3.一人暮らしのお部屋掃除
「咲蕾ー。ちょっとこれ動かすの手伝ってくんねー?」
「あー、ここの埃取ってからでいい?」
「ああ」
土曜日のお昼前。緑茶大学二回生の歩夢の部屋には、歩夢本人と歩夢の恋人である咲蕾の姿があった。
「おっけー。こっち持ちあげたらいいの?」
「うん。ちょい重いけど、いけるか?」
「多分」
二人で息を合わせて、教科書の入った棚を持ち上げる。そのまま前方に移動させて、ゆっくりと下ろした。
「じゃあここも掃除機で吸っておくね」
「いや、いいよ。ここは俺がやるから、さっきのところ頼んでいいか?」
「了解」
一人暮らしになると面倒なのが部屋の掃除。そんなのは、一人でするよりも二人でする方が早い。そんな理由で二人はお互いに部屋の大掃除を手伝っていて、今日は歩夢の部屋を掃除する日だった。
「やっぱ棚の裏とかけっこう埃たまるよなー」
「私なんか、勉強机の裏悲惨なことになってたからね」
「俺ほんと卓袱台で助かったわ」
お互いに軽口を叩きながら箒で掃いたり掃除機で吸ったりして、埃を取り終えた棚の裏などを雑巾で拭いていく。
「咲蕾ー、今日の昼どうする?」
「んー。取り敢えず一旦帰ってシャワー浴びて、……面倒臭いし、贅沢して坂の上の牛丼屋行く?」
「いいなー。豚丼食いてー」
「私麻婆丼ー」
牛丼屋なのにお互い牛丼でないメニューを宣言しながら、歩夢は咲蕾を呼んでもう一度棚を持ち上げた。壁に引っ付くように、場所をずらして下ろす。
「あとはベッドのあたりだね」
歩夢が毎晩寝ているベッドは、今はマットレスも布団も取り払われていた。敷布団も掛け布団もマットレスも、掃除を始める前にシーツを剥がしてベランダに干してある。
先にベッドの周りの埃を取ってから、歩夢が頭の部分、咲蕾が足の部分に移動して、いっせーのーでで持ち上げた。何回目かとなる重量に、歩夢は咲蕾の腕にかかる負担を心配する。
予め話していたように、そのまま横にスライドさせた。ベッドの脚の下には、やはりそれなりの量の埃がこびりついていたようだ。
咲蕾がベッドの脚の裏についた埃を雑巾で拭いている間に、歩夢は掃除機で床の埃を吸いとった。薄くなっていた茶色から灰色が抜けていく。更に雑巾がけをすると、鮮やかな茶色に戻る。
最後に二人でもう一度ベッドを持ち上げ、元の場所に戻した。ベッドをスライドさせていた場所に落ちた埃も含め、部屋全体に掃除機を掛け直す。
「よし、終わったあー!」
「お疲れー。今何時?」
「十一時二十四分。シャワー浴びて、あー、十二時半に下でいいか?」
「うん。じゃ、また後でね」
お昼を食べるための待ち合わせを決めて、咲蕾はシャワーを浴びるために同じアパートの自室へと帰った。
歩夢もすぐにシャワーを浴びた。洗面所と浴室をつなぐ扉の向こうから、シーツと先程まで来ていた服が入った洗濯機の動く音がする。
シャワーを終え着替えを済ますと、まだ十一時半を過ぎたあたりであった。スマホをいじり時間をつぶす。
十二時半少し前。
歩夢がアパートの一階に下りると、共有玄関には既に咲蕾の姿があった。
「わりい、お待たせ」
「全然待ってないよ。さっさと行こ」
「食った後どうする?」
「ボウリングかな」
「今度は負けねえぞ」
「こっちこそ」
軽口を叩きながら、二人は並んで坂道を登っていった。
一話の語り手だった七夕華と、二話の語り手だったのどかは高校生で仲良しです。今回主人公の歩夢は大学生です。のんびりライフは同一の世界ですが、ネタを使うため登場人物が多くなります。が、大きく分けて四つの集団なので許していただければと。
歩夢は、七夕華の兄椋介(一話未登場)の友人です。咲蕾も椋介の友人です。