第8話『いつも通り』
夜灯の言った一言で俺は警戒体制を取ったものの、誰かが来る気配は無い。
「よ、夜灯…。な、何も来ないぞ…?」
「…。」
夜灯は何も言わない。
無視している、と言うよりは今から来る“何か”に構えている様な感じだった。
俺は、少し警戒したまま夜灯を見つめる。
急にドアがガラッと音を立てて勢いよく開いた。
急な事で少し驚いたが、ドアに手をかけていたのは太陽先生こと、村上先生だった。
村上先生は息を切らしながらも笑って、そして少し申し訳無さそうに教室に入ってきた。
「皆、悪い。少し用事があって遅れてしまった!」
先生がそう言うとクラスの1人が「用事って何ー?」というのを始めに、口々に「トイレでしょ」や「彼女出来たんじゃね」など冗談半分で笑いながら好き勝手に言い始める。
先生も冗談なのが分かっているから笑って「違うぞー」と返している。
俺は、いつもの先生といつものクラスの雰囲気だったので警戒を解き夜灯を横目で見る。
「何も無いじゃないか。」
「…。」
夜灯はやはり何も言わず、警戒体制を取ったままだった。
いい加減呆れた俺は、いつもの様に先生の話を聞き、HRが終わるのを待った。
「…ひ、旭!」
「は、はい!」
ボーッとしていた為、呼ばれたことに気づかなかった俺はビクッと肩が跳ね、返事をする。
「後で少し話があるから、職員室…じゃなくで生徒指導室に来なさい。」
「え…、あ、はい。」
何か悪い事をしてしまったのだろうか。
全く心当たりが無い。と言うか大体、俺は何か問題を起こしたことは無いし、これからも無い…筈だ。
それに今気づいたが俺は今日は日直だった。先生が日直の俺になにか頼みたかっただけかもしれない。
そう、俺は深く考えないようにした。
「…。」
結局、夜灯はHRの間ずっと黙ったまま警戒を解かなかった。