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非公式警備屋  作者: 津辻真咲
3/10

専属型非公式警備屋


専属型非公式警備屋。彼らは、民間のボディーガードだ。一人の対象者に二人から数人一組になって護衛するシステムである。


「おはよ、明日香」

「おはよー」

明日香は親友、川上ともえ(かわかみ ともえ)に笑顔で挨拶を返す。一方、隣の匡爾は。

「よっ」

手を軽く上げ、挨拶をした。

「今日、中間テストの成績発表だよ」

 川上ともえは笑顔でピースサインをした。

「あ、そうだった」

 明日香は表情を明るくした。

「俺の勝ちかな」

 匡爾は横目で明日香を見た。

「前回は私の勝ち」

 明日香は頬を膨らます。

「数学だけな」

 匡爾はにやりと笑う。

「うるさーい」

 明日香はそれに怒った。

「そうじゃれるな、こっちが恥ずかしい」

「う……、ごめん」

 明日香は川上ともえの言葉に固まった。

「1位は彼女でしょ、谷崎由香利たにざき ゆかりさん」

「そうかも」

「財閥の孫娘だからな」

「あ、噂をすれば」

明日香がそちらを見る。すると、彼女の周りには非公式警備屋の専属型が二人ついていた。

「わぁー、花形だぁー」

明日香は目を輝かせる。バイト傭員の明日香にとって、専属型は憧れだ。

「ん?」

「何だ、あれ」

二人は校門の向こう側からやって来る数人の男性に気付いた。

「まさか」

「行くぞ!!」

二人は走り出し、谷崎由香利のところへ向かう。すると、その数人の男性たちが彼女へと襲い掛かって来た。

――やはり!!

