連続誘拐事件
「今から、連続誘拐事件の捜査会議を始めます」
「はい」
本部長、本元慶史の言葉に担当刑事たちはそれぞれ返事をした。すると、警視庁の刑事部担当の人工知能、トモヒトが事件の説明を始めた。
「被害者は今回で3名」
「最初の被害者は、広瀬星中学3年生。2人目は池上智子大学4年生。そして、3人目は板垣愛実高校1年生の3名です」
「それから、3名の父親は全員、現役の外交官です」
刑事たちが少しざわついた。
「この情報が鍵になる可能性があります。捜査は慎重にお願いします。その次に……」
トモヒトは会議を続けた。
放課後。明日香と匡爾はいつもの喫茶店で待機していた。非公式警備屋に待機室などない。街中に散らばり、それぞれ別々の場所で待機している。どこで事件が起こってもすぐに駆けつけられるようにだ。
「……」
明日香はいつも通り小説に集中していた。匡爾は携帯端末。それぞれ非公式警備屋のバイト傭員だ。
非公式警備屋への就職にも資格がいる。格闘技の段を持っていなくてはいけないのだ。明日香は空手5段。匡爾は剣道4段だ。
テレビからは報道番組が流れていた。いつもと同じ、政治と経済の討論をしていた。そんな中、管制室から連絡があった。
「桜田門第1班、緊急出動」
「はい」
明日香は席から立ち上がる。
「南600メートルです」
「行こう」
二人は走り出した。
「残り20メートル」
「はい」
明日香は角を曲がる。しかし、そこには誰もいなかった。
「残り0メートル。対象へ到着。確認をして下さい」
管制室からの情報が淡々とインカムから入って来ていた。
「明日香、地面」
明日香は地面へ視線をやる。すると、そこには対象者の携帯端末が落ちていた。彼女はそれを拾う。
「対象者を保護できませんでした」
明日香はインカムでそう伝えた。
次の日の放課後。明日香と匡爾は、桜田門第3班と共に警視庁にいた。
「今から、捜査会議を始めます」
「はい」
本部長、本元慶史の声に刑事たちはそれぞれ返事をした。
「これからどうなるんだろう?」
「さぁ」
「でも警察の捜査に加われるなんて、初めて」
隣の桜田門第3班の3人は、少し楽しそうに小声で話していた。彼女たちは3人1組の女性だけの班である。
左から順に亜崎あかり(あざき あかり)、野崎日向、柏崎陽景である。
亜崎あかりは黒髪のポニーテール。野崎日向は真ん中わけのボブ。そして、柏崎陽景は長い黒髪のストレートであった。
彼女たちは、昨日の出動時の上位2位での到着だった班だ。それにより、上位1位の明日香たちと上位3位だった桜田門第4班と共に捜査会議に呼ばれたのだった。
「今回の被害者は上松裕子、高校3年生。こちらも前回までの誘拐と同様、父親が現役の外交官です」
――外交官?
トモヒトの説明に明日香は首をかしげる。
「今回の連続誘拐事件の共通点は、父親が全員現役の外交官であることになっているわね」
「そうみたい」
桜田門第3班の3人はそれぞれ、小声で話し合っている。その逆隣りの匡爾は、高校の予習を密かにしていた。
――なぜ、今?
