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C's  作者: xai
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第一話:Calamity Start

 ――コトン。

 その音はとても小さく、普通ならば注意しなければ聞こえることさえしないかもしれない。

 しかしこの場所、所狭しと棚が並び、その一つ一つにぎっしりと本が詰まっている図書館ではよく響き、そこに居るものの耳にはっきりと届く……筈なのだが、この図書館には人影が一つもなく、明かりすらついておらずに宵闇に溶け込んでいた。

 そんな中、現在の図書館で唯一その音を聞いた存在があった。それは自身が発生させた音にも関わらずびくっと体を跳ねさせると、そこで動きを停止させた。

 しばらくその状態のまま周囲に注意を払っていたが、自分以外の気配がないとわかると再び静かに動き出す。

 こんな時間に図書館に訪れることは普通ではない。しかしその目的は至って正常であり、本棚からそっと一冊の本を出すとその場で読み始めた。

 その本はこの世界の歴史について記されたもので、どこでも見かけることができるような本であった。


 ――我々が存在するこの世界は、「マージア」という名である。

 ここには古来より魔法というものがあり、文明と共に成長していった。この世界がどのくらい前に生まれ、どのくらい前から魔法というものが生まれたのか――それを調査する学者は多々として存在するが、未だに決定的な証拠は見つかっておらず、大半は学者達の仮説に留まっている。

 魔法を使用することができるものは極少数である。その中で遺伝的に魔法を使えるものがほとんどであり、その他に僅かではあるが魔法を使えない両親からでも先天的に魔法が使える子供が生まれたり、何らかの手段を用いて後天的に魔力を得るものもいる。なお、前者についての理由は不明である。

 ただでさえ数が少ない魔法使いであるが、歴史上に名を残す強大な力を持つ者――賢者と称される彼らの中には、精霊等の力を借り超常現象を起こすものすらいたという。

 そして力を持つものが現れるということは、必然的に争いが起こるということである。

 今に至るまで、戦争が勃発し終結。また勃発……このような循環が幾重にも繰り返されてきた。

 その結果、現在のマージアには『軍事国家ティフォス』『商業国エンポリア』『魔導国シューレ』の三ヶ国が存在する。

 この中で最も強大な力を持つティフォスに対し、エンポリアとシューレは同盟国となり対抗している。表面上は均衡が保たれていると言えるだろう。

 しかしある日、突然この均衡が崩れないという保障はどこにも無い。どの国も来るべき日に備え、軍事強化を行っている。

 特に近代ではその均衡の崩壊――即ち、戦争へ加速していると唱える政治家や学者が増えてきている。

 そのきっかけとなった出来事が『鬼械プレシャス・オルガノン』、通称オルガと呼ばれる古代兵器の発見である。

 魔力をあまり持たない魔法使いでも鬼械を用いることにより使用者と同等の魔法使い数人を相手に、互角以上の力を持って戦闘を行えてしまう。

 鬼械が量産できれば、それは自国の軍備の増強へと繋がり――圧倒的な力を持って他国を制圧できることであろう。

 だが未だに不明瞭な部分が多く、鬼械の製造に必要となる莫大なコストや稼働に必要となる高純度の『魔導石』、そしてそれを扱うことができる人間が少数であることも相まって、どの国も未だに量産までは至っていない。

 魔導石自体は珍しくなく誰でも扱うことができるのだが、数少ない高純度の魔導石ともなると魔力に限らずその魔導石に選ばれた人間にしかその魔導石を扱うことはできないからある。

 鬼械の量産と言わずとも、どこか一つの国が他国を圧倒的に凌ぐほどの鬼械を手にすることに成功したのなら、この世界はその国が掌握すると言っても過言ではないだろう。


「……ふぅ」

 この本を何度も読みかえしているのか、かなりの速さでページを捲っていたその影はさほど時間をかけずにその本を読み終わり、そっと閉じてまた元あった場所へと本を戻した。

「木を隠すには森と言うし、こんなありふれた本にこそ暗号とか隠されていると思っていたけど……やっぱり甘いのかなぁ」

 そう誰ともなしに呟くと本棚をざっと見渡す。

「この図書館にも手がかりは無し、と」

 やや落胆した様子で自分が侵入してきた窓へゆっくりと戻る。

 しかし、貸出カウンターと思われる場所の周辺にたくさん貼られている催し物やお知らせなどが記された紙の一枚に目を向けると、その足を止めて読み始める。

 その視線の先、文字だけで構成されている飾り気も何もない紙にはこう記されていた。

『個人蔵書、一般公開のお知らせ

 この度、私が収集している貴重な文献などの一般公開を行います。学生さんから専門家の方々まで、どなたでも歓迎いたします。興味を持たれた方はぜひお越しください。なお、お越しのさいには……』

 そこからは自宅の住所や個人の書庫であるため狭いので事前に予約を入れてもらえば順番にもてなす、といったことが記されていた。

 しばらくその紙を眺めていた小さな影は、

「……よし」

 そう呟くとまた、ゆっくりと歩き始めた。そしてほんの少しだけ開けてあった窓に手をかけると、音もなく図書館から出て行った。

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