証システムで非公式警備屋たちの顔を認識する。それにより、パスカードなどでの認証は皆無だ。

「桜田門第5班と桜田門第1班の皆さんですね。席は自由です。どうぞ」

立体映像が動線から退き、道を開けてくれた。

――ここが警備本部の会議室、すごい。

 明日香は周りを目を輝かせて見ていた。


「それでは、会議を始めます」

備前敬吾が会議の開始を宣言した。すると。

「しかし、部外者が2名いますよ。エル」

「はい」

五十里エルの立体映像が備前敬吾の方へ向く。

――やばっ、私たちだ。

明日香は少し姿勢を低くする。しかし、意味がない。

「桜田門第1班のお二人でしょうか?」

五十里エルにも気付かれていた。

「何だ、君の故意か。まぁ、いいでしょう」

備前敬吾は明日香たちの方へ目線を移す。

「二人ともそこにいなさい。会議の内容は他言しないようにという約束は絶対ですが」

「分かりました」

明日香は返事をした。隣の匡爾も同様だ。



次の日の放課後。

「大丈夫かな?」

 明日香は匡爾に話しかける。

「大丈夫なんだろ」

「そうかな」

《明日の警備から非常勤のバイト傭員を増員する》

《しかし、時間帯は犯行の行われていた範囲の4時から7時です》

「しかし、バイト傭員を増員しても、アラームが鳴らなければ意味がないが」

 匡爾は机に肘をついた。

「確かに」

 明日香は小説を開けずにいた。


1時間後。

「店長、コーヒーひとつ」

「はい」

店長は笑顔だった。

「……」

明日香は小説を読んでいた。

2時間後。

「店長、カプチーノひとつ」

「はい」

店長は笑顔で答える。

「……」

明日香は小説の残りを読んでいた。

3時間後。

「今日は何も起きなかったね」

 明日香は匡爾に話しかける。

「そうだな」

二人は店を出る。すると。

「あ、夕焼け」

外には真っ赤な夕焼けが見えていた。今日は夏至だった。

「もすうぐ、夏だね」

「あぁ」

匡爾は適当に相槌をうつ。

「さ、帰るぞ」

薄暗い中、二人は歩き出した。



次の日。

「匡爾、大変!!」

「一連の事件だろ」

「知ってるの!?」

 明日香は少し驚き気味だった。

「あぁ、警備本部の知り合いから聞いた」

「そっか」

「今回は、一連の事件の3番目にあたります」

「え!?」

明日香の携帯端末から警備本部で管理人工知能をしている五十里エルが立体映像で姿を現した。

「もう既に知っている通りです。今回はアラームが鳴りませんでした」

立体映像が瞬きをする。

「詳細をお教えします。被害者は20代男性。ボクシングの経験があります」

――ボクシングということは、格闘技の経験が。

「会議の結果、格闘技の経験者が狙われているということになりました。このことは、警察も気付いているようです」

「警察と連携しているのですか?」

「えぇ、第2の事件からですが」

 立体映像はもう一度、瞬きをする。

「それから、これは全、非公式警備屋に伝えているのですが、今度のアラーム時での確保を必須とするということです」

「確保必須!? 次で!?」

「はい」

――普段も確保必須だけど……。

「今回は格闘技経験者を狙っているということで、犯人も格闘技の使い手だと推察されますが。その為、確保が難しくならないために今日から緊急出動は上位6班としました」

「え!? 倍に?」

「えぇ、絶対。確保してください」

「分かりました」

匡爾も口角を上げて頷いた。



1時間後、アラームが鳴らされた。管制室からインカムを通して連絡が入る。

「桜田門第1班、緊急出動。場所は南300メートル」

「分かりました。向かいます」

明日香と匡爾は席を立ち、喫茶店を駆け足で出ていった。


――南、300メートル。急がなければ!!