明日香は匡爾の行動に疑問を隠せないでいた。
「お前、バイトもいいけど、大学進学のことも考えとけよ」
匡爾は横目で明日香に言う。
「う、うるさいな……。考えているよ」
明日香は動揺を隠せないで答えた。
「捜査会議を終了する。散会」
本部長の本元慶史が捜査会議の終了を知らせた。すると、傍にいた本部担当の人工知能、トモヒトが立体映像を収納していった。彼はずっと、捜査会議中、刑事たちへの情報提供をしていた。彼は、警視庁の建物内に設置されている巨大なサーバが住処だ。建物と一体化しているのだ。これは、どの会社の建物と同じだ。いろんな企業も建物に一台、スーパーコンピュータを持ち、高度な人工知能を在中させている。
「俺らも行くぞ」
桜田門第4班の加嶋和樹は立ち上がり、メンバーに言った。
「あぁ、そうだな」
「とっとと、行こうぜ」
「……」
田嶋淳は相変わらず、無口だった。
「俺らは、一旦警備本部へ戻ってから、通常勤務につく。捜査会議の内容も直接、話し合いたいし」
加嶋和樹が明日香に伝える。
「うん、分かった。よろしく」
「あぁ、じゃあな」
桜田門第4班は去って行った。
「合同捜査といっても私たちは通常勤務だからなー……」
桜田門第3班の亜崎あかりがのびをしながら、呟く。
「そうね」
「確かに」
柏崎陽景は笑顔で亜崎あかりの方を見ていた。
「行きましょ?」
「レッツゴー……」
桜田門第3班の3人組は去っていった。
「私たちも通常勤務に戻ろうか……?」
明日香は隣の匡爾に尋ねた。すると、匡爾もぽつりと言う。
「そうだな」
二人、桜田門第1班も警視庁から街へと戻っていった。
いつもの待機場所の喫茶店。二人はそこにいた。
「第5の事件も起きてしまうのかな?」
明日香は机に伏せて、ぽつりと呟いた。
「さぁな」
すると、匡爾がコーヒーを飲みながら、答える。
「え?」
「声に出てたぞ」
「えー……」
明日香は独り言を言ってしまっていた自分に少しショックだった。
「お前、最近おかしいな?」
匡爾はコーヒーの入ったカップを置く。そして、にやりと笑う。
「う、うるさい!!」
「はいはい、分かったよ」
「桜田門第1班、緊急出動」
「え!?」
明日香は、いきなりの管制室からの命令に驚いた。一方、匡爾の方は冷静に淡々と答えた。
「はい。どこですか?」
「北900メートルです」
「了解」
「きっと、上位3位だな」
匡爾は明日香に伝える。
「えぇ」
二人は走っていった。
「残り80メートル」
インカムを通じて管制室から残りの距離が告げられた。
「いた!! 大通りにいる!!」
明日香は指を指す。
「対象者、確認」
匡爾はインカムで知らせる。
「警備員さん!!」
対象者の女子は叫ぶ。
「はい、大丈夫でしたか?」
明日香は冷静に対応した。
「私じゃないんです。私、女性が連れ去られたところを目撃して……。それで……」
対象者の女子は言葉に詰まった。
「アラームを鳴らしてくれたのですね? ありがとうございます」
明日香は丁寧に対応した。
「明日香、管制室から警察へ通報してもらおう」
「うん、そうだね」
すると。
「警備員さん、あの車!!」
「え?」
「あの車、ナンバーが同じ!! きっと中に女性が」
女子は指を指して叫んだ。
「分かった」
「明日香、行くぞ」
「えぇ」
二人は、その車両目指し、走り出した。
――くそっ!! やはり足じゃ無理か!!
