プロローグ
はじめまして、閲覧感謝です!
「新たなる勇者の誕生にっ
バンザァァァァァァァァァァイ!!」
一際目立つお城のこれまた豪華絢爛な大広間。
国王と思わしき男性の掛け声で沸き立つ空間。
その中で、ただ1人苦笑いで立つ少女。
その手には1枚の絵画。
そう、この絵が全ての始まりだった…
***
<遡る事1週間と数時間前>
「いらっしゃいいらっしゃい!
絵画はいかがですかー!?」
ここはガロマーレ大陸にあるザヒ国の王都、ヤーファレスト。
王宮の近くにある市場の片隅で、ひときわ大きな声で露店を開き絵画を売る少女がいた。
彼女の名は、ファナ・ウルキオラ。17歳。
「そこのご婦人!絵画はいかがですか!?」
「あっそこのお兄さん!ガールフレンドに絵のプレゼントなんでどうですか!?」
あの手この手で絵画を売ろうとするが、中々上手くはいかないようで…。
「うーん…今日も売れないなぁ」
何がダメなんだろうと呟きながら、ファナはその場に座り込む。
「師匠の作品も持ってきちゃったし…これ売れないとやばいなぁ」
そこに、一台の馬車が通り過ぎたのだが、50m程先で1度止まり、ファナの露天の前まで戻ってきた。
「露店で絵画が売られているとは…懐かしさで戻ってきてしまったよ」
馬車の窓から顔を覗かせた身なりのいい老紳士は、笑顔でファナに話しかけた。
「お嬢さん、この絵は君が描いたのかい?」
「うぇ?はっはい!私が描いたのと…あと師匠が描いたのもあります」
「ほぉ…ん?この絵は」
老紳士は1枚の絵に注目し、馬車を降りた。
その絵は何気ない海の絵なのだが、まるでその場所が切り取られたように美しい絵だった。
「これは何とも綺麗な絵だ!かの有名なニコラス・ネル…ネルなんだったか…」
「ニコラス・ネルヴェスディス?」
「そう!ニコラス・ネルヴェスディスの絵みたいだ!見ているだけでそこの風や海の香りを感じるような…」
ニコラス・ネルヴェスディス。
旅先で宿泊した宿にお礼として渡した絵画が美し過ぎると噂になり、そのまま有名に。
その後数々の作品を残したが、10年程前に発表された作品を最後に音沙汰がなく、現在はどこかでひっそりと隠居生活を送っていると言われている画家の中では超有名な巨匠である。
「お気に召して頂けたのなら、1枚どうですか?500リューズで」
「ごっ500リューズ!?」
ちなみに500リューズとは、日本円にすると500円である。
「それはいくらなんでも安すぎる!この絵には50万リューズ、いやもっと…それ以上の価値がある!」
「えっ!そんなに!?その絵よりもこっちの方が…」
そう言ってファナが指さしたのは、海の絵の隣にあった前衛的な絵だった。
「こっちの方が私は価値があると思うんですけど…」
「そうなのかい?この絵がねぇ…」
「はい!もうこの先プレミアが付いても可笑しくない絵ですよ!1番のオススメ商品です!」
ファナは物凄く必死に老紳士へ絵のアピールを始めた。
「そっそうか…ではこの海の絵と、君がおすすめする絵も貰おうかな」
「っありがとうございます!」
老紳士は2枚買うからお代はこれだけ払わせてくれ、とファナを説得し最初にファナが提示した値段の何十倍もの値段を支払った。
老紳士に絵画を渡し、お代を受け取ったファナは笑顔で老紳士の乗る馬車を見送った後、鼻歌交じりに露店の片付けを始めた。
(まさか2枚も売れるだなんて、師匠も喜ぶだろうな〜)
そう思いながら手早く絵画を片付け、ファナは自分が住む古びた長屋へと帰宅した。
だがその表札には
「ネルヴェスディス」と書かれていた。
「師匠!ただいま戻りました!!」
師匠と呼ばれた老人は、ファナの顔を見るなり杖をこちらに向けながら走ってきた。
「ファナぁぁぁ!!てめぇ勝手にワシの落書き持ってっただろ!?」
「ひぃっ!バレてましたか…」
「寄りによってあの出来の悪い奴持って行きよって…」
「出来が悪いだなんて!
あの『ニコラス・ネルヴェスディス』が晩年に描いた作品なのに!!」
そう、この老人こそ絵画界の巨匠ニコラス・ネルヴェスディスなのだ。
「あんな適当に描いた落書きの何処が作品なんじゃ!!」
「だとしても巨匠と言われる師匠が描いた絵ですよ!?世に出さないのが勿体ないです!」
それにあれ売れましたし、とファナがぼそっと言うと…
「ほっ本当か!?」
とニコラスはファナの両肩を掴み問いただした。
「私の絵とセットででしたけど…2枚で10万リューズ」
「10万リューズ!?ワシの落書きとお前の模写がか!?」
「はい…お金持ちのおじさんが買ってくれました
って師匠、何だかんだであの絵が売れて嬉しそうじゃないですか」
「なっなな何を言っとるんじゃ!あんな絵を買う物好きがおる事にビックリしとるだけじゃ」
「うーそー、顔めちゃくちゃニヤけてるじゃん」
咄嗟に腕で顔を隠すニコラス。
「…とにかく、勝手にワシの落書きを売るんじゃない!」
「はーい」
思った以上に高値で売れた事に喜びを隠せないニコラスを見ながら、ファナも自分の作品が売れた事への喜びを噛み締めていた。
その絵画が、彼女の人生を大きく変える事も知らずに・・・。
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