彼女の周りの専属型の二人は彼女を守ろうと応戦する。次々と男性たちを倒していく。しかし、相手は数人、分が悪かった。すると、明日香は敵の一人を回し蹴りで倒した。

匡爾も一人倒す。それにより、対応する数が減った。残りは、3人。専属型の二人は、それぞれ片づけた。すると、最後の一人が逃げ出そうとしたが、明日香が仕留めた。


「ありがとう」

「え?」

 敵を倒した後、明日香の後方から声が聞こえた。明日香はそれに振り返った。すると、谷崎由香利が二人にお礼を言っていた。

「助けてくれたのでしょう?」

「えっと、そうだけど……大丈夫だった?」

明日香は慎重に尋ねた。

「えぇ。あなたたちのお名前は?」

 谷崎由香利は聞き返した。

「私は白石明日香」

「俺は白永匡爾だ」

 二人はそれぞれ答えた。すると。

「もしかして、非公式警備屋の方?」

 谷崎由香利が尋ねて来た。

「はい。そうです」

「やはりそうですよね。とてもお強いので」

「ありがとう」

明日香は笑顔を向けた。

「そうだ。私の専属型の方々をご紹介するわ」

明日香は両脇の二人を見た。

「こちらは雨森碧あまみや あおい。そして、こちらが城森玲じょうもり れい。二人とも高校時代から非公式警備屋の経験があるの」

「そうなんですか!?」

明日香は目を輝かせる。匡爾は明日香のそれを横目に呆れた。彼女の専属型への憧れは強い。

「私たち雨森と城森はもともと非常勤のバイト傭員で同じチームでした」

 右側の雨森碧が淡々と答えた。

「本当に!?」

明日香はもっと瞳を輝かせる。自分と同じ出身だったのが嬉しかったのだ。

「大学でも同じチームで非公式警備屋をしていました。そして、そのまま、正社員へとなりました」

 左側の城森玲は笑顔で答えた。明日香のリアクションに胸を温かくしたのだった。

「すごーい」

明日香の笑顔は尊敬のまなざしへと変化する。すると、チャイムが鳴った。

「ごめんなさい。そろそろ教室へ行かないと。それでは、ごきげんよう」

谷崎由香利は笑顔でそう言うと、専属型と共にその場を立ち去って行った。

「あれ? 警察は?」

 明日香は我に返り、冷静に現場を見回した。

「見ろ、校門前の運転手が電話をしている」

「あぁ、なるほど」

明日香は彼の視線の先を見て、納得した。



放課後。二人はいつもの喫茶店で非常勤として待機をしていた。すると、携帯端末が鳴った。

二人は携帯端末を取り出し、送られてきたメールの画面を開いた。

それは警備本部からだった。どうやら、大事な伝達事項があるので警備本部へ来てほしいというものだった。

「行く?」

 明日香は首をかしげる。

「当たり前だろ」

 匡爾はぴしゃりと言い、横目で呆れた。

「お、おう」

明日香は匡爾のあとを追いながら店を出て行った。



警備本部。

「明日香さん、匡爾さん。よく来てくれました。ありがとう」

「はい」

 警備本部の最高責任者の備前敬吾びぜん けいごの言葉に明日香は返事をした。

「では、さっそく本題ですが。谷崎財閥のご令嬢、谷崎由香利さんのことはご存じですか?」

 備前敬吾は優しく尋ねる。

「はい。同じ学園です」

「えぇ、そうですよね? それで」

「?」

明日香は首をかしげる。

「今朝の事件で財閥の会長が直々に、あなたたちに専属型と共に孫娘を守ってほしいとのご依頼を受けました。よろしいですか?」

「専属型と共に?」

「ということは、花形!?」

明日香は匡爾の顔を見る。

「これはまた、お元気なことで。もちろん、花形ですよ」

 備前敬吾は微笑んだ。

「はい、がんばります!!」

明日香は胸を躍らせた。

「では、今からすぐ警護してもらいます。この住所へ行ってください。財閥の会長と由香利さんがいます」

「はい」

明日香はそのメモ書きを受け取った。



谷崎財閥会長屋敷前。二人はあまりの大きさに目を見開いて立ち尽くしていた。

「ここに入るの?」

「当たり前だ。行くぞ」

「う、うん」

二人はチャイムを鳴らした。女性の声が聞こえた。それに答えると、目の前の巨大な門が開いた。どうやら、中へ入ってもいいらしい。


二人は中庭を進む。左右対称の特徴的な庭だった。右側の庭では庭師が作業をしている様子がうかがえた。

「きれいな円」

 明日香がぽつりと呟く。

「腕のいい庭師なんだろ?」

「そうかも」

玄関へたどり着く。すると、女性のメイドが出迎えてくれた。

――本物のメイド。秋葉原とは全然違う。

「お前、メイド喫茶を考えただろ?」

匡爾は冷たい目線を明日香へ向けた。

「う……、少し」

「やっぱり」

「悪かったな」

明日香は小声で文句を言った。

屋敷の中は、現代的なつくりになっていた。空間を広く見せる工夫がいくつも見られた。そのおかげで、広い屋敷が何倍にも広く思えた。

――広い屋敷だなぁー。

廊下を進む。そして、とある扉の前まで来た。メイドがノックをした。中から声がすると扉が開いた。執事らしき男性が扉を開けたのだった。

――バトラーかな?

二人は部屋に通された。すると、目の前には財閥の会長と孫娘の谷崎由香利の姿があった。

――あの人が会長。

そして、すぐ近くには朝、出会った専属型の非公式警備屋の姿があった。明日香はその二人にも頭を下げた。

「ご丁寧にありがとう」

会長である谷崎信三郎たにざき しんざぶろうは二人に微笑んだ。自分だけではなく、専属型のボディーガードにまで挨拶をしてくれたことが嬉しかったのだ。

「では、単刀直入に話そう」

会長は、髪色と同じ、灰色で白髪交じりのひげを触る。

「君たち二人には私の孫娘の由香利の警護をしてもらいたい」

「はい」

「今朝のご活躍、由香利から聞いていてね。ちょうど同じ学園内だし、建物内や人間関係などには詳しいと思ってね。君たちの方が警護しやすいだろう」

「……いけないかしら?」

孫娘の谷崎由香利が尋ねた。

「いいえ、大丈夫です」

明日香は笑顔で答えた。

「ありがとう。白石さん」

谷崎由香利は微笑んだ。

「では、早速、今からお願いしようかな? これから、孫はクラシックバレエの練習に行かなければいけないのだよ。大丈夫かな?」

「分かりました。お任せください!!」

明日香は頼もしく答えた。専属型という花形の役割に心を躍らせていた。



10分後。明日香と匡爾は、谷崎由香利と共に車内にいた。彼女の車移動の警備に就いていたのだった。車の運転は雨森碧、助手席には城森玲、そして、後部座席に谷崎由香利と明日香、匡爾の姿があった。

