6.クラスの団結力
私達二組の担任は、世界史を担当科目とするボーダーこと島先生だ。縞々からボーダーだというのはなんとも安直なあだ名だが、当の本人がハイブリッドと並んでうちの学園きっての個性の強さを持つのだから、それくらい簡単な方がいいのだろう。
「よーし、お前ら。他に聞きたいことや分からないとこはあるか? ……ないな? よし、じゃあ自習だ!」
テストの返却とその解説が終わり、授業時間は残り二十五分——半分だ。ボーダーの声に私達は思い思いに教科書やノート、今日の五限目に提出のワークなどを出して、おしゃべりしつつ自習を始めた。
「ねえねえ、なゆー」
私もテストのやり直しをしようとノートを広げたタイミングで、後ろに座るのどかが声をかけてきた。
「何?」
「前さ、六人で打ち上げ行ったでしょ?」
「あー、行った行った!」
テスト終わりの土曜日に、のどか達と遊びに回ったのを思い出した。少なくない金額を消費したけど、テストの出来は自分では満足できたから、憂いなく遊びを満喫することができた。もしテストの出来が満足できなければ、あれほど楽しめなかったと思う。
「あの後、季子と実也の家に遊びに行ったじゃん?」
「あの広いマンションでしょ?」
「そうそう、それそれ」
六人で映画を借りて見たりホームゲームをするため、季子と実也の白野姉弟の広い家にお邪魔することになった。テレビゲームに限らず、ボードゲームやカードゲームが多くあり、人生ゲームに三時間も熱中するとは誰も予想していなかった。実也がことごとく幸運を発揮していたのも面白かった。
「昨日の夜、季子と話してたんだけど、次のテスト二人ん家で勉強会しない?」
「私は別にいいけど、ちゃんと勉強するの?」
「二人のお父さんそこは厳しいから、テスト前遊んだりなんかできないって」
「え、そうなの?」
まあ遊ばないのなら、のどか達がいる方が気分転換もしやすいし勉強も捗りそうだ。
「うん、じゃあ私も誘って」
「はーい、ありがとー」
話はそれだけなのか、テスト直しを始めるのどかに背を向けて、私もテスト直しを始めた。勉強用ノートに、あやふやなところをまとめる。
授業終わりまで残り十分となったところで、何か不備があったらしく他学年の先生がボーダーを呼びに来た。
「よし、お前らそのまま自習しとけよ」
すぐ戻ると言い残して、ボーダーは呼びに来た先生のあとを追って教室を出ていった。
「おし!」
先生が十分に離れると、クラスの中心人物の男子がドアの窓に目隠しをつけた。
「みんな! ボーダーが帰ってきたら寝た振りしろよ!」
つまらないことを言ってそのまま席に戻る。クラスの誰も、面白そう、とかやめとけよ、とかコメントせずに、完全に無視している。私ももちろん、発言なんかしない。答え直しする方が優先だから。完全に滑ったな、あいつ。
しばらくして、ボーダーの足音が廊下から聞こえてきた。本当にすぐ過ぎるでしょ。ノートの上に溜まっていた消しかすを床に捨てる。色ペンや消しゴムを筆箱の中にしまった。
ガラッ
ボーダーがドアを開けたタイミングで、左腕に額をつけるようにして頭を伏せた。右手にシャーペン持ったままなのは、先生に問われても「考えている最中です」と誤魔化すためだ。
「……お前らなあ」
先生の呆れた声には、少し笑いが含まれていた。
「なんでこんなしょうもないことで団結力見せんだよ」
さっきまでざわざわとしていた教室には、喋り声も、シャー芯がノートを引っかく音もなくなっている。その事実と先生の反応を鑑みると、私だけでなくどうやらみんな寝たふりをしたらしい。
「ほら、もういいからみんな顔上げろよ」
先生の声に顔を上げると、ちょうどそのタイミングでチャイムがなった。
誰も反応しなかったのに、みんなが寝た振りをしたのは本当に意外だった。かく言う私も寝た振りをしたけど、だって全員だよ?
本当、このクラスは変なところで団結力がある。
……クラスだけではなく学校が変人の巣窟なのもあるかもしれないけど。
変なところで団結力を見せる集団ってありますよね。先生が苦笑いされていたのを思い出します。
試験終了後の打ち上げが楽しいのは試験に対しなんも憂いがないときだけなのは、私だけでしょうか?
この度名前が出ました実也が、季子の弟です。六人で遊んできたのですが、残りの人々はいずれ登場するのでのんびりとお待ちいただけますように。