「9」
「あ!まりちゃん!」
「ただいま、たすく君」
「こんにちは」
「あ、こ、こ、こんにちは……」
入ってきたのは髪を二つ結びにした小学生の女の子だった。
そして、佑君がとてもいい笑顔で彼女を迎えている。
しかし、彼女は俺に怯えているのか少し距離を置いて話しかけてきた。ごめんね、やっぱり俺は怪しいおじさんかもしれないね。
「まりちゃん、この人しゅん君のお友達」
「どうも、しゅん君のお友達です」
「……ど、どうも、あの、いらっしゃいませ……」
そう言えば俺は佑君に名前を教えていないかもしれない。
やはり、この状況で俺を連れて中に入るなんて危ない。何故入れてくれたのだろう。怪しいおに……おじさんなのに。
それにしても、いらっしゃいませ……?ここが家なのかな。
「……お兄さん、この子はまりちゃんです!」
「まりちゃんね、どうも、俺はルイって言います」
「るい、さん」
「じゃあルイ君ですね!」
佑君がそう言うと同時に俊哉が近づいてきた。
手には飲み物と紅茶のマフィンが置いてある。
「おかえり、まり、今日もあれでいいか?」
「うん、ありがとう俊哉お兄ちゃん」
俊哉お兄ちゃん。お兄ちゃん。
可愛い、なんだそれ。
そもそもこの小学生2人はとても可愛い。
弟や妹が欲しかった俺にはとても素晴らしい状況である。
もし下に弟や妹が出来たら、毎日でも勉強を教えてあげたかったし、遊びに付き合ってあげたかった。
でも、それはもう叶わない事が分かっている。
「……お兄ちゃんが、いくらでも勉強教えてあげるからね」
「え!本当ですか!聞いたまりちゃん!」
「う、うん聞いた……大丈夫なんですか?」
「時間ある時に来るようにするよ、その時だけになっちゃうけど」
「「お願いします」」
こうやってこの2人に勉強を教えることになったのだった。
「お前警察に捕まることはするなよ」
「しないから、大丈夫だから。あとコーヒーもマフィンも美味しいから、仕方ないの」
「あ、そ」
本当に、ちゃんと、勉強を教えることになったのだった。
合法的に。
話を聞いてみると、まりちゃんはここの娘さんらしい。
佑君は幼馴染で近くに住んでいるとか。
まりちゃんがイジメられている所を助けた時から、放課後は一緒に過ごす事が習慣になったようだ。
そのイジメも、大人しいまりちゃんにどう接して良いのか分からなかった男の子達によるもので、和解した後は何も無くなったらしい。
なんだか、甘酸っぱい。青春だ。
「一生まりちゃんの事は僕が助けるんですよ!まりちゃんの騎士になるつもりです!」
「え!たすく君、騎士さんになったら結婚できないよ、なんだっけ、あの……こ、こんやくしゃ!こんやくしゃにならなきゃ!」
「え!そうなの?じゃあその、こんやくしゃに早くならなきゃね!」
「……………………っ」
うんうん、続けなさい。この幸せな時間をずっと続けなさい。心まで可愛いというのは本当に素晴らしい事だと思う。
大体の大人は心が可愛くなくなっていくものだから。
そう考えながら俊哉を見た。
「なんだ」
「いや、人ってどうしても欲求に忠実になる生き物だもんね」
「……は?」
まだ救える。人を監禁しようとする考えに至ってしまう前に止められるはず。
早く香織さんと婚約者にでもなってしまえよ。
そうしたら頑張らなくてもいいのに。
「とりあえず分からないところ出てきたら教えてね」
「おい、ルイ、今何考えてた」
「んー未来?」
「……はぁ??」
未来が、俊哉にとっても俺にとっても幸せでありますように。合掌。
そんな事をやっていたら18時になっていた。
小学生には大分遅い時間だ。
そう思って時計を見ていたら俊哉がエプロンを脱いでカウンターの座席に掛け、こちらに歩いてくる。
「たすく、帰るぞ」
「えーまだ勉強したいです」
「だめだ、また怒られるぞ」
「……はーい」
え、なにこれ、なにこの、家族感。
俊哉はいつのまにお父さんに。なんて考えそうになる位にナチュラルに佑君を誘導して帰る支度を進めていった。
俺も一緒に帰ろうかと思って席を立つ。
「俺も大分長くお邪魔しちゃったから……」
「いや、お前にはまだ残ってもらう」
「へ?なんで?」
「……マスターの手伝いだ、ここは夜はBARになる」
「BAR、え?手伝い?」
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