第三話:Cursed past-1
過去のお話ですが、今までとは違い一部分、残酷な描写が入ってしまっています。苦手な方はご注意ください。
また、長くなってしまったので二部構成です。
とある森の奥深く。人々の目から逃れるようにひっそりと、その村は存在した。
建物は少なく、それに伴って住んでいる人も少ない。そもそも、この村を知っているもの自体が少数であろう。
世間から隔離されているが、逆に言えば世間の喧噪などからは離れることができており、静かで長閑で平和な独立した世界がそこにはあった。
そしてそんな村が迎えたとある夜。月が綺麗で、時折周囲の森の中からふくろうの鳴き声が聞こえてくる、本当にいつも通りの夜だった。
しかしその平和はいとも簡単に、理不尽なほどあっさりと破壊される。
周りの家などと比べるとかなり大きめの建物――子供が勉強をするために集まったり、何らかの集会の時に使われたりする――この村で公共のものであるその建物に、ゆっくりと近づく人影があった。
森から出てきたその影はローブを着ており、それは森を通ってきた割には不自然なほど綺麗であった。
深く着たローブの隙間から時折月光に照らされる顔から、男であることがわかる。
そしてその男は建物の入口までやってくるとそこにあった扉を叩いた。
今日は何かの集まりでその建物にはこの村のほとんどの住人がおり、外からでも誰かがいるということがすぐにわかったからであろう。
しかしその叩いた音に気付かなかったようで、人は出てこなかった。もう一度、先ほどよりもやや強めに扉を叩く。
今度は叩いてしばらくすると、扉の反対側に近づいてくる人の気配があり、
「どなたですか?」
そしてそんな声が聞こえてきた。男はすかさず返す。
「夜分遅くに申し訳ありません。森の中で迷ってしまい、この村に辿りつきました。もしよろしければ朝までどこかにお泊めしてもらえないでしょうか?」
「……少々お待ちください」
そんな返答があり、またその人の気配はなくなる。恐らく、他の住人に相談しにいったのだろう。
またしばらく待っていると、再び人がやってきた。
「申し訳ありませんが、お泊めすることはできません。この森には危険な生き物も少ないですし、近くの町までの道まででしたらこれから案内いたしますが、どうしますか?」
すると今度はすぐに男は返事を返さなかった。何か考えているようだ。
「……わかりました。それでは、お願いできますか?」
「かしこまりました」
即座に扉の鍵が外される音が聞こえてゆっくりと扉が開かれ、中から女性が現れ、
「ではご案内いたしますので……しっかり着いてきてください」
それはその女性の最後の言葉となった。
案内をするために女性が男に背を向けて歩き出そうとした途端、音もなく抜かれた剣が女性の後ろから首を刎ねたからである。
そしてその男は動かなくなった女性の体を掴むとそのまま強引に引きずりながら後ろを振り返り、自身と扉の間に挟むように持ち上げる。
「空壁」
そう呟いた瞬間、建物の中から男へと閃光が走り、衝突した瞬間衝撃が発生し轟音を響かせた。
「やれやれ、やっぱり一筋縄じゃいかないか……」
しかしそんなことも大して気にした様子はなく、無傷の男は飛び退り建物から離れる。先ほどまで男がいた場所には女性がばらばらになって散らばっていた。
少しすると、先ほどの閃光により吹き飛んだ扉の跡を通って複数の人間が出てきた。
「ぬぅ、一筋縄ではいかないようじゃな……」
男が生きていることを確認すると、先頭に立つ初老の男が対峙する男と同じことを呟く。その表情からはかなりの緊張感が見て取れるが、
「酷いことするな……初めから俺と一緒に殺す気だったでしょ、あの人。綺麗な人だったのになぁ」
向かう相手の男は緊張感のかけらもなく、軽口を叩いているばかりである。
「その様なことは我々が知ったことではない。貴様も死ねばあの世で会えるのではないか?」
「いや、俺はまだ死にたくない。あの程度の人ならまだ生きてれば会えそうだしね」
「それもそうだな。――死ぬ覚悟はできているな?」
「うわ、理不尽。それはこっちの台詞なのに」
「この数の差がわからんのか?それとも貴様は数を数えることすらできないのか」
「俺が自分一人だけで来たとでも?」
その言葉を聞くと、村の住人たちがどよめく。先頭の男を除いて。
「この状況でよくもそのようなはったりが使えるものだな。私が張っている、貴様のような輩を感知する結界には一人しか反応がない」
「へぇ、そんな魔法があるんだ。覚えておかなくっちゃね」
「冥土の土産にでも持ってゆくがよかろう。では、死ぬがよい」
その言葉を言い終わると同時に、先頭の男を始めとして建物から出てきた人間全員が、一斉に杖のようなものを取り出して離れた男へと向ける。
そして次の瞬間、またも閃光と轟音が村を包み込んだ――