「5」
「はぁ、はぁ……しゅ、しゅんや……思ってたのと、違うんだけど……」
「は?合宿ってのは練習を集中して取り組むためにあるんだろう」
「はぁ……だからって、なんで、山登ってるのかな……」
ここは山の中、先程から永遠に割と険しい道を歩いていた。
弓道サークルの合宿初日、現地に着き、荷物を置いて外に出た段階から山登りがスタートした。
実に予想外である。
弓道の合宿で山登りすると思ってない。
とっても失礼な事を言うと、弓道なんて体力つける系の訓練なんてしないと思ってた。
結果こうだ。
「……はぁ……しぬわ、まじで……」
「ルイ!置いてくぞ」
「………………」
置いていって構わないと思っているが、友人想いの彼は待っていてくれている。
『早くしろ』という言葉を『置いていくぞ』という言葉に置き換えてくれる優しさを発揮されても、正直足は重いままだ。
とりあえず前に進む努力をしよう。それだけを頭に必死で考えて山登りは終わった。
「るいって全然体力ないねー!そんなんだと彼女できた時大変だよ?」
「……柳田さん」
「さきだってば」
「……さ、さきは、何しにきたの?」
「え?るいをからかいに?」
「はーひどい子だなー」
畳の上で大の字に寝っ転がって全身の疲労を労っていると、柳田さんが俺に声をかけてきた。
例の、俊哉に告白したと予想される子だ。
できればこの合宿中にその事実を確かめたのち、今後の対策を考えてていきたい。
「るいってチャラそうなのに全然チャラくないよね」
「余計なお世話かなー?」
「褒めてる褒めてる」
「褒めてくれてる言い方じゃないんだけどなー」
「そう?」
とってもステキな笑顔で微笑みながら俺を見下ろしてくる。本当にひどいもんだ。
「るいって彼女いらないの?」
「は?」
「あ、そうだよね……まだ言いたくないよね」
「え?は?」
唐突に出された話題に驚きを隠せなかった。
俺が彼女をいらないなんていつ言った?
そもそも今後も誰にも言うつもりが無いのに。
しかもそれが言いにくい事だって知っているように言ってくる。
「やっぱり本当なの?」
「え、な、何が?」
「……いや、だめね、まだ聞かないでおいてあげるよ」
「…………」
何故だろうか、どこで知られてしまったんだろう。
焦る顔を隠すことが出来ないでいる。
でもまだ、俺が彼女がいらないという情報だけだ。もしかしたら違う事が原因かもしれない。
一先ず何も言わないで……。
そう考えていたらとても元気そうな声が聞こえてきた。
「さきー!やっぱり付き合ってたってー?」
「わ!みさき!」
「坂田さん」
「よっ!るいぽん、どう?イケメンと付き合ってみて」
「…………え?」
「あれ?」
イケメンと付き合ってみてというのは俺に対して聞いているのだろうか?
しかしこの坂田美咲という人物は完全に俺に視線を合わせてきている。しかも晒そうともしていない。
「みさき!まだ聞けてないんだってば!」
「え!うそー!もう確定なのかと思っちゃった、やーだー!ごめーん、るいぽん!」
「ちょっと、まって」
どういう状況なのかをまず確認したい。
俺が誰と付き合ってるって?
しかも、やっぱりってなに!
どうにか、聞きたいことを口にした俺は、柳田さんと坂田さんと共に外のテラス席に座り、事情を聞くことになった。正直、頭で理解したくないだけで、何となく分かっている。
言葉で聞いてしまったらもう、何かが変わってしまう気もするが、ここで聞かないともうずっと聞かないままになってしまうと思った。
意を決して聞く体制に入る。
「あのね、今、女子達の間でーるいぽんと、俊哉くんが付き合ってるって噂が流れててー」
「……う、うん、それで」
「それで!事実を確かめる為に!さきが先頭を切って俊哉くんに告白をしてみた訳なんですよね!」
「ああー……なるほど、そういう事で」
「うん、そしたら、ね!」
「うん!しゅんやね『ルイに聞かないといけないから』とだけ言って!帰っちゃって!」
「きゃー!やーばいよね!!!」
そりゃー、やーばいですね、そのセリフは。
「私、男同士でも、イケメン同士だったらなんかオッケー!って思ってて!」
「皆んなも争わないしね」
オッケー!じゃねぇよ。
女の子と付き合わないにしても、だからって男と付き合うかと言われたらそれは違う。
俺は男とは友達にはなれても、それ以上の関係に進むつもりは無い。
しかしながら思う。
ここで全拒否してしまったら、柳田さんが言っていた、『皆んなが争わない』というのは叶わなくなってしまう。それはそれで面倒か……?
いやいやいや、そこまで自己犠牲働かなくていいだろ。
別に、他の男が男を好きだっていう事を否定するつもりはないが、俺は男は好きになれないタイプの人間だ。
めっちゃ運動苦手なのに、こいつめっちゃ運動神経良いんですよーって触れ回される位には困る。
そういうの嫌いな男がいるのは事実だし、友達が減る可能性だってあるってことなのだ。
それと、俊哉が男が好きっていう事が香織さんに知られるのもまずい。優しい香織さんは受け入れた上で俊哉とは付き合わなくなるだろう。
ここは、全力で否定しなくてはいけない。
「俺はしゅんやと付き合ってない!」
「うんうんうん!分かってる分かってる!」
「そうだよね、分かる分かる」
「……分かっ」
「「分かってる、分かってる!」」
おっと、こいつら、全然聞く耳を待たないな。
「大丈夫!誰にも言わないからー!」
「それ、大丈夫とかじゃ……」
「うん、サークルの平和の為にも、ね?」
いや、ね?じゃない。
なんだか埒があかない気がしてきた。
その後は皆んなそれぞれの友人に呼ばれてバラバラに別れ、結局完全に訂正できぬまま……。
とりあえず、柳田紗希が前の世界とは違うテンションで告白していた事は分かったのは良かった。
俊哉のとこは狙っていないという事でいいはず。
そうなると、2人に恋人を作らせない事だけに集中するのみだ。来年までだけど。
「来年なんだよなぁ……」
果てしなく遠い……。
いや、そんな事言っていられない。やるって決めたんだ。そうじゃないとまた、始めからだ、その方が絶対に大変。
割と本当に、人生をかけた戦いなんだこれは。
高校の時、弓道部でしたー。
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