匡爾は焦った。高速で走る車両から引き離されていく。しかし。
「赤信号だ!! 突入するぞ!!」
「うん」
車両は、犯罪を犯していることを隠すかのように、信号を守り、一般車両にまぎれていた。
匡爾は車両の前に立ちはだかる。そして、首から下げている非公式警備屋の身分証明書をかざし見せる。車両は発車しなかった。その隙に明日香が後部座席のドアを開けた。中には女性が拘束されて乗せられていた。
すると、同乗者の男性が明日香に襲い掛かる。明日香は交わし、腹部へ一発空手の足蹴りをくらわせた。男性はよろめく。しかし、同乗者は3人いた。
匡爾も加わるが、二人は不利になり、攻撃する隙を失っていた。そのうちに運転手の男性が運転席から声をかけて来た。
「早く乗れ!! 人質はいらない!! 置いてけ!!」
すると、男性3人は、女性をけり落とすと車両に乗り込み、去って行った。遠くからサイレンが聞こえて来た。どうやら警察がやって来たようだった。
「ちょっと、何やってるんですか!!」
「あ、もとりひょん」
明日香は笑顔で手を振る。
「そのあだ名やめろ!!」
警視庁捜査一課の刑事、茂取壮一は叫んだ。
「どうしたんだ?」
匡爾は尋ねた。
「よくも囮捜査の邪魔を!!」
「え!?」
「囮捜査?」
二人は驚いた。まさかの囮捜査だったのだ。
「あー……せっかくの作戦が……」
刑事の茂取壮一は肩を落とした。
「落ち込むな」
匡爾が励まそうとするが。
「こっちは捜査本部たってんだよ!!」
茂取壮一は叫ぶ。が、しかし。
「こっちは非公式警備屋の仕事よ」
明日香も叫ぶ。すると。
「う」
茂取壮一は黙ってしまった。
「ちなみに、私が囮よ」
「え?」
明日香は声のする方へ振り向いた。そこには先ほどの拘束されていた女性が立っていた。拘束を仲間に解いてもらったようだ。
「私の父は現役の外交官。だから、囮になったの。囮になり誘拐されることで、被害者の女性たちの居場所を特定しようとしていたの」
「すみませんでした」
明日香は深々と頭を下げた。それを見ていた匡爾も頭を下げる。
「まぁ、いい。非公式警備屋に作戦を伝えていなかった警察も悪いだろう」
茂取壮一はため息をついた。
「そうなの?」
明日香が顔を上げる。
「なんでかやのそとなんだ?」
匡爾が尋ねる。
「えー……っと、上層部からの命令でな。すまんが」
「上層部ねぇー……」
「仕方ないか」
二人は諦めた。
その状況を桜田門第3班と桜田門第4班のメンバーはじっと見ていた。彼らは上位1位と2位であった。
次の日の放課後、二人はいつものように喫茶店にいた。
「……」
明日香は、小説などにはまったく集中できず、顔を机に伏せていた。
「大丈夫か?」
匡爾は明日香に尋ねた。すると。
「大丈夫……」
明日香は答えた。しかし。
「……じゃねぇよな?」
匡爾に見抜かれていた。
「うん」
「そうか」
「大丈夫?」
後方から、匡爾ではない声が聞こえて来た。
「え!?」
明日香は顔を上げる。すると、そこには亜崎あかりがいた。
「桜田門第3班です」
3人はそれぞれポーズをとった。
「どうしてここへ?」
匡爾は尋ねる。
「明日香っちが気になって」
柏崎陽景はウィンクをする。
「私?」
「落ち込んでいるんじゃないかなって思って」
亜崎あかりも片目を閉じる。
「ありがとうございます」
明日香は自身を心配してくれた3人にお礼を言った。
「今日は女性同士、お茶しない?」
野崎日向が明日香を誘った。すると、匡爾が会話に入って来た。
「勤務中」
「あら、今じゃないわよ? 勤務後、いい?」
野崎日向は明日香に視線をやる。
「はい」
明日香は笑顔で答えた。
「そんな時間、ねぇーんじゃねぇの?」
「え?」
亜崎あかりたちと明日香は振り返る。すると、そこには、桜田門4班のメンバー4人がいた。
「何で?」
亜崎あかりは加嶋和樹に尋ねた。すると。
「巡回してたんだよ」
「俺らは、巡回型だからな」
彼と中嶋英一が答えた。
非公式警備屋には、非常勤のバイト傭員、正社員の巡回型、専属型、そして兼業の管理人工知能型がいる。