 明日香は全速力で走る。匡爾もだ。

「明日香、最短距離はこっちだ!!」

「分かった」

二人は路地へと入っていった。細い道を右へと曲がる。そして、直進。路地を抜けると、住宅街が広がっていた。目の前には倒れ込む男性がいた。そして、すがる男性に、それを見下ろす男性もいた。

明日香は走っていく。

「動くな!!」

明日香は、声をかける。すると、見下ろしていた男性が逃走しだした。それを見て、匡爾もその男性が確保すべき犯人だと思い、追いかける。すぐ近くには、桜田門第3班が見えていた。被害者の保護は彼女たちに任せようとした。

明日香は男性を追って行く。そして、間をだんだんと縮めていった。明日香は足も速く、運動神経は良い。

明日香は男性の左腕を掴み、地面へと倒した。しかし、男性は逆に明日香の技をかわし、彼女を押さえつけた。

「っ」

明日香は痛みで表情を歪ませた。

「その手を放せ!!」

匡爾が男性の背中へと飛び蹴りをしようとする。しかし、男性は寸前でよける。そして、彼へとこぶしをいれた。匡爾は地面に倒れ込んだ。

――くそっ、逃げられる!!

すると、逃げる男性を追うかのようにあの4人組が二人の横を通り抜けた。

――桜田門第5班!!

明日香は倒れた体制からそれを確認した。

彼らは巡回型。バイト傭員より訓練は完璧だ。男性を確保できる確率は高いはずである。

彼らは、男性の後を追いかける。だんだんと距離を縮め、攻撃の出来る範囲まで近づいた。すると、村山慶一は相手に回し蹴りを入れる。

しかし、よけられる。それに気付いた藤村重行は拳を入れる。だが、男性は倒れない。増村久貴は彼の左腕をつかむと、背負い投げで地面へと倒した。それに村越祐樹も加わり、押さえつけた。

男性は少し抵抗はしたが、ついに確保された。


「放せ」

 犯人らしき男性が抵抗する。しかし、増村久貴は手を緩めなかった。もう既に4人の目の前には警察が来ていたからだ。

「ご協力ありがとう。あとはこちらで話を」

 茂取壮一は彼らに礼を言う。そして、男性を警察署へと連行していった。

「一件落着か?」

明日香と匡爾の二人は少し遠めからそれを見ていた。そして、警察の車両を見送った。


二人は桜田門第3班のいる現場へ戻った。すると。

「あ、明日香。お疲れ様」

 亜崎あかりが話しかけて来た。

「被害者の方々は、救急車で搬送済みだから安心して」

「ありがとうございます」

 明日香は少し微笑んでお礼を言った。

「白永君も、お疲れ様」

「お疲れ様です」

匡爾は軽く会釈した。

「さ、警備本部へ戻ろう」

 亜崎ゆかりは小さくガッツポーズをした。すると。

「はい」

明日香は笑顔を見せた。


その後、警察の発表で犯人は取り押さえた男性だと判明した。しかし、どんなに取り調べをしても動機は話さなかったらしい。それにより、動機は不明のまま、送検された。



「どうして、動機を話したがらないんだろう」

いつもの喫茶店。明日香は匡爾へ話しかけた。

「知るか、そんなこと」

「冷たいなぁ」

「誰にでも知られたくないことぐらい、あるってことじゃないのか?」

 匡爾はコーヒーを飲む。

「それもそうか」

「黙秘ぐらい、珍しくもないし」

「そうだね」

 明日香は頬杖をつく。そして。

「知られたくないことってある?」

 匡爾の方を見て言った。

「あるよ」

「え!? ほんとに!? 知りたーい」

 明日香は身を乗り出した。

「誰が言うか、小説読んでろよ。いつもみたいに」

彼は携帯端末を取り出す。そして、ある画面を開いた。そこには明日香の横顔が。彼は彼女が隣で小説を読んでいるときの画像を密かに撮影していた。

――君の小説を真剣に読む横顔が美しいということは絶対に秘密だ。

匡爾は画面をインターネット画面へと移して、いつものようにインターネットサーフィンを始めた。



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