「12」
「T-1教室……」
この学校は基本的に使われていない教室に関しては自由に使用しても良いという決まりになっている。あまり使用されないような教室はサークルなどで使用されることが多いようだ。
最早サークル専用になっている教室もあるとか。
用意された部屋だけでは足りないサークルの人たちは空いている部屋を探しているのをよく見る。
そして、俺が前回聞いた声は恐らくこの付近から聞こえてきた。
中には2人の人物。
あれは…………だれだろう。
でもとっても綺麗そうな2人。
1人は身長が高く、髪はショートカット、モデル体型であり顔はとても小さいのが分かる。
もう1人は身長が小さいが胸を強調するような服を着ている。髪は長く、綺麗に髪を巻いているようだ。
まぁ、顔は見えないんだけれど。
気になるのは、その、ショートカットの方がロングの方の手を握りながら跪いているということ。
いやー。なんだろうね、あれ。
普段の、というか、この世界を繰り返すような変な状況に巻き込まれていない時であれば、絶対に関わらないような2人。
もう、2人の世界すぎてちょっとついていけないが、ここは関わっていかなければいけない可能性が高い訳だ。
……一先ずは聞き耳を立てよう。
つい舌打ちをしそうになった口を抑え、静かに、静かに。
「……ですから、今回は……で、姫さまは……ということでいけば」
「そうね!あ、でも………イベントが……で」
「今日…………東門の杉の木………」
「……出会いイベントだものね!」
「!!!」
出会いイベント……?
なんだか恋愛ゲームで良く出てきそうなワードだった。
出会いイベントと言えば物語の始めの方にある主人公とヒロインやヒーローが出会う大きなイベントの事だろう。
「………………」
東門の杉の木とは、東門に生えている大きな杉の木の事で合っていると思う。
そもそも杉の木は大学内であそこにしか生えていない。
「……午後の……終わる……ング」
午後の何かが終わるタイミング……。
正直ここにビデオカメラでも置いて帰りたい。
そんなことしたら犯罪だからやらないけど。
でも今日は都合よく3限で終わり、その後予定はなかったはず。
3限の終わる時間は14:30。
本当は……サークルに行きたかったけど。やむ終えない。杉の木の前で張ろう。
そうと決まれば何か食べ物を買って……。
「ルイくん?」
「うぇ!か、か、香織さん!?」
「びっ、くりした……」
「ご、ごめん、ちょっと考え事してて」
「私もごめんね、驚かせちゃったね」
「いや……」
「…………」
まてまて、ここに香織さんが来る想定をしていない。
なんでここにいるの!
しかも、ちょっと悪いことをしている気持ちだったから声をかけられて驚いてしまうし。
脈を打っているのを感じるほど心臓がドクドク言っている。
あの2人には気付かれてしまっただろうかと考え、冷や汗まで流れる始末だ。とりあえず話しを続けなければ。
「か、香織さんは何でここに?」
「私ここでサークルなの。あれ?もしかして同じ学校なのかな?」
「そうかもね、いつも四ツ橋校の方だったり?」
「うん、そうだよ」
「じゃあ同じだ」
「ふふ、同じだったんだね」
そうだね、かわいいね。変わらない可愛さがそこにあるね。
チラッと後ろを見るとあの2人の姿は見えなくなっていた。きっとどこかへ行ってしまったのだろう。
見失ってしまったけど、午後何かのイベントが起きるという大きなヒントを得ることが出来たので良しとしよう。
一息ついて心臓の脈を抑える。
しかし、こんな所で香織さんに出会うとは思っていなかった。今俊哉に会わせるのは俺の中でミスタイミングなのでなるべく会わせないようにしたい。
そんな事を思いながらサークルの内容を探ろうと考えた。
「なんのサークル入ってるの?」
「ん?トム&ジェリーだよ」
「…………え?」
「トム&ジェリーだよ」
「それは、何するサークルなんですか……」
「なんだろうね、なんか、鬼ごっことか?」
鬼ごっこするサークルってなんだろう。
しかも例えばの例として出てきたのが鬼ごっこなのだから、良くやっているのかもしれない。
ちょっと、想像できないんだけど。
「ふふ、なんかね、電子機器とか、人工の道具を使わない、皆んなでできるゲームをするサークルだよ」
「電子機器は分かるけど、人工の道具って?」
「トランプとか?」
「あー……ね」
人工の道具って例え秀逸だな……。
じゃあカルタとか花札とかもダメということなのか。
麻雀も?ドミノ倒しも?
「こないだはどこまでケンケンパできるかやったのよ」
「……へぇ、それは……シュールだね」
「そうなの、シュールなの」
ふふふと指を口元に当てながら笑う香織さんは、爽やかに手を振りながら別棟に消えていった。
そうなのか、こっちの校舎でサークルをやっているのか。
知らなかったな、それなら知り合いにならない方が良かったのかもしれない。
声をかけられて俊哉に出会ってしまう確率が格段に上がるではないか。
「…………」
いや、こうなったら仕方ない。準備を急げばいい話だ。
香織さんに彼氏が居ないかチェックしようか。
そんなことを思いながら時計を見ると11:15。
「あ、やばい」
授業が始まりそうな時間になっていた。
そして、急いで走る俺の姿を、誰かが見ていた事は、この時の俺は知る事はなかったのだった。
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