「白石さんと話すのって、初めてね?」

「えっ、……あ、はい」

明日香は少し戸惑った。

――緊張しているのか? こいつ。

匡爾は呆れた。

「白石さんは、どうして非公式警備屋に?」

「あ、それはバイトです」

「バイト?」

「はい。何か得意なことでバイトが出来ればなーって思って」

「格闘技がお得意なんですか?」

「はい。空手を5歳から習っているので」

明日香は笑顔になった。

「白永さんもですか?」

「俺は剣道ですけど、一応、格闘技も出来ます」

 匡爾は淡々と答えた。

すると、次の瞬間、車内の3人は前に傾いた。

――え?

車両が急停止したのだ。

「何かあったの?」

 谷崎由香利は雨森碧に尋ねた。

「すみません。どうやら渋滞のようです」

「この道で渋滞するなんて、事故かしら?」


30分後。

「どうしましょう、まだかしら?」

「本当に交通事故のようですね」

 明日香は座席の隙間から前を覗きながら言った。

「仕方がないわ。歩いていきましょう」

「え!? でも、危険なんじゃ……」

 明日香は戸惑った。

「大丈夫よ。ついて来て?」

「え!? あ、由香利さん!!」

明日香と匡爾は走って追いかけた。すると。

「痛っ!!」

谷崎由香利は誰かにぶつかり、地面へとしりもちをついた。

「あ、すみません。どちら様?」

彼女が顔を上げ、相手を見ようとした。次の瞬間。明日香はその相手へ飛び蹴りをした。

「由香利さん、逃げて!!」

「早く!!」

匡爾も応戦する。

すぐ後ろからは、専属型の二人が谷崎由香利を保護しに来ていた。

「大丈夫ですか? 由香利さん」

「さぁ、行きましょう」

その二人は彼女を現場から放し、車両へと乗車させた。

パリンッと刃物の割れる音がした。明日香が相手の持っていたナイフをけり割ったのだ。匡爾も数人いた相手を二人にまで減らしていた。

雨森碧は車両のドアの前に立ち、谷崎由香利を保護していた。一方、城森玲はこちらへ走ってきて、制圧に加わった。

パリンッ、もう一度、刃物が折れる。

「脳天蹴散らしてやる!!」

明日香は犯人へ回し蹴りをする。ドサッと犯人は地面へ倒れ、4人はその場を制圧した。

「ひと段落かな」

明日香は息を整えた。


二人の携帯端末が鳴った。警備本部からだった。

「今日、わざわざ本部へ来てくれてありがとう。単刀直入に話します。一連の事件には、とある工場の作業員たちが関わっているようです」

――作業員?

