緊急警戒体制
「ねぇ、匡爾」
明日香と匡爾はいつもの喫茶店でテレビ中継を見ていた。今日は、昼からオリンピックの凱旋パレードだ。なので、昼からの情報番組は全てそれの現場中継だった。
「巡回型の非公式警備屋はほとんどが、警備に駆り出されてるって知ってる?」
明日香は隣の匡爾に話しかける。
「あぁ、もちろん知ってるよ。本部で確認したからな」
「そっか」
巡回型はこの凱旋パレードの警備に駆り出されたが、専属型と非常勤は通常勤務だった。
――現場中継まだかなぁ。
明日香は胸を躍らせていた。すると、インカムの共通無線から情報が入って来た。
「緊急連絡。桜田門警備区にテロリストが逃げ込んだとの情報あり。巡回型は気を引き締めるように」
「匡爾、今のって……」
「あぁ、緊急警戒体制なんじゃないかな」
彼は腕組みをしていた。
「よし、行こう」
明日香は立ち上がる。街中へ行く気満々だった。しかし。
「ちょっと待て。まだここにいろ。緊急出動がかかってからにしろ。ここにいれば、緊急出動の時に助かる人物もいるかもしれないだろ?」
匡爾が説得した。
「そ、それは、そうかも」
明日香は椅子に座り込んだ。
「本当に緊急をようするものだったら、緊急出動がかかるだろ? 大丈夫だよ」
匡爾は口角を上げて見せた。
「それもそうだね」
明日香は苦笑した。すると、またインカムから情報が入って来た。
「巡回型緊急出動。テロリストの位置を確認しました。至急現場へ向かって下さい」
――緊急出動!? もう見つかったの?
「管理人工知能型だな」
「そうね」
明日香もそう推測した。
「桜田門第2班、緊急出動」
「おじいちゃん!?」
明日香は驚いた。自身の祖父が所属する班が緊急出動したからだ。
「桜田門第4班、緊急出動」
――なんと。
しかし。
「テロリスト、見失いました」
――え!?
「まさかの事態だな」
匡爾はコーヒーを手に他人事のように言っていた。
「全巡回型へ報告します。警備本部より航空班を派遣します」
「航空班!?」
「驚くことないだろ。通常の判断だ」
匡爾はまた他人事。
「むー」
明日香は頬を膨らます。
「航空班と言っても、遠隔操作されたドローンだろ?」
「まぁ、それはそうだけど」
明日香は口をすぼめた。すると。
「あ」
「どうした?」
「見て、テレビ中継」
明日香は指を指す。
「もうドローンが飛んでいるのが映っている」
「さすが航空班、早いな。きっと、テロリストを見失った方角へ向かっているんだろう」
「そうね」
すると、次の瞬間。ドローンがバードストライクを起こした。
「大変!!」
ドローンは観客たちのいるエリアのギリギリ外へと落ちて、最悪の結果は免れた。
「大変だ。もう航空班は出動できない」
「あぁ、警視庁警備部に止められるな」
――一体、どうすれば。
「警視庁刑事部が刑事の招集を完了したそうです。確保に加わるそうです」
――良かった。刑事部が動けば安心だ。
明日香は平常心を取り戻した。
「なぁ」
「何?」
匡爾は明日香へ話しかけた。
「この事件が終わったら、質問したいことがあるんだが」
「え? 別にいいけど?」
「そうか、分かった」
――何だろう、今でもいいのに……。
明日香は少し戸惑った。
19時。事件は既に解決していた。非常勤の出番はなかったようだ。
「あー、報道番組終わっちゃった……」
「そうだな」
明日香は背伸びをした。すると、赤い夕日が目に入って来た。
「あ、外きれーな夕焼け」
「そうだな」
「ん? さっきから〈そうだな〉ばかりだよ?」
「あ、いや。何でもない」
匡爾は明日香から目線を逸らした。
「何だよー、歯切れが悪いなー」
明日香は少し頬を膨らました。
「まぁ、いい。帰るぞ」
「え、あ、ちょっと待ってよー」
明日香は慌てて匡爾のあとをついて行った。
綺麗な赤紫の夕焼けの中、二人は道を進む。
「なぁ、お前って、友達しかいないのか?」
匡爾が不意に尋ねる。
「え?」
明日香はきょとんとする。
「だから……」
「いるよ。他には、家族と知人と赤の他人しかいないけどね」
明日香は笑顔で振り向いた。
「それじゃ、俺が5種類目になっても?」
「いいんじゃないかな。たぶん」
明日香は笑顔で答えた。
「じゃあ、明日からそれな」
「いいよ。約束」
明日香は右手の小指を差し出した。
赤い糸はこれから始まる。




