うちのお嬢様はどこかおかしい
──うちのお嬢様はどこかおかしいらしい。
曰く赤ん坊の時は夜泣きをせず、ハイハイより先に歩き始めた。
曰く、2歳の時にはもう、1人で専門家が読むような本を読む事が出来た。
──はっきり言って異質。
昔は天才だと持て囃されていたらしいが、あまりの異様さにその言葉を向ける人間はほとんどいなくなったそうだ。
うーむ…なんか緊張してきた。
お腹の辺りに若干違和感を感じるぞ。
…
さて、どんな人かなっと。
そう思いながら、私はドアを開けた。
「あら?貴方が私の騎士様?」
すぐ閉めた。
OKOK、確認しよう。
私は今日からこの屋敷のお嬢様に仕えることになった者。
部屋を間違えたという可能性は?
…ない。
自慢だが、記憶力には自信がある。
さっき、部屋に来る前、この屋敷の最古参だという執事に場所は聞いてきた。
おかしい…!絶対におかしい!
何故、何故部屋の中が植物園状態なのだ!?
それに、容姿こそ良かったが、お嬢様というより、白衣を羽織って、研究員という格好をしていたぞ!?
…よし、もう一度入ってみよう…
「いきなり扉を開けたと思ったら、いきなり閉めて、ノックの一つもできないのかしら?私の騎士様?」
…どうやら、この白衣の美人が私の仕えるお嬢様らしい
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緊張のあまり、ノックをすることを忘れていた。
…それにしても、凄い量の植物だな。
見渡す限り緑、緑…って訳でもないな。
何種類かの果実が実っていて、それがこの緑の空間では浮いて見えた。
「私はね、美味しいジュー、いや、果実水が飲みたいのよ」
「…へっ?」
「それだけって顔をしているわね?その通りよ?」
…まじですか
「マジよ?」
「…よく私の考えていることがわかりましたね」
「貴方、何を考えてるか顔に出る人みたいね」
初耳だ…
「さてと…っよいしょ」
お嬢様が座っていた木の根っこから立ち上がり、謎の円柱状で、ものすごい色の液体の入った筒から、その液体をコップに移し、こっちに持ってきた。
なんだろう、ものすごく嫌な予感がする。
「貴方は、私の騎士
つまり、私のお願いなら何でも聞いてくれるのよね?」
「…叶えられる範囲ならですが」
「この果実水の毒mゲフンゲフン試飲してくれないかしら?」
「おい今毒見って言わなかったか!?てか毒見って言ってただろ!?」
お嬢様が怪しい物を持って、ジリジリ近づいてくる。
その姿が俺には死神に見えるッ!
「口が悪くなったわね。
さあ、飲みなさい!」
「嫌だ!俺はまだ死にたくないぃ!?」
「大丈夫よ!品種改良をして味は良くなってる…はずよ!」
品種改良?ってなんだってむぐェ
「あれ?貴方だんだん顔色が…って!大丈夫!?泡吹いてるわよ!?」
あれ…だんだん意識が…遠のいて…あぁ…
薄れゆく意識の中、聞こえた言葉があった。
「あららぁ…失敗しちゃったか…うぅ…異世界で知識無双は無理かな?」
異世界?知識無双?謎の違和感を感じながら、俺の意識は闇の中に沈んでいった。
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「はっ!?」
目が覚めた。
なんだあの液体…あれが果実水?
俺には命を刈り取るナニカにしか思えなかったぞ…
そんな事を考えていると、頭の裏に違和感…うえぇ!?
「あら?目が覚めた?」
お嬢様の膝の上!?お嬢様の巨峰が目の前に…いかん、鼻が熱くなってきたっ!
鼻血が吹き出ないうちに飛び上がるように起き上がる。
すると、お嬢様はいたずらが成功した子供のような笑顔になった。
「あはっ!貴方は退屈しないような人ね!」
…畜生、可愛い…
「あっ、そうだった!
貴方の当面の仕事は、試飲よ」
…前言撤回。
こいつは悪魔だッ!?
「…やめていいですか?」
「ふふっ♪だぁめ♪」
…ちくせう…
お嬢様
金髪碧眼のボンキュッボン。
性格は自由奔放で騎士を困らせていく。
転生者。
騎士
茶髪黒眼の優男。
騎士になったばかりで、慣れていないため、口調や作法が付け焼刃。
お嬢様のモルモットと化していく未来。
…南無。