「警察と連携をしたのですか?」

明日香はきょとんと聞いた。すると。

「えぇ。第1の事件、校門の前での事件の時に警察へ連絡を入れましたので」

「そうでしたか」

「話を戻しますが、どうやら、今回、会長が切り捨てた下請けの工場があるらしく」

「それで、恨みを買ったと?」

 匡爾は聞き返す。

「そういうことだ」

――恨み。

明日香は黙って考えを巡らせた。

「今後も、警護を強化するように」

「はい」

「それから、谷崎由香利さんの警護をするのはあなたたちお二人と城森玲さんの3人になりましたので、気を引き締めるように」

「え!? なぜ雨森碧さんが!?」

雨森碧が警護担当から外されたことに明日香は驚いた。

「彼女の兄がその工場で働いていたんだ。だから、関係者として、担当を外させてもらいました」

 備前敬吾は淡々と話した。

――そうだったんだ。

二人は通話をきると、谷崎由香利の警護へと向かった。



「由香利さん、お待たせしました」

明日香と匡爾は、谷崎由香利の乗車している自家用車へと向かう。すると、彼女が中から出て来た。

「今度はバイオリンなの。ついて来て下さる?」

「もちろんです」

明日香は笑顔で答えた。

5分後。駅前に着いた。彼女は毎週、駅前まで歩いて通っているらしい。

すると、数人の人物が彼女たちを取り囲んだ。数人のうち、半数は刃物を持っていた。明日香はそれを見るや否や、犯人へと向かって行く。匡爾も同様だ。

一方、城森玲は彼女の盾のようになり、彼女をその場から引き離そうと誘導していた。

パリンッと刃物が折れる、そして、破片が道路を滑っていく。ドゴッと蹴りが入る。匡爾は何人か、倒していた。

車両のブレーキ音が辺りに響き渡った。犯人の一人が道路を無理に渡って逃げて行くのが見えた。しかし、それを阻止した人物がいた。

――雨森碧!?

――なぜ?

「私も加わります!!」

雨森碧は犯人たちを次々と倒していった。パリンッと刃物も折れる。


すると、緊急出動上位3組もやって来た。上位1位、桜田門第4班。2位、桜田門第3班。3位、桜田門第5班だった。非公式警備屋たちは、犯人たちを取り囲んだ。犯人に逃げ場はない。

「刃物を捨てなさい!!」

亜崎あかりが叫ぶ。

「うるせー!!」

犯人たちはそれぞれ、違う方向へ逃げようとした。しかし、明日香がわき腹を、亜崎あかりがみぞおちへと蹴りを入れた。犯人たちは倒れ、その場の犯人数人は制圧された。

明日香は振り返る。谷崎由香利が避難していった方向へ。そして、安堵の表情を浮かべ、立ち尽くした。遠くからは警察のサイレンが聞こえた。



一連の事件は、谷崎財閥に契約を打ち切られた事により倒産した下請け工場の作業員たちによる犯行だった。動機は復讐らしい。それにより、会長の孫娘、谷崎由香利に怪我をさせようとしていたのだ。

 一方、担当を外された雨森碧だったが、もしかしたら兄が事件に関わる可能性があると思い、現場へ向かったとのことだった。

だが、彼女の兄はこの復讐には参加していなかった。それにより、雨森碧は谷崎由香利の警護を続けられるようになったのだ。


警察本部。

「今日で谷崎由香利さんの警護は最後です」

「え!? 何でですか!?」

明日香は花形のボディーガードから外されて不服の様だった。

一方、匡爾は重い荷が下りて安堵していた。ボディーガードは一秒たりとも気の抜けない、大変な仕事だ。待機するのも仕事である非常勤とは違う。

「一連の事件が解決したので、警備を通常時に戻したいとのことです」

「そうですよね」

明日香は残念そうだった。

「今日が終われば、今までと同様の非常勤に戻ってもらいます」

「はい」

明日香はしゅんとしていた。花形の仕事は今日で終了となった。



放課後。

「今日までありがとう。白石さん、白永くん」

「いいえ、そんな」

「仕事ですから」

明日香は笑顔を作った。本当はもっとボディーガードの仕事をしてみたかったのだった。

「もうここまででいいわ。本当にありがとう」

彼女はそう言うと、自家用車へと乗り込んだ。その後、窓が開いた。

「それでは、お二人ともごきげんよう」

彼女は手を振る。車両が発進した。すると、明日香は少し大きめに手を振った。遠くまで走り去っていく車両にまで見えるように。


「終わったね」

「えぇ、終わったわ」

 二人は佇んでいた。

「あー、せっかくの専属型のお仕事だったのにな」

 明日香は伸びをしながら呟いた。

「落ち込んでいるようだね」

「だって、花形」

「警備会社に就職してからでも遅くはないよ、専属型は」

「まぁ、それもそうかも」

もうすぐ日の入り。一日も終わろうとしていた。




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