第3話『不審者』
開けたそこにいたのは
「ん?よぉ、人間。」
見知らぬ男の人だった。
意を決して入ったそこに知らない男性。
俺はなんでこの人がここにいるのか、
なぜこの人がここを開けることが出来たのか、
第一この人は何の目的でここに来たのかが全く理解出来ず一人であたふたとしていた。
風見も焦っているのかと思いきや、こいつはこいつで冷静だった。
こんな時にこんなに冷静で居られるものかと内心、関心もしたが風見が怖かった。
「な、なぁ、これって先生達呼んできた方がいいパターンだよな?」
「いや待て。それより先に俺は聞きたいことがある。」
なんだよ、と思いながら風見が言うのを待つ。
「お前…司書さんの彼氏か!?」
「はぁ!?!?」
風見がそんな事言うために先生を呼ぶのを躊躇したのかと少しのイラついた感情と
歳上相手に“お前”はマズイだろという感情、
そして司書さんに彼氏がいるのかという不安が入り交じり、俺はよくわからなくなった。
「彼、氏…?何だそれは?それより、人間。よく来た。近々、安住としか話せてなくてな。ほかの人間とも話したいと思っていたところなのだよ。
それに…」
そこで一息つくと男性が目の前から
消えた。
驚いた俺は逃げたか、と思ったが
ふと思う、俺達は今、扉の前にいる。
じゃあ、どこにも逃げる場所なんてないじゃないか。
いや、隠し扉か何かあれば別ではあるが…。
俺が考え込んでいると、スッと俺の目の前に手が出てくる。
なんだよ、と思い顔を上げる
「っ!?いつの間に!?」
その男性はいつの間にか俺の目の前にいた。
風見も流石に急に現れた事にびっくりしたのか、警戒態勢をとった。
「うん、やはり面白いな、人間。名を名乗れ。」
「お、れは……」
教えていいのだろうか。どう考えても怪しい、こんな奴に。
チラッと横目で風見を見るが
風見は、言うな、じっとしてろ、と目線で訴えてくる。
「…?…あぁ!先に名乗るのが筋であったな!いやぁ、すまないね。
私は矢本。この本についている付喪神だ。」
「つくも、がみ……?」
「なんだ、つくもがみって?何かの紙か?」
俺は小声で風見に説明する。
「付喪神って言うのは長い年月が経った物に精霊っていうか、まぁそんな感じのものが宿ったものでね。神様っぽいけど人をたぶらかす妖怪みたいなものなんだ。」
「へーぇ。なるほどね~。」
「よく知ってるな。人間。」
!!小声で言ったはずなのに聞こえてたんだ。なんという地獄耳。
「さて、私は名乗ったぞ。次は貴様達の番だ。」
とは言われても付喪神なんて言われて信じられるかと言われたら確実に信じられない。第一、そんなものが存在するのか自体危うい。俺は幽霊も妖怪も信じない質だから余計に信じられない。
「付喪神……」
風見は付喪神のこと自体知らなかったから多分信じられないんじゃないかな?まぁ、俺の予測だけど。
「何をしている。早く名乗らんか!」
相手は見るからに怒っている様子だ。
一刻も早く、どうにかする必要があるのだが
そんな事考えていてもどう考えても不審者、もしくは頭が可笑しい人に自分の名前を教えるべきではないということは意図も簡単にわかることなのだ。
どうする事が正しい事なのか、いよいよ頭の整理がつかなくなってきた。
「俺、風見幸也。よろしく、矢本!」
・・・・・・。
言ったぁぁぁあぁぁあぁあぁぁぁ!?!?
なんで言った!?風見はホントは馬鹿なんじゃないのか!?今、この状況下、自分の名前を言うのがどういう事かわかっているのか!?
不審人物、もしくは頭が可笑しい人に自分の名前を教えることで自分にも危害が加わったらどうするんだ!?
「風見、お前正気か!?」
「えっ、何が?」
「付喪神なんてホントに存在する訳ないだろ!?こいつはただの不審者だ!そんな奴に名前を教えてどうするんだよ!!」
「だって、相手も名前言ったし…」
「変なとこで律儀だな!大体、相手の名前がホントの名前かなんて判断出来ないだろ?偽名って可能性も」
そこで俺の言葉は途切れた。
なぜなら
「そこで何やってんの!!」
司書さんが来たからだ。