非常勤のバイト傭員は、学生などの若年層が多い。次に正社員の巡回型は街を巡回して、犯罪がどこで起きてもすぐに駆け付けられるようにしている。そして、専属型はいわゆるボディーガードである。最後に管理人工知能型とは、管制室の情報処理をしながら、いざとなれば現場へも出ていける特殊傭員である。
非公式警備屋は、警察の警備部とは違い、民間の会社である。それにより、営利団体である。よって、保護対象は防犯システムに加入していただいた防犯アラームシステムを携帯端末にダウンロードしてもらっているお客様のみである。そのお客様の防犯アラームが反応することで、非公式警備屋は現場へ急行できるのだ。
「知っているかもしれないけど、今回の事件で警備本部は体制を強化するらしい」
上嶋竜也は笑顔で言う。
「あ、知ってる」
桜田門第3班の3人は知っているようだった。しかし。
「そうなんですか?」
明日香たちは知らなかった。
「特に、バイト傭員が強化されるらしい」
上嶋竜也は人差し指を立てて、笑顔で言う。
「え!?」
「バイトが?」
二人は驚いた。
「シフトが増えるみたい」
「へぇー……」
明日香はショックを受けているみたいだった。
――空手の大会、近いのに……。
「じゃ、俺らは別の場所に行くから、ここじゃ重なる」
上嶋竜也は笑顔を崩さない。
「うん、分かったー」
「私たちも移動しないと」
「そうだね」
桜田門第3班の3人も喫茶店を出て行った。
――後でシフト表確認しておこう。
この日の出動はなく、平和であった。
次の週末。
「あー、空手の練習が」
「何だ? もうすぐ大会か?」
頭をかかえる明日香を横目に匡爾はコーヒーを飲んでいた。
「そーなんだよ」
明日香は机に顔を伏せた。
「お前も大変だな」
匡爾は携帯端末の画面から視線を逸らさない。
すると。
「桜田門第1班、緊急出動」
「はい」
明日香は顔を上げて返事をした。
「西300メートルです」
「了解」
二人は走り出した。
――西……。
明日香はそちらへ向かう。
「残り50メートル」
管制室から残りの距離。すると。
「助けて!! 誰か!!」
悲鳴が聞こえた。
「悲鳴を確認」
匡爾が明日香を追い抜き、前に出る。
「右へ」
匡爾は管制室の指示に従い、角を右へ曲がる。すると、そこには車両へ引きずり込まれようとしている男子小学生の姿があった。
「やめろ!!」
匡爾は犯人の一人に回し蹴りをする。その犯人はよろめき倒れる。すると、そこへ明日香が追いついてきた。彼女は男子を保護する。
「対象者、保護」
明日香は管制室へ報告をする。
「了解」
インカムからその言葉が聞こえた。すると、明日香は。
「それから、白永警備員が犯人3名と格闘中。警察に!!」
そう伝えた。
「了解」
再びインカムからその言葉が聞こえた。
――どうか、警察早く!!
すると、背後から気配がした。その気配の人物たちは明日香が振り向くより早く、犯人たちに飛び蹴りをくらわせた。
――桜田門第4班!!
彼らが上位2位だったのだ。
「俺らが相手だ」
中嶋英一がもう一度、飛び蹴りをくらわす。
「逃げるぞ!!」
犯人の一人がそう叫んだ。
「そうはさせないわ!!」
その声と同時に車両の運転手を務めていた犯人が運転席から引きずり降ろされていた。桜田門第3班だった。
「くっ」
犯人は痛みで表情を歪ませた。2組はあっという間に、犯人たちを制圧した。
「管制室、任務完了」
「了解」
すると、遠くからサイレンの音が聞こえて来た。
どうやら今回の犯人たちは、主犯以外、金で雇われた共犯者たちだった。主犯の犯人は、過去に外交官をしていたが、3年前に外務省を退庁していた。
動機を聞くかぎり、逆恨みのようだった。そして、その後の取り調べにより、誘拐された女性たちの居場所が特定され、皆、保護された。
事件は無事に解決した。
放課後、明日香はいつもの喫茶店にいた。彼女は落ち込んでいた。
「大丈夫か?」
匡爾が尋ねる。
「全然、大丈夫じゃない。シフト多かったからバイト代は多いけど、試合に負けた」
明日香は下を向いたままだった。
「大変だな」
匡爾はもう既に剣道部を引退していた。
「匡爾には分からないー……」
「はいはい」
匡爾は自身の隣で頬を膨らます明日香を少し微笑んで見ていた。




