第5話『付喪神師』
「矢本、この子は一体なんの付喪神?」
「うーん、多分だがこの図書室の、それこそ私と同じぐらいの年月のある本じゃないか?」
「もっとハッキリしなさいよ。」
「流石に本人じゃなきゃわからないよ、安住(苦笑)」
「あっそ。」
「あ!あの、司書さん……」
「ん?もう安住でいいわよ?」
「じ、じゃあ安住さん…。これはいったい……。」
「野宮ぁぁぁぁあ!!」
ドスッ
「ぐはっ!!」
「もう、死ぬんじゃねぇかと思っただろうがよぉぉぉお!!」
「だ、大丈夫だったろ。つか、俺は今のタックルで死にそうだったつの。」
「の、野宮ぁ!!」
「はぁ。たく……」
「これで、私のことも信じてくれたかな?野宮よ。」
「や、矢本…
俺は……」
やっぱり、信じたくないよ。
こんな事があるなんて、信じたくない。
けど、身に起こったことだから、
いつまでも信じないわけにもいかない。
「取り敢えず、説明するわね。
私と矢本は付喪神師よ。」
「「……はい?」」
「付喪神師って、なんですか…?霊媒師みたいな…?」
「まぁ、そんなとこよ。付喪神師は付喪神専門のお祓い屋ってとこね。」
「付喪神って祓えるんですか?」
「付喪神のついている“物”については祓えないわ。けど、付喪神のついている“人”は祓えるの。その男の子がいい例だわ。付喪神はね、人にもつくのよ。それこそ、幽霊の様にね。」
「で、でも、付喪神って…」
なんのために人につくんですか。
そう聞こうとしたのを見透かされたように安住さんは言った。
「人を食らうために、付喪神は人につくのよ。」
「食らっ…!?」
「付喪神って、百年以上たったものにしか出てこないでしょ?それはね、付喪神が生命を貯める時間なの。付喪神であれるようにね。けどその百年たった後は自分でどうにかしないと生きていけないのよ。だから、食らうの。
付喪神は人の精神を食らうものと、人の肉体ごと食らうものの二つがあるわ。今回は精神だけで助かったけど、肉体ごとだと危なかったかも。」
肉体、ごと……
ゴクリと唾を飲み込む
考えると悪感がした。
俺はそんな窮地に立たされていたのか、と。
「そんな、人を食らう付喪神を私達、付喪神師は『災付喪神』と呼んでいるわ。」
「災、付喪神……。」
「そして、矢本や今のその男の子とかは『正付喪神』と呼ばれているの。」
どういうことだ、いったい…?
「正付喪神は食らわなくても生きていけるってこと…?」
「そうじゃないわ。正付喪神も確かに食らわなきゃ生きていけない。けど、正付喪神は人の不幸を食らうのよ。」
不幸……?
頭がこんがらがってきた。
災付喪神は人の精神と、肉体を食らう、
けど、正付喪神は人の不幸を食らう…?
訳が分からない。
けど、もっと訳の分からないことがある。
「確かに、付喪神師のこととか、付喪神のこととかは、多少わかりました。
けど、なんで急に俺達に付喪神が見えるようになったんですか?」
「そうだよ。今まで見えた事なんて無かったのに…。」
「あぁ、それはこいつのせいよ。」
そう言いながら安住さんは矢本の頭を叩く。
「……どういうことですか。」
「矢本があんた達にも付喪神が見えるようにしたのよ。正付喪神に故意に触られた人間は付喪神が見えるようになるから。」
なるほど、だから今までは見えなかったのか。
「ん…」
「あ、起きた。」
「えっ……
に、人間!?!?
ハッ、こっちは付喪神師!?!?」
「あなた、名前は?」
「わ、我は夜灯であ、ある」
「夜灯、貴方はなんの付喪神?」
「我はこの指輪の付喪神である」
若干震えてないか?
夜灯にとって、付喪神師って怖いものなのか?
しかも、その指輪は……
「俺の、兄貴の……」
「野宮、兄貴いるのか?」
「あぁ。ただ、兄貴は五年前にどっかに行ったきり帰ってこない。」
その兄に預けられた指輪…
ずっと奥にしまいっぱなしだったんだな……
「つか、それ。百年以上も、たってたんだ。」
「それはそうだ。これは、先祖代々、伝わってきたものである。」
「はぁ!?」
なんで、兄貴はそんなもん、俺に……?
「と、取り敢えず、付喪神なのはわかった。だけど、どうして急に俺を襲った。」
「それは……
わからん!!」
「わ、わからないだって!?」
「あぁ!!」
「そりゃそうよ、野宮くん。災付喪神は正付喪神になる時に記憶は全て消されるんだから。」
「な、なんだよ、それ……。」
そんな、都合よすぎだろ……
「とにかく、野宮くん、風見くんは今日あったこと、誰にも話しちゃダメだからね!」
「「は、はい…!!」」
「じゃあ、さっさと部活戻る!!」
「「あ……。」」
そういえば部活、抜けてきてるんだった!!
「やっべぇ、野宮またな!!」
「俺もやべぇんだよ!風見まちやがれ!!」
ダダダダッ
「なんであの子達をこっちに引き込んだの。」
「なんでって、安住もわかるだろ?
あの子達には付喪神師になる、才能がある。」
「才能、ね……」
野宮達は立ち去った後にこんな会話がされていたなんて、知る訳がなかった。