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C's  作者: xai
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第十話:Crucial encounter-1

 欝蒼と茂る森の中。シアルは怪我をした身体で必死に走っていた。時折強く当たる葉や枝が細かい傷をさらにつけていく。

 後続より迫る人の気配は二つ。やはり人間では機敏な上に小さい猫にはなかなか追いつけないらしく、怪我をしながらでもなんとか逃げ続けることができた。

 そしてシアルは逃げながら考える。追っ手が発動する魔法を時にかわし、時に受け流しながら、いかにして追ってくる二人に勝つことができるかを。

 


「――力を見せつけてみせよ! 地蝕ストラスベルグ!」

 その呪文を唱え、十秒ほど経過すると周囲を地響きが包み込む。しかしそこまで大規模なものではなく、低い音と細かい大地の揺れがしばらく続いた。

「……地震か?」

「わからん。だが何にせよ気をつけておけ」

 やや離れた位置にいるシアルにそんな声が聞こえてくる。そして次の瞬間、

「うわっ!」

「な、なんだ?」

 襲撃者たちが集まっている場所からさらにシアルから離れた位置にあった家の瓦礫が突然地中に沈んだ。

 魔法を使えないであろう三人の兵たちは地震やそれに伴う地盤沈下だと思い込んでいるようだ。

 しかし二人だけいる魔法使いは魔法を発動すると共に発せられる魔力を僅かながら感じおっており、やや周囲を警戒している。

「いったいどうしちまったんだろうなぁ」

「よくわからんけど、俺たちも巻き込まれないようにしないと」

 そう言いながら帰還準備をしようとする兵達だが、

「……おい、お前達であそこを調べてこい」

 そう魔法使いに命令されて落胆する。

「ああいうところに近づくのは危ないっすよー」

「そうですよ。目的のものも手に入ったし、早く帰りましょうよー」

 危険な目に遭いたくないのか、やる気なさそうに反論する。

「何かはわからんが、少し嫌な予感がする。それさえしてくれば早急に帰還しよう」

 しかし有無を言わさぬその言葉を受け、渋々と言われたとおりに動き出す。

「一般兵だけか……十分だね」

 それを見ながら、新たに詠唱を唱え始めるシアル。

「暗黒に在りし眩いまでの光よ、我が呼びかけに応えろ。そして戒めるがいい、悪しき者を、邪悪なる者を。強大なる天よりの一撃、ここに見舞わん。迅雷サンガルム

 呪文を唱えた瞬間、空から落ちてきた巨大な雷が魔法使いから離れた兵士に直撃した。

 糸が切れたように崩れ落ちる兵。そしてある程度予想していたであろう魔法使い達は障壁を展開しつつ、それぞれ別の方向に飛び退る。

「やはり敵か?」

「ああ……そう見て間違いはないだろう。心してかかれ」

 そうして臨戦態勢には入るものの、それから何も起きない。先ほどまで感じられていた筈の魔力も感じられない。

 兵士が倒れている方向、つまりシアルとは反対側の方向を見つめながら二人の魔法使いは話す。

「逃げた、のか……?」

「わからん。我々二人を相手にすることはできないと思うのも無理はないかもしれんが」

「どうする」

「もうしばらく待て。それでも攻撃と見られるものがなければ早急に帰還するぞ」

「了解した」

 会話が終わると、握っていた杖を握り直しいつでも攻撃できるように警戒しつつ準備をしておく二人の魔法使い。

「だめだよー。攻撃があった方向だけじゃなくって全方向を注意しとかなきゃー……と」

 物陰でのんびりとそんなことを一人喋っているシアル。そして今度は魔法使いではなく、捕らえられている人間を見る。

「よしよし……これなら大丈夫だね。――閃光クルス

 身体の中で存分に、しっかりと練り上げた魔力を解放し、強烈な閃光を魔法使いの視線の先に放つ。もう魔力を隠す必要もない。

「うぁっ!?」

「これは……!」

 暗くなり始めていた世界に目を慣らしていた二人にその閃光はあまりに厳しかったらしく、目を押さえてその場に蹲る。

 それを確認したシアルは何の躊躇いも見せずに一人残された人間の元へと向かう。

 そして音もなくその人間を拘束していた縄や目隠しを切り裂いて外した。

「ねえ、大丈夫? 走れる?」

 そう問いかけるものの、

「……ん」

 小さくうめき声のようなものをあげるだけで返事はない。しかし顔を動かして黒い瞳で自分に声をかけてきたものを見る。

「………」

 何も喋りはしないが、どうやら驚いているらしい。そしてその顔からその人間は少女だということがわかった。

「だめかあ……。やっぱり結局実力行使になっちゃうんだ……」

 その一連の動作から、どうやらこの少女は立ち上がれないものなのだと判断するシアル。

「おい……貴様何者だ?」

「話には聞いていたが、本当に居るとはな」

 そしてゆっくりとその声が聞こえてきた方向に目を向ける。目が回復したであろう魔法使い達がこちらを威嚇するように見つめていた。

 恐らく人語を操る猫など初めて見るのだろう。その目には敵愾心と共に、純粋な驚きの感情も混ざっていた。

「答える義理はないよ……っと」

 そう言い残し、相手にする気などないとでも言わんばかりにさっさとその場から立ち去る。

 その行動に敵の魔法使いはまた驚いたようだが、すぐに気を取り直して背後から攻撃を加えようとしてくる。

「ま、待て!」

 しかし、障壁に攻撃が阻まれたのを見ると、その声と共に攻撃が止む。

 その声はシアルに対してではなく、敵の一人が片割れに対して発した言葉であった。

「ここで戦うと入手したものに被害が及ぶかもしれん。せっかく逃げてくれているのだから追ってから叩くぞ」

 そう言い放つと、逃げ去るシアルの追跡を開始する二人。

 捕らえられた少女は、自分に起きたことがわからずにただ一人ぽつんと取り残されていた――

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