拠点
森を進みしばらく経つ。
ここまでたまになにか魔物らしきものが見えたりしたが無事隠れることで逃れられている。
そして、今まで代わり映えない景色だったのがやっと変わった。
広場のようなところに出たのだ。
そして広場の真ん中にポツンと小屋のようなものが。
出来ればあそこで休みたい。
もうかれこれ2、3時間気を張って行動しているのだ。
いい加減休みたい。
ただ、小屋だ。
誰かが使っている可能性が高いし、場所が場所だ。
異世界定番の盗賊なんて可能性もある。
気を引き締めていくべきだろう。
じっくり小屋を観察すると
屋根など小屋の表面は荒れていてお世辞にも中がしっかりしているとは思えない。
せいぜい雨露をしのぐぐらいにしか役立ちそうにない
し、小屋の周辺の雑草もぼうぼうに生えていて手入れはされてない。
まず間違いなく人の出入りはないと見ていいだろう。
「あそこの小屋で休もう。
おそらくもう使ってないだろうから大丈夫だと思う
けど、問答無用で遅いかかられるなんてこともある
かもしれないから気をつけて。」
「ん。わかった」
俺の言葉に3人は安堵したような表情になる。
それもそうだろう。
ずっと気を張り詰めて歩いていたのだ。
それにおそらく俺より現状が理解できてないだろうから、余計不安だろうしな。
小屋の前に立ち、ドアノブに手をかけ回す。
案外簡単に開きそっと開ける。
中を覗くと玄関に廊下。
「う〜ん。大丈夫みたいだな」
中に入ると玄関も廊下もホコリをかぶっている。
相当長い間使われてないのだろう。
「桐谷くん。大丈夫そう?」
「あぁ。入って休もう」
全員入り、念のため部屋を一つずつ確認する。
その結果、わかったことがいくつかある。
外から見たとき荒れている小屋といったが中はキッチン、リビング、風呂、書室、トイレ、それに寝室が4部屋あった。
どう見ても外側の大きさと合わないが、
この謎は書室にあったこの家の家主の日記を見たことで解けた。
日記は知らない文字で書かれていたが、何故か意味がすんなりと頭に入ってきた。
十中八九異世界転移定番の言語理解だろう。
そしてその日記によるとここの家主は魔法使いだったようだ。
それもおそらく相当高位の。
所々に権力争いや嫉妬や妬みなどの感情を向けられることに疲れたなどということが書いてあったからだ。
そしてその魔法使いは晩年をここで過ごし、
すでに亡くなっているようだ。
死体がないのは、魔法使いなのだ自分で墓を作るくらい簡単にできるのだろう。
近くに墓らしきものもなかったしな。
この家が外観と内装が違うのは空間魔法によるものらしい。これも異世界の定番だな。
あとこの家と中にあるものは好きに使ってくれていいとも書いてあった。
有難い話だが、こんなところに来る物好きはいないだろうがとも書いてあったのでここは相当人里から離れているのではないだろうか。
ただ安全な場所を確保できたのは大きいので、ひとまずしばらくはここを拠点に活動するべきだろう。
「ただ、3人になんて説明すればいいかな……」
悶々と頭を悩ませながらリビングへ向かう。
ちなみに俺が日記を読んでいる間、
3人はリビングを掃除してくれている。
休める場所を確保したいそうだ。
…………俺だけ楽してる気がするんだが。