「13」
「………………」
ここは木の陰だ。
ちょうどあの2人が言っていた“イベント”が起こりそうな場所の、斜め学校の校舎側に俺は既に1時間居座っている。
木の陰といっても、周りは植木に囲まれ、真上からしか俺の姿は見えないだろう。だからこそ、1時間居座っているが誰にもバレていない自信がある。
パンを咀嚼しながらずっと張っていると、とある考えが頭に浮かんできた。
これ、見張っているのが見つかったら警察に差し出されないだろうか。
「………………」
いや、バレなければ無罪。知られなければ無罪だ。
先ほどよりも息を潜めながらより体を縮こませた。
警察に連行される自分を想像して体が震える。そして自分の姿を客観的に見て思う。
なにしてるんだろう、俺。
もし何もなければただ草陰に座って何時間も過ごした暇人だ。
だからこそ……お願いだから何か起きて欲しい。
ちょうどそう、願った時だった。
「……つどこ……だから、……」
「!!!!」
近くで俊哉の声がした。
なんで俊哉がこんな場所に?
想定していない事態に先程とは比べものにならない位の緊張から、冷や汗が止まらなくなった。
そもそも俊哉は今日サークルの練習のあとバイトがあるからと授業の後にすぐ別れたはず。
サークルを練習している場所はこことは真反対にあるのだ、普通に練習していたのなら絶対に近寄る事はない。
早く去って欲しい!
そう願っていたら、先ほどよりも想定外の事態が起こった。
(あれは、さっきの変な2人組の姫の方?なんで近寄って……俊哉とぶつかる!)
ドンッ!!!
「………………」
ぶつかった。ぶつかったわ。嘘でしょう。
いやいやいや、ちょっと待ってくれよ……。
___はい、ルイ選手タイムに入りました!ちょっと頭での理解が追いついていないようですね。
それにしても予想外!あの2人が言っていたイベントの相手が高林俊哉だったなんて!
「……まじかぁ、それは本当予想してなかったよ……」
イベント現場に目を戻すと、姫の方が俊哉に謝っているようだ。
なんか……今回は成功させたいとか……言ってたような。
成功?
今回は?
どこかで聞いたことのあるセリフ。
ここがまるでゲームの世界かのように彼女達は話てはいなかっただろうか。
まさか。
「彼女達にとって、ここはゲームの世界……」
ふと、喫茶店のマスターの言葉が頭に浮かんだ。
『ここの世界は色々な世界と繋がっているんだよ』
理解した瞬間、衝撃で目の前が真っ白になった。
ここをゲームの世界とした別の世界があるというのか。
攻略相手は高林俊哉。
プレーヤーのやる気は十分、協力者付きだ。
最悪かよ。やる事が増えただけじゃないか。
俺は、俊哉に秘密裏に協力しつつ、香織さんと近づけ、他の世界のプレーヤーや、他の女の子たちを俊哉から遠ざけ、飛んだ先のゲームをクリアさせなければいけないということになる。
ノーセーブクリアが条件。ひどい失敗は許されない。
どんな鬼畜ゲーなんだよ。攻略本をくれ。
「あっ」
気がつくと俊哉達が携帯電話を持って何かをしているようだ。これは、メッセージアプリでも交換したのではないかと予想できる。
難易度が……上がっただけだ……。
全然大丈夫じゃないけれど。
とりあえず要注意人物だと再認識しただけでも儲けものだと思うしかないだろう。
ひとまずやる事を追加だ。
あのプレーヤー達の対策を考える事。
ゲームという事は他の攻略対象が居てもおかしくはない。確かに俊哉はイケメンだから攻略対象というのは大いに納得ができる。
しかし、今回は香織さんと付き合ってもらわないと、ここまで頑張ったので俺が困る。
なので、他の攻略対象を探し出し、そっちに目を向けてもらう事を目標にしてみよう。
「…………とりあえず、あの教室に盗聴器付けよ」
俺は誰にも気づかれないようにその場を離れると、ネットで盗聴器を購